第249話卒業記念 part1
249.卒業記念 part1
長かった冬休みが終わり、新学期である3学期が始まった。
まぁ、3年生の3学期は、新学期と言っても1週間しかなく、直ぐに卒業となるのだが……
自宅が遠距離の者などは、申請をすれば卒業証書を送ってもらえるので、2学期以降、出席しない者も少なからずいる。
貴族で卒業式に出ない者はまずいないのだが、平民となると卒業式のためだけに、王都へ来ると言うのは経済的に厳しいのだ。
実は我がDクラスにも卒業式に出ない者が3人おり、本人達はとても残念がっていた。その姿を見たアンナ先生は有志を集めて、手製の卒業式を2学期の最後に計画したのだ。
3人はサプライズであった卒業式に、涙を見せて喜んでいたのは良い思い出だったりする。
やはりアンナ先生は能力だけで無く、人の心を大切にするとても良い先生だと思う。
直ぐにでは無いが、追々ブルーリングにも学校が必要になる。
その時には是非とも声をかけさせて貰うつもりだ。
3学期になってからは授業らしい授業は無く、自由登校のような形で、各々が王都で世話になった人への挨拶や思い出作りに時間を使っている。
そんな中、エル友であるガイアス、マーク、ティファから依頼を一緒に受けないか?とエル経由でお誘いを受けた。
ガイアス達とは、1年生の頃は何度か依頼を一緒に受けたが、使徒と成ってからは一緒に行動する事が殆ど無かったので、気にはなっていたのだ。
騎士学科と魔法学科は、校舎が離れていたのも大きいかもしれない。
「ルイス、ネロ。ガイアス達から一緒に依頼を受けないか、誘われたんだけとどうする?」
「ガイアス達か、元気にしてるのか?」
「エルの話では相変わらずみたいだ」
「アイツ達らしいな。依頼は勿論、参加だ」
「ネロはどうする?」
「オレも行くぞ。ガイアス達がどれぐらい強くなったか楽しみだぞ」
「ネロ、ガイアス達にオレ達の成長を見せてやろうぜ」
ネロは獰猛な笑みを見せてルイスに頷いている。
獣人族と魔族のお前達とは、ガイアス達は比べ物にならないと思うぞ……くれぐれも本気を出し過ぎないように、眼を光らせねば。
それと卒業に当たって、爺さんから言われている事が1つある。
この3年間、隠してきた実力を卒業までに〝全て見せておけ”と言われているのだ。
〝全て”と言う事は空間蹴りの3歩の制限も無しと言う事だろう。1番はエルとの本気の模擬戦を見せるのが良いだろうが、実力が披露できれば手段は選ばない、とも言われている。
依頼の時にでも、どんな方法が良いか皆に聞いてみようと思う。
依頼を受ける当日---------------
オレとエルは少し早く来すぎてしまい、ギルドの中でミルクを飲んでいると、何人かの顔見知りの冒険者から話しかけられた。
「久しぶりだな。また迷宮探索の下準備か?」
「いや、今日は学園の友人と依頼を受けるんだ」
「お前が受けるような依頼があるのかよ?」
「ゴブリン狩りでも何でも良いんだよ。卒業記念の狩りだからな」
「そういえば、お前まだ学生だったんだよな」
「ああ。しかもEランクの駆け出しだ」
「お前がEとか……まぁ、頑張れよ」
「ああ、ありがとう」
こうしてみると、ギルドにもそれなりの数の知り合いが出来た。
最初はあれだけ怖がられていたのに……だいぶ前のジョーの啖呵が効いているのだろう〝子供相手にみっともない”あれから徐々に怖がられなくなったのだ。
思い返せば、このギルドには思い出が沢山詰まっている。次はいつここに来れる事になるのか……感慨深く辺りを見回していると、ルイス達とガイアス達が揃ってやってきた。
「丁度、そこで会ってな」
「そうか。久しぶりだな、ガイアス、マーク、ティファ」
「ああ、元気にしてたかよ、アルド」
久しぶりだと言うのに、会話を交わせば、お互い驚くほど自然に接する事ができる。
マークとティファとも挨拶を交わしていると、ルイスが割って入ってきた。
「依頼を受けてきたぞ、今日の依頼はハーピーの巣の捜索だ。因みに巣を見つけて殲滅すれば、追加ボーナスが出るぜ」
「ハーピーの巣の探索だと?どのランクの依頼なんだ?」
「ネロがDランクだからな。Cランクの依頼だ」
「Cだと?流石に少し無茶じゃないか?」
「ガイアス、ドラゴンスレイヤーが2人もいるんだぜ。ゴブリンやウィンドウルフを狩らせる訳には、いかないだろ」
「そうだった……エルファスとアルドは、ドラゴンスレイヤーだったんだ」
「オレやネロでもハーピー程度は余裕だ。安心してくれ」
「分かったよ。リーダーに従うぜ」
そうして早速、ルイスを先頭に狩場へと向かって行く事となった。
因みに狩場はアポの丘と呼ばれる、野生のアポの木が群生している丘である。
ハーピーはここに生るアポの実を目当てに巣を作るらしく、定期的に巣を潰さないと大きく成りすぎて、手が付けられなくなるそうだ。
「移動は2時間前後だ。早速、向かうぞ」
ルイスの声に、それぞれが頷いていく。
隊列はエルを先頭にエルの左後ろにガイアス、右後ろにマーク、そして1番後ろにシンガリとしてティファだ。
ルイスとネロは遊撃で、エル達の鉄壁の傘を利用して出たり入ったりを自分で決めて敵を減らしていく。
そしてオレは今回、敢えて後衛として立ち回らせてもらう事にした。
実際に自分がやってみないと気付かない事があると思い、前衛に守られての行動となる。
エルの後ろに立ち前衛の回復や補助を担当してみると、意外な事に前衛の動きの中で止めてほしい動きが幾つかあるのに気が付いた。
例えば、こちらの射線上に立つ事……母さんからも敵と自分の位置に気を付けろ、と口酸っぱく言われるのはこの事かと、実感として納得する事ができたのは良い経験だったと思う。
「だんだんとアポの木が増えてきたな」
「ああ、アポの丘に入ったみたいだ。全員、索敵は密に。相手はハーピーだ、上にも警戒するのを忘れるなよ」
ルイスの声が響く中、警戒しながら進んでいくと、マークが声をあげた。
「ルイス君、右手の空で何かが動いた気がする」
「全員止まれ。そのまま自分の担当の方向を索敵。ネロ、見てこれるか?」
「大丈夫だぞ。行ってくるぞ」
その場で10分ほど待っているとネロが素早く戻ってくる。
「木の上に巣があったぞ。数は見えただけで20~30。実際はその倍はいると思うぞ」
「30の倍だと?そんな数は想定外だ。直ぐにギルドに知らせて討伐隊を編成してもらわないと!」
「まぁ、待てって。アルド、20ぐらいまで減らせるか?」
「減らすのは問題無いが、流石に1匹も後ろに通さないのは無理だ。エルが手伝ってくれれば大丈夫だと思うが……」
「聞いたか?エルファス」
「兄さまの討ち漏らしを、倒せば良いんですよね?」
「ああ、そうだ。2人で先行して貰って、ハーピーを20まで減らしたら戻ってくれ」
「分かった」「はい」
「じゃあ、ゆっくり進んで、キャンプ地を捜すぞ」
こうして、とんとん拍子で段取りが決まっていき、ゆっくりとハーピーの巣へと近づいていく。
ネロに先導してもらい5分ほど進むと、戦闘するのに適した開けた場所にでた。
「ネロ、ハーピーまでは、まだだいぶあるのか?」
「直ぐ近くだぞ。あの木に巣を作ってるはずだぞ」
ネロが指す方向には、周りの木より一段高い大樹が生えており、ハーピーが何匹も出たり入ったりを繰り返している。
「よし、ここをキャンプ地にしよう。アルドとエルファスは申し訳ないが、20まで間引いたらキャンプに戻ってくれ」
「分かった」「はい」
「タイミングは任せる。本当はこんなズルしたく無いんだけどな。卒業記念だと思って、オレ達のお守りを頼むな」
「大丈夫た。気にするな」「いつも丁度の敵がいるわけじゃないですから」
オレとエルはそれぞれルイスに言葉を返し、ゆっくりと前にでる。
「エル、良いか?」
「何時でも良いです」
「じゃあ、行くか」
「はい」
ハーピーの巣に突っ込むのには、些かリラックスし過ぎではあるが、オレ達は空間蹴りで空に駆け上がっていく。
先ずは群れの規模を正確に知りたい……局所ソナーを500メードで、巣の方向に打ってみる……34……53。
全部で53匹のハーピーがいるが、1匹だけ反応がおかしい……恐らくは上位種……
「エルは此処らで討ち漏らしの掃除を頼む。それと、たぶん上位種が1匹混じってる」
「分かりました」
ありがたい事に、さっきのソナーで都合良くハーピーはこちらに向かってきている。ソナーに反応したと言う事は、ハーピーは魔法を使うのか……
取り敢えず、上位種は後回しにさせて貰って、先ずは数を減らさせて貰おうと思う。
群れで迫ってくるハーピーの、一番密集している場所を目掛けてオレはバーニアを吹かした。
加速して行く中でオレは魔力武器(大剣)を発動し、ウィンドバレット(魔物用)を10個纏う……準備は万端、更にバーニアを吹かし、すれ違いざまに大剣を振り切ると、2匹のハーピーが上下真っ二つになり落ちて行く。
ハーピーにはバーニアの挙動が想像の埒外だったようで、オレを見て呆然と立ち尽くしている。
隙だらけ……これでは殺してくれ、と言っているような物だ。
ご希望通りに吶喊したいが、接近戦に大剣は取り回しが悪い。直ぐに魔力武器を解除し、目の前のハーピー達に突っ込んでいく。
ハーピーの間を縫うように走り抜けながら、すれ違いざまに首、額、心臓に短剣を突き立ててやった……15。
これで近場のハーピーの殲滅は終了だ。辺りを見ると、オレを無視して進もうとする個体が8匹もいる……直ぐに待機中のウィンドバレット8個を発動し、撃ち抜いてやった……23。
「後10匹で戻るぞー」
エルに聞こえるように大声で叫ぶと、直ぐに返事がかえってくる。
「兄さま!1匹も来ませんー。少しぐらい通して大丈夫ですよー」
確かにオレはハーピーを1匹も通していない。少しぐらい通さないとエルも暇なのかもしれない。
「分かったー、少し通すぞー」
「はいー、分かりましたー」
わざと2匹のハーピーを通し、残り8匹……そろそろ上位種が出て来ても良いのだけれど……
依然としてハーピーの上位種は現れない。
挑発も兼ねて局所ソナーを打ってみると、おかしな事に上位種がいなくなっている。
嫌な予感がする……オレは局所では無く300メードの範囲ソナーを打った……いた、下だ!
上位種は上空を飛ばず、地上すれすれを飛んで移動していたのだ……
マズイ、ルイス達の方に向かってる!
「エル、悪いが残りは任せる。オレは上位種を追う!」
「え?あ、はい!」
完全にオレのミスだ。オレはバーニアを最大で吹かし上位種を追った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます