第250話卒業記念 part2
250.卒業記念 part2
血相を変え必死にバーニアを吹かすオレを見て、ルイス達は瞬時に対応してみせた。
「アルドの様子がおかしい。警戒を!」
ルイスの指示に素早く隊列を組むが、エルとオレの位置には誰もいない……
「アルドの位置は無しで良い。エルファスの位置はティファが入れ。ガイアスとマークはティファの援護を」
「「「はい」」」
オレは最速で上位種に向かうが、ダメだ。追いつかない……
「ルイス!上位種が1匹、そっちに向かってる!時間を稼いでくれ!」
そう叫んだ時には上位種は、ルイス達から目視できる距離だった。
「来るぞ!」
ルイスの声に最初に反応したのは意外な事にティファで、上位種の動きに盾で殴りつけるバッシュを合わせようとしている。
恐らくは女性である自分の膂力では上位種を抑え込めないと判断し、バッシュの勢いを足して何とか止めようと考えたのだろう。
そんな思惑が絡まり合い、上位種は結果的に隊列の中心にいるティファに向かって、真っ直ぐに突っ込んでいく。
そして、ティファとハーピーがぶつかる寸前、ハーピーは体の向きを入れ変え、勢いはそのままに足をティファに向けた。
結果、ティファの盾とハーピーの爪が正面からぶつかり合うが、バッシュの勢いを足しても、女性であるティファの膂力では上位種の勢いを止める事は難しかったようだ。
「ティファ、逃げろ!」
オレの声が響く中、上位種は体勢を崩したティファの首筋に、耳まで裂けた口を開け、今にも噛みつこうとしている……
目を背けたくなる光景を覚悟したが、上位種はティファに噛みつく寸前に身を翻し、羽ばたいて距離を取った。
ルイスだ。ルイスは上位種がティファに噛みつこうとした処を、顔めがけて両手剣を突き入れていた。
上位種はルイスの突きを躱すために、仕方なくティファから距離を取ったのだ……
そんな上位種を空から襲う者がいた……何時の間にかネロは空間蹴りの魔道具を使い、上位種の上空から真っ直ぐに落ちてくる。
空を飛ぶハーピーだからこそ、上空から攻撃を受ける事に慣れていないのか……上位種の頭にネロの片手斧が振り下ろされるまで、気が付いた様子はなかった。
オレは上位種が完全に死んでいる事を確認すると、ルイスに声をかけた。残りのハーピーをエルと2人で全滅させる、とだけ告げ、再び空へと駆け上がっていく。
仕切り直すにしても、一度落ち着いた方が良い……と言うかオレ自身が落ち着きたかった。
先ほどのルイスとネロの動きは、EクラスやDクラスの物では無い。
模擬戦をしたとして、一瞬の瞬発力だけならCクラスのジョーよりも、さっきのルイスやネロの方が怖いくらいだ。
オレは驚きと嬉しさと少しの畏れを抱きながら、エルと合流した。
「エル、ありがとう。上位種はルイスとネロが倒してくれた。後はこいつ達を殲滅するだけだ」
「いえ、怪我人はいないんですよね」
「ああ、詳しくは後で話すよ」
「分かりました。取り敢えず、ハーピーを殲滅します」
「頼む」
こうしてエルとハーピーに向かっていったが、ハーピーの残りは10匹程しか残っておらず、2人でアッと言う間に狩り尽くしてしまった。
「エル、戻ろう」
「はい」
ルイス達の元に戻ると、ティファがガイアスとマークに文句を言っている……ルイスとネロは何とも言えない苦い顔で立ち尽くしていた。
「ティファ、さっきはすまなかった。ソナーで上位種がいるのは分かっていたが、まさか隠れてそっちに向かうとは思わなかったんだ」
「それはしょうがないわ。あの数を1匹も通さないなんて、その方がおかしいんだから……」
ティファはオレには怒りを見せないが、振り向いてガイアスとマークを睨み付けた。
「私が腹立つのは、この2人よ!ルイスに私のフォローをしろって言われてたのに、何の役にも立たないんだから……ルイスはすかさず攻撃を入れてくれたし、ネロなんて空を飛んでトドメをさしてくれたわ……」
ティファは自分で言って、その言葉の違和感に眉を顰めている。
「空を飛んで…………ネロ。アナタ……まさか……エルファスと同じ空間蹴りを覚えたの?」
ネロは嘘が大の苦手である。ティファからの質問を受け、オレ、エル、ルイスを何度も見返し、どうしたら良いかを悩んで、軽いパニックになっていた。
「ティファ、スマン。言えないんだ」
ルイスのようにサンドラ伯爵家から籍を抜くなら兎も角、ガイアス達はバーク侯爵家の直系であり、跡取りでもある……とても魔道具の事は教えられない。
ネロでは無くオレが質問に答えた事により、ブルーリング家としての秘密だと察してくれ、それ以上は誰も何も聞いてはこなかった。
残りのハーピーはオレとエルで殲滅したので、今は落ち着くために休憩をとっている所だ。
ハーピーの巣は潰したので、休憩後にハーピーの討伐証明と魔石を取れば今日の依頼は終了となる。
「しかし、さっきの動きは凄まじかったな……」
「うんうん。ルイス君とネロ君が、あんなに腕を上げてたなんて驚きました」
「だいぶ母さんに絞られたからな」
「オレはジョー達に、戦い方を沢山習ったぞ」
「そうか……2人共、もう一人前の冒険者だな。今日は一緒に来れて良かったぜ」
ガイアスは少し寂しそうにルイス達と話していた。
不満では無いのだろうが、学園を卒業すると貴族家の嫡男として、今までのような自由は無くなるはずだ。
当然ながら冒険者の真似事など、絶対に許される訳も無い。
卒業か……これからは自分の責任で生きていく事になる。守ってくれていた親から巣立ちして、オレ達は学園と一緒に、子供の自分も卒業するんだろう……
感慨深く皆の顔を見回していると、つい思っている事が口から零れてしまった。
「オレはお前達と知り会えて、本当に良かったよ……」
流れをぶった切って、いきなりこんな事を言ったのに、全員が茶化したりはせずに、何かを考え出した。
それぞれが思う事があるのだろう、静まり返った中で、ゆっくりとルイスが口を開く。
「オレもお前達に会えて良かったよ。最初はサンドラ家を飛び出して、冒険者になるつもりだったからな……あの時、飛び出してたら、たぶんオレは死んでたと思う……家まで迎えに来てくれてありがとよ」
ルイスは気恥ずかしいのか、顔を背けてこちらを見ようとはしない。まぁ、面と向かって言われても、オレも恥ずかしくなってしまうのだが……
弛緩する空気の中、ネロが口を開く。
「オレも良かったぞ。この3年で金の稼ぎ方と、自分で生きていく方法を教えて貰った。とても感謝してるぞ。オレは難しい事は分からないけど、お前達とはずっと友達だぞ」
ガイアスは何かに納得したかのように、1度、頷いてから話し出した。
「お前達は真剣だったんだな。そこまでの強さを得るのに……オレも遊びのつもりは無かったが、どうやら覚悟が違ったみたいだ。それがこの差なんだろうな…………あ、それと、オレもお前達に会えて良かったぜ」
取って付けたような物言いに、周りが突っ込むのは当然で、そこからは終始、笑いながら王都までの道のりを歩いていった。
ギルドに到着してルイスとエル、ネロが報告に行ってる間に、爺さんから〝実力を見せておけ”と言われているが、どんな方法が良いのか皆に聞いてみた。
「実はお爺様から〝エルとオレの実力を学園の生徒に見せておけ”って言われてるんだけど、どうしたら良いと思う?」
「そりゃあ、また面倒な話だな。エルファスなら1年の時の競技会優勝者だから、模擬戦でも見せれば少しは人がくるかも知れんが……」
「そうだよな。どうやって見て貰うか……卒業式に乱入して模擬戦なんてしたら捕まりかねん」
「いや、それは普通に捕まるからな。絶対にやるなよ」
考えてみれば自分の実力を評価してほしくて、人は大会などの発表の場へ必死になって参加をするのだ。
今まで実力を隠しておいて、急に今度は実力を見てください、と言うのは些か都合が良すぎるのだろう。
オレとガイアスが悩んでいる中、ティファがぶった切った。
「アルドとエルファスの実力を見せるだけなら簡単でしょ。2人なら空間蹴りを見せれば、人は驚きながら付いてくる筈よ」
「あー、空間蹴りか、確かにな……オレ達は慣れたけど、あれは伝説の飛行魔法だからな」
「そうですよね。卒業式が終わって皆が帰る所で、エルファス君は騎士学科、アルド君は魔法学科で空間蹴りを使えば、2つの学科の生徒を引き寄せる事が出来そうですね」
「2つの学科の生徒か……そうなると模擬戦は何処でやるのが良いと思う?3学年となると、そんな人数が入れる演習場なんて無いぞ」
「いっその事、正門の広場で良いんじゃ無いか?あそこなら商業科の連中も通るだろうしな」
「なるほど、空間蹴りを使った模擬戦なら後ろから見えない、何て事も無いだろうし、スペース的に人も充分に入る」
「ああ、しかし今まで実力を隠してたのに、どういう風の吹き回しだ?」
「今までは実力がバレて、生活がし難くなるのが嫌だったんだよ。ただ卒業してからはブルールングに帰るからな。お爺様としてはオレ達の実力を見せておいて、ブルーリングへの抑止に使いたいんだと思う。今回のタイミングで、ギルドにもドラゴンスレイヤーとして報告するらしいからな」
「なるほど、ドラゴンスレイヤーが跡継ぎか……どんな盗賊団も絶対にブルーリングには寄り付かないだろうな」
こうしてガイアス達のお陰で、オレ達の実力を見せる方法は決まり、更に細かい所を考えているとルイス、ネロ、エルが報告を終えて戻ってきた。
「聞いて驚け。今回の報酬は1人当たり、白金貨1枚に金貨1枚と銀貨4枚だ」
「白金貨って……」「マジか。そんなに行ったのかよ」「口紅が欲しかったのよね……」
「腐ってもCランクの依頼だったからな。それに巣の殲滅ボーナスに、上位種の討伐ボーナスでこの金額だ」
ルイスの言葉を聞くと、ガイアス達は急に何かを考えこんでしまう。
「オレ達は何もしてない。これは貰えない……」
マークとティファも同じ気持ちのようで、苦い顔を晒している。
「おいおい、最初に決めてあっただろう、報酬は人数割りだって。最後に反故にするのはルール違反だぜ」
「いや、しかし……」
ルイスはわざと大きく溜息を吐いてから、話し出した。
「貢献度なんて言ったらエルファスとアルドが殆どになっちまうよ。オレとネロだって、アルドが追い込んだ上位種を1匹倒しただけなんだからな」
「……」
「元々、ドラゴンスレイヤー2人と比べるのがおかしいんだよ。これは思い出作りで、街で買い物する代わりに依頼を受けた、それだけの事だ……コイツ等にとっては」
「ハーピーは思い出作りで殲滅されたのかよ……」
ルイスは肩を竦めて軽く笑ってみせた。
「って事で早く手を出せ。金貨は重いんだよ」
「ああ、じゃあ、遠慮なく頂くぜ」
そう言ってガイアスはやっと報酬を受け取り、その姿を見たマークとティファも恐縮しながら報酬を受け取ってくれた。
その後は少しだけ会話をしてから、それぞれの家へと帰っていく。
後、数日もすると卒業式である。きっと後で振り返った時には、人生の節目だった、と思うのだろう。
オレはエルと並んで歩きながら、この3年間を思い返していた。
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