第9話幼馴染
9.幼馴染
5歳の誕生日からしばらく経った、ある日の朝食。
「母様。武術を習いたいです」
「武術?誕生日の事を気にしてるの?あれは護衛を付けてなかっただけでアルにはまだ早いと思うわ」
予想通りの答えである。ここからが本当の交渉だと心の中で呟いた。
「じゃあ体を鍛えるだけでいいです。騎士団の演習場の端で体を鍛えて良いですか?」
「鍛えるだけで良いの?それならこの部屋の中でも良いんじゃない?」
「外で少し身体強化も練習したいもので」
ジト目を浮かべてオレを見つめてくる。
「じー……」
「母様、そんなに見られては穴が開いてしまいます!」
「もう……」
「ダメですか?」
「いつやるの?」
「毎日、朝食の後にしようかと思います」
「勉強の時間じゃない。ダメよ」
「最近は自習で本しか読んでいません。執事のローランドからも10歳までの勉強は終了と言われています」
「むうう」
「母様~お願い~お~ね~が~い~」
「もう、しょうがないわねぇ。ただし危ない事はしないでね」
「ありがとうございます!危ない事はしません」
「もう、誕生日みたいな事はやめてよ」
これで午前は身体強化、午後は魔力操作の修行をする事に決まった。
朝食の後に早速、演習場に向かう。エルはかわいそうだが勉強だ。お兄ちゃんの分まで頑張ってほしい。
演習場は館の裏手にあり敷地は繋がっている。
道すがら周りの景色を、楽しみながら歩いて行く。
「最近はちょっと暑くなってきたなぁ。そろそろ夏だな」
オレの誕生日は5月、今は6月。このフォスターク王国は日本と似た気候のようだ。
演習場に到着すると熱気が立ち昇っている。オレのすぐ近くで騎士が1対1での模擬戦をしていた。
ハーフプレートの騎士が2人、剣と盾を器用に扱い打ち合っている。お互い有効打が出ないようで接戦だ。
模擬戦とは言え本物の戦闘を興奮しながら見ていると、後ろから声をかけられた。
「アルド様?」
オレは模擬戦から目を離し後ろを振り返る。
そこには誕生日に知り合った、アシェラとハルヴァが立っていた。
「ハルヴァ。誕生日は助けてくれてありがとう。ずっとお礼を言いたかったんだ。アシェラちゃんもハルヴァを呼んでくれてありがとう」
「いえ。礼には及びません。こちらこそアシェラを逃がしてくれたそうで、本当にありがとうございました」
ハルヴァは騎士式の礼をする。
「アシェラ、お前もお礼を言いなさい」
「ありがとう……」
一通り挨拶や礼などをこなした後での世間話。
「ハルヴァは騎士だから分かるけど、アシェラちゃんはどうして演習場にいるの?」
「実は……アシェラの母親が病気で今は実家に帰省しているんです。その間、無理を言って騎士団の敷地にお邪魔している状態でして……」
「そうか。大変だな……」
アシェラは母親が病気と言われて下を向いて落ち込んでしまった。
「アシェラちゃん、一緒に遊ぼうか」
「アルド様にそんな事はさせられません」
「良いから、良いから」
オレはもう一度アシェラに尋ねる。
「アシェラちゃん、一緒に遊ぼう」
「うん、あるどと遊ぶ」
「アシェラ。アルド様と呼びなさい」
「うん……あるどさま」
ハルヴァの気持ちは分かるが、オレの気分はよろしくない。
「ハルヴァ悪いけどちょっと黙ってくれ」
「は、はい」
オレはハルヴァを黙らせてアシェラに話しだす。
「アシェラちゃん。アルド様じゃなくて、アルドって呼んで」
「じゃあアシェラのことも、アシェラって呼んでいいよ」
「わかった、アシェラ」
「うん。アルド」
こうしてオレは幼女の友達をゲットした。
アシェラはオレと遊ぶという事で、ハルヴァは騎士団の仕事へ向かう。普段のアシェラは騎士団の敷地内を散歩したり昼寝をして時間を潰していたらしい。
演習場の隅に移動し身体強化を使い体を動かしてみる。まずは普通に歩く……徐々に速く……軽く走る……そう思った瞬間、見事に転んだ。
まだまだ魔力の操作が甘いようだ。
そんなオレをアシェラはずっと見ていた。
暫くしてから休憩をしようとアシェラの隣に座る。
「アシェラも何かしたい事があればして良いんだぞ」
「!!じゃあ、あれ教えて」
「あれ?」
「光る丸いヤツ」
「あー、魔力操作かな?」
魔力を集めて光の玉をつくる。
「それ。どうやってやるの?」
「これかぁ、ちょっと難しいなぁ」
どうしようか考える。
(まあ、屋敷に連れてって母さんに聞いてみるか)
騎士団の人間にハルヴァへの伝言を頼み、オレはアシェラを連れて屋敷へと帰った。
屋敷へ戻り自室へと入ると、普通の事のはずなのに、オレの後ろはハーメルンの笛吹の様な状態だ。
「母様、エル、ローランドも何してるの……」
「か、母さんは別に何もしてないわよ~」
「兄さま。その子は誰ですか?」
「エルファスぼっちゃま。直球ですぞ」
「ハァ、この子はアシェラ。7歳。騎士団第2小隊隊長ハルヴァの1人娘だよ」
皆にアシェラの事を紹介する。
「アシェラ。一番左がオレの母様。真ん中が弟のエルファス。右が執事のローランド。そしてあの廊下の角から半分出てるのがオレの父様だ」
「アシェラです。よろしく……」
「まあ。かわいい。アルドが初めて女の子を連れてきたわ。クリクリなお目々に銀髪。あなたお嫁にきなさい」
「……母様……お嫁は措いといて、相談があります」
「ん?なあに?」
「実はアシェラは魔力操作を自分でしたいらしいんだけど、どうすればいいでしょうか?」
母様は急に真剣な顔になる。
「アシェラちゃん、なぜ魔力を操作したいのかしら?」
「光る丸いヤツが綺麗だから……」
「なるほど、綺麗だから自分でもやってみたいわけね」
「うん、それにアルドが悪い人をやっつけたのも、光るヤツで出来るようになったって、おとうさんから聞いたから」
「なるほど……アシェラちゃん、アルドは恰好良かった?」
アシェラは急に眼を輝かせながら
「うん。アルドの足が光ったらビューンって跳んで、悪い人をバーンってやっつけたの。かっこ良かった。アシェラもやってみたい」
「そっか……アルドの足が光ったのが見えたのね……」
母さんが何かを考えている。
「良いわ、魔力操作を教えてあげる」
「母様、良いんですか?」
「アルが頼んできたんじゃないの……」
「そうですが、ダメって言われるかと思いました」
「そうねぇ、身体強化の魔力が見えるのはちょっとした才能よ。アシェラちゃんにはきっと才能があるわ。ただし、弟子として扱うけど良いかしら?」
「アシェラ、弟子としてなら教えてくれるらしいぞ」
「アシェラ、教えてほしい」
オレはハルヴァ家の事情を話しアシェラの普段の生活を簡単に説明した。
「分かったわ。アシェラちゃんは朝から屋敷にきなさい。お父さんが帰る時間まで屋敷にいて良いわ」
「母様、良いんですか?」
「師匠が弟子の世話をするのに問題は無いわよ。良いわよね?アナタ」
廊下の角から半分顔を出した父さんは頷いて了解の意思を示している。
こうして“あれよあれよ”という間にアシェラは母さんの弟子になり、オレ達と魔法を習う事になった。
ラフィーナは1人企んでいる……次代のブルーリング家の大事を……
(アルもエルも私の髪と一緒で栗毛なのよねぇ。ヨシュアみたいに金髪だったら良かったのに……アシェラちゃんの銀髪とクリクリのお目々、白い肌。アルかエルと結婚すればきっと可愛い子を産むわ。これは嫁の第一候補ね……ふふふ)
5歳と7歳で気の早い事を考えていた。
昼寝後---------------------
オレとエルはそれぞれ魔力操作の修行を始めた。
エルは使える魔力を増やす修行、オレはさらに緻密な操作をする修行を行う。そして修行の最後に魔力共鳴を行いお互いの実力を引っ張り上げるのだ。
チートと言うには地味だが、2倍の成長速度となるとなかなか凄まじい。
アシェラはと言うと、オレ達もやった瞑想状態に入り魔力を感じる修行だ。まずは魔力を感じられなければ何も始まらない。
オレはエルと魔力共鳴させてもらって1日で覚えたが、普通はもっと時間がかかるものらしい。
オレは椅子に座り右手の指を2本立てる。そして2本の指先に魔力を集中させ光の玉を2個作ろうとする……1本なら簡単な事が2本だと一気に難易度が跳ね上がる。
何度も失敗し、何度もやり直す……この地味な修行が大事なのだと母さんは言う。
チラっとエルを見ると、指を1本立てていつもの倍の大きさの光の玉を作り出していた。
これは負けられないとオレは自分の修行に集中していく。
夕食後、屋敷にハルヴァが迎えに来た。ハルヴァは恐縮しきっていたがアシェラが母さんの弟子になった事を聞くと、とても喜んでいた。
その時に娘が“氷結の魔女”様の弟子になれて感激しているとか何とか聞こえてきた。
“氷結の魔女(笑)”……どこかのタイミングで是非、聞いてみたい。
3日後---------------------
瞑想状態のアシェラが自然体で立っている。
どれぐらいそうしているのか……オレが気が付いただけでも30分はそうしている。
不意にアシェラの眼がゆっくりと開く。
アシェラはポツリと呟く。
「あたたかいのが流れてた……」
その言葉を聞き母さんは微笑みながら話し出した。
「アシェラ、それが魔力よ。次はその魔力の一部、塩の一粒ぐらいの大きさを好きに動かしてみて」
「はい。お師匠」
アシェラは元気に返事をすると、すぐに瞑想に入っていく。
2人はお互いの呼び名を「お師匠」と「アシェラ」へと変えた。呼び名など何でも良いと思うのだが、母さんに言わせると大事なことらしい。
オレも「お師匠」と呼ぼうか?と聞いたら涙目で反対された。こだわりの線引きがどこにあるのか難しい……
しばらく経った闇の日--------------------
闇の日は休日だ。
アシェラは身体強化にも興味があるらしい。毎週、闇の日はオレ、エル、アシェラの3人で体を動かして身体強化の練習をする。
なんでも自分より小さなオレが、ジャロッドを殴り飛ばした瞬間が眼に焼き付いたらしい。
まだ5歳と7歳の体だ。休憩を多めに取るようにして、ケガだけは無いように注意する。
しかし1日中、身体強化をしている訳にもいかない。時間を持て余してしまう。
オレは知識チートを実行する事に決めた。
「これからカンケリを始める」
「兄さまカンケリって何ですか?」
「かんける?かんけろ?」
「カンケリとは。甘く切ない思いが詰まった熱いパトス。それがカンケリだ」
「なんだかすごそうですね……」
「熱いパトス」
「って事で説明するぞ」
オレはカンケリの説明を始めた。
「それじゃ、やってみるぞ」
「はい。兄さま」
「やってみる」
「鬼はオレからだ。100数えたら始めるからな。演習場からは出るなよ」
「分かりました」
「分かった」
そうしてオレ達は途中に暇そうな騎士を仲間に入れたりして夕方まで遊んだ。
「そろそろ帰るか。ハルヴァが迎えに来る時間じゃないか?」
「うん、でも、もうちょっと遊びたい……」
「また来週あそぼうぜ。来週はケイドロを教えてやる」
「けいどろ!」
「兄さま。ケイドロってなんですか?」
「来週、教えてやるよ。じゃあ、帰るぞー」
「わかったー」
「わかりました。兄さま」
(日本の年と合わせると39歳か……5歳児と遊ぶ39歳……ないわぁ。でもオレは遊んでやってるだけだから……楽しんでなんかないんだからね)
こうしてアシェラはオレ達2人の幼馴染になった。
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