第285話世界
285.世界
「アルドぉぉぉぉぉぉ!!!」
僕を庇うために盾を出した事で、グリムの攻撃が当たりアルドの右腕を切断されてしまった。
それまでグリムがアルドを何処かに飛ばそうとしているのを、僕のチカラを注いで阻止していたのに証が右腕ごと落とされてしまうなんて……
グリムの高笑いの中、アルドはマナストリームの中へと吸い込まれていく。
僕は直ぐにアルドを何処へ飛ばしたかを尋問しようとしたが、グリムの体が端から徐々に崩れているのに気が付いた。
「グリム!その体……精霊王様の意志に背いたから……」
「やった、やったぞ!これでお前が最高の使徒だ!ティリス!!お前が最高なんだぁぁぁぁ!!!」
極彩色の体が崩れていく中、グリムはかつての使徒の名だけを叫んでいる……そんな事よりアルドを何処へ飛ばしたのかを聞かなければ!
僕がグリムへ掴みかかろうとした時、風が吹いた。
風……いや、アシェラだ。可愛らしい服をきたまま素手でグリムを掴むと、勢いのまま壁に叩きつけている。
「お前!アルドを、アルドを何処へやった!!!」
鬼気迫るアシェラに押し潰されそうな中でもグリムは何の反応もせず、かつての使徒の名だけを叫んでいる。
「ハハ、ティリス……お前が……最高の使徒……」
「アルドを!アルドを返して!ボクのアルドを返せぇぇぇ!!」
「ああ、ティリス……直ぐに……行く……やっと……会え……る……」
アシェラの絶叫の中ですら過去の使徒の名だけを呼び続け、グリムは崩れて消えてしまった……僕達の問い掛けには何も語らずに。
それからアシェラ達にアルドは何処へ飛ばされたのかを問い詰められたが、僕には分からないと正直に伝えた。
同じ精霊なのに何故分からないんだ、と酷い八つ当たりをされたけど、僕にはもう何かを言い返す気力すら無い。結局、アシェラ達に何も言い返さずに、もう1人の使徒であるエルファスの下へ飛んで今日、起こった全てを伝える事にした。
「エルファス、話がある…………」
いきなり現れた僕を見てエルファスは驚いていたけれど、僕の様子を見てただ事じゃないと悟ったようだ。
そこからはアシェラ達の反応と一緒だった。姐さんを途中で呼び出し、同じ説明をして……そして何処に飛ばされたのかを聞かれる……
「僕にだって分からないんだ!アルドとの証を切り離されて、今は繋がりが無いんだよ!!アルドが生きているのか死んでいるのかさえ、今の僕には分からないんだ……」
そんな僕の言葉を聞き姐さんは眉間に皺を寄せると一言だけ呟いた。
「そう、取り敢えずアルの家へ行きましょう」
姐さんの言葉でエルファスも一緒に移動して行く。他にもアルドの父親やマールが付いてくるけれど、今の僕にはどうでも良い。
何かとても疲れた……マナストリームの深層から帰って直ぐにこれだ。
本当は帰って休息を取りたいけれど、今は少しでも情報がほしい。エルファスの頭の上で丸くなってそのままアルドの家まで連れていってもらった。
アルドの家に戻ると3人は酷い事になっていた。アシェラは青い顔でアルドの腕を抱えて座り込み、オリビアは呆けたように立ち尽くしている。ライラは膝を抱えてただ泣くだけで、3人の普段の様子からは考えられない姿だ。
「3人共、エルが収納に食料と水を入れたわ。アルが落ち着いたら連絡をくれる筈よ」
姐さんの言葉に3人は反応し、エルファスへ矢継ぎ早に質問をしている。
「エルファス、アルドから連絡は?手紙は来てないの?」
「アルドの安否は分からないのですか?双子には不思議なチカラがあると聞いた事があります。アルドは何処にいるのですか……」
「エルファス君、アルド君を、アルド君を助けて。お願いします……お願いします……」
「ま、待ってください。収納に水と食料は入れました。ただ手紙はきてないです。それとミスリルナイフが無くなっているので、兄さまが使っているのかもしれません……」
「エル、ミスリルナイフって地竜を倒した時のよね?」
「はい、あのミスリルナイフは地竜戦でも耐えてみせたので、超振動を使う時の切り札にしようって兄さまが収納に入れてたんです」
「じゃあ、アルドは地竜と同じレベルの敵と戦ってる?」
「アシェラ、待ちなさい。3人共、少し落ち着いて」
「アルドがいないのに……お師匠は何でそんなに落ち着けるの?ボクには無理……だって、アルドが……アルドが……」
「ふぅ、皆、良く聞きなさい。あの子が簡単に死ぬと思う?アオ、ちょっと聞きたいんだけど、アルは間違いなく飛ばされたのよね?殺されたんじゃないわよね?」
「うん、姐さん。アルドは間違いなく飛ばされただけ、それ自体で命に係わることは無いよ」
「じゃあ、次の質問よ。何処に飛んだのかは全く分からないの?方向や距離だけでも良いの。分かる事は無い?」
「ごめんなさい、方向も距離もマナストリームに乗って移動するのに意味は無い。僕に分かるのは飛ばされたって事だけだ」
「分かったわ。じゃあ、最後よ。マナスポットは危険な場所にもあるのかしら?例えば断崖絶壁や火山の中とか、飛んだだけで危険な場所よ」
「飛んだだけで危険な場所……基本的に生物が生きていけない場所には無い筈だけど1つだけ……水の中にもマナスポットはあるんだ。海の一番深い場所だと、きっと浮き上がるまでに息が持たないと思う……」
「そう……」
全員が暗い顔の中、エルファスがアシェラの手を見ながら口を開いた。
「アシェラ姉、その指輪、絆の指輪は相手の安否が分かると言われています……何か分かりませんか?」
エルファスは藁にも縋る気持ちで聞いたのだろう、現に結婚のプレゼントを自分、マール、クララの3人で決める時、店員にそう言われて買う事に決めたのだから。
言われた3人は驚いた顔をすると、直ぐに左手の薬指にある指輪を縋る様に見つめている。
アルドは確か左手の薬指に絆の指輪をしていた。どうして左手の薬指かを聞いたときには小さく笑っただけで何も答えはしなかったが……
落とされた腕は右だ。であれば絆の指輪は今もアルドとともにあるはずだ。
そんな祈りにも似た時間の中、3人の指輪にはゆっくりと赤い光が灯り始めた……
「アルド……良かった……本当に良かった……」
「アルド、私は信じていましたよ。早く帰ってきて……」
「う、うわぁぁぁぁん、アルドくん……」
3人がそれぞれの反応を示していると、姐さんが口を開く。
「どうやらその赤い光がアルドの無事な印なのね?」
アシェラが嬉しそうにゆっくりと頷いた。
「そう、良かった……」
姐さんの目にも光る物が見える……僕も心の底からホッとしたのは良いが、まだ生きているのが分かっただけだ。
皆、分かっていないと思うが、この世界は広い。アルドは不思議な事にこの世界の有り様を理解している様子だったが。
しかし他は違う……この世界の広大きさを理解していない。例え生きていたとしても戻って来られる可能性はとても低い筈だ。
そもそも飛ばされたアルド自身、自分がどこにいるのかも分からない可能性が高い。
僕は心を鬼にして残酷な事実を話し出した。
「皆、聞いて欲しい。アルドが生きているのは凄く嬉しいのは僕も一緒だ。でもこの世界はとても広い。皆が想像しているよりずっと……」
「アオ、何が言いたいのかしら?」
姐さんから殺気が滲み出ている……でもこれを言うのは僕の役割だ!
「アルドを探しに行くのは止めた方が良い。何の手がかりも無く、闇雲に探して見つかる可能性は0だ」
「それで……万物を理解する精霊様はどうしろと言うのかしら?」
姐さんはもう殺気を抑えようとはしていない。話が終われば僕は殺されてしまうのだろうか……
「自分の出来る事、自分の成すべき事をするべきだ。見つかる当ての無い旅で時間を浪費するのはアルドもきっと望まない!」
姐さんだけじゃない、アシェラやライラ、更には僕のもう1人の使徒であるエルファスからも殺気が噴出している……
張り詰めた空気の中、やはり最初に姐さんが口を開いた。
「ふぅ、上位精霊であるアナタがそこまで言うのには理由があるのよね?この世界の有り様を私達に教えてくれないかしら。精霊王の分体で上位精霊でもあるアオ殿」
あれからアルドの家の食堂に移動して、皆にはお茶を1杯飲んでもらって冷静になってもらった。
これから話す事は頭に血が上った状態では、とても受け入れられない筈なのだから。
「じゃあ、この世界の大きさを説明するよ。きっと信じられない事ばかりだと思うけど冷静に聞いてほしい」
「分かったわ。感情的になる者は私がここから叩き出すからアオは安心して説明して頂戴」
「ありがとう、姐さん。じゃあ先ずはこの世界の大陸についてだ。この世界には大陸と呼ばれる陸地が大きく分けて3つある。一番大きな物からウーヌス大陸、ドゥオ大陸、トレース大陸と3つだ。そして人が住む大陸はウーヌスとドゥオの2つだけ。トレースは遥か昔、魔物に飲まれてしまった大陸だよ」
僕はマナを可視化させて空中に球体を作り、この世界の地図を書き込んでいく。
「そして僕らが要るのがウーヌス大陸の北、大体この辺りになる。そしてフォスターク王国がこれぐらい……エルフとドワーフの国はここで……獣族と魔族の国はこの辺りっと……出来た。これが僕達が住んでるウーヌス大陸の大まかな地図だよ」
「ちょ、ちょっと待って、アオ……フォスターク王国ってこんなに小さいの?」
「うん、姐さん。更に言うとブルーリング領はこの点ぐらいの大きさかな」
「この点がブルーリング領……」
全員が言葉も無く僕が作った世界地図を見ながら、アルドを探し出す事の難しさと探しに行く無謀さを理解したのであった。
「アオ、アナタの言う、探しに行く事の無謀さは分かったわ。でも1つだけ教えて欲しい事があるの」
「何かな?」
「アナタ、もしかしてアルに見切りを付けてるんじゃない?エルがいて、アシェラや私達がいれば使徒としての仕事は出来るもの」
「姐さん!確かにゴブリンの時はアルドを見捨てようとも考えたけど、今は絶対に見捨てたりしない!居場所が分かるなら僕はマナストリームの深淵にだって探しに行くよ!」
姐さんの目が僕を真っ直ぐに見つめている……暫く僕と見つめ合った後、姉さんは口を開いた。
「アオ、ごめんなさい。さっきの発言は撤回するわ」
「分かってくれれば良いよ」
「改めて聞くわ。アオはアルの事をどう考えてるのかしら?」
「……この世界は広い。精霊である僕でも闇雲に探して見つけるのは不可能だと思う。そして、こちらから探し出すのと、向こうから帰ってくるのでは難易度に雲泥の差がある。確かに自力で帰ってくるのも難しい事は事実だよ……でもアルドなら……アルドはどこかこの世界の有り様を理解している節があった。僕はアルドが帰って来るのを待つのが一番確実だと思う」
「ただ待つのが良いと?」
「勿論、出来る範囲で情報を集めるのは当然だよ」
「アルは本当に帰って来られると思う?」
「生き延びてさえいればアルドは絶対に帰ってくる……先ずは1日、これは海の中のマナスポットに飛んだ場合、1日生き延びられればきっと陸地なりに辿り着けているはずだ。次に1週間、これは海の孤島やトレース大陸に転移した場合だよ。1週間も休まずに人は生き続けられない。1週間生き延びられればきっと休息が取れる環境にあるはずだ」
「そうね、1週間生き残る事ができれば……私達は冒険者ギルドにエルフの国、出来る全てを使ってアルの情報を集めましょう。アシェラ、オリビア、ライラ、アナタ達には辛い1週間になると思うけど、自暴自棄にならないで。アルはきっと帰って来る。私にはそう思えるの……」
「お師匠……アルドは……アルドは……」「お義母様、私も……し、信じようと思います……」「アルド君……」
アシェラはアルドの腕を胸に抱き続け、青い顔でじっと耐えている。しかし今は先ほどのような直ぐにでも飛び出していく雰囲気は無い。
オリビアは気丈に振る舞ってはいるが足が震えて立っているのがやっとの状態だ。
最後にライラは先ほどから指輪の赤い光を見ながら、膝を抱えて泣いている。3人全員が放っておいて良い状態では無い。
結局、この日は姐さんが強制する形で、3人を領主館で保護する事になったのだった。
地図でゲス(>_<)
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