第141話再びの迷宮探索

141.再びの迷宮探索




超振動の魔力枯渇で気絶して、気が付いた時には辺りは真っ暗だった。

腹が減ったので厨房に食料を漁りに行った所をメイドに見つかり執務室へと連れて行かれてしまう。


執務室には爺さん、父さん、母さんがおり昼に失敗して出した爆音の件を怒られ魔力枯渇の原因もゲロさせられた。


「アルド、お前は何か騒ぎを起こさないと死ぬ病気なのか!」


開口一番、爺さんが爆発した。口調は厳しいが、いつもオレ達には甘い爺さんの怒りをオレは初めて見たかもしれない。


「すみませんでした。お爺様……世界の為にどうしても……地竜に届く攻撃を開発したかったのです……」


13歳で使徒と言う大役を負わされ、それでも前に進んで行く必死さをアピールしながら爺さんを懐柔していく。


「むぅ……地竜か、、、それで出来たのか?」


じじいチョロイぜ!


「はい。完全ではありませんがキッカケは掴めました」

「見せて」


「え?」

「今すぐ見せて」


いきなり母さんが難しい顔をして爺さんとの会話に入ってきた。


「今ですか?」

「今よ」


「ここではちょっと……」

「じゃあ、外に出ましょう」


母さんは勝手に話を進めて部屋を後にする……オレ達男3人は謎の気迫に押されてその後に続いていく。

裏庭に着くと母さんは護身用のナイフを渡してきた。


「そこの大岩はアルがやったんでしょ?こっちの大岩に試してみて」


流石は氷結の魔女だ。状況だけを見て何があったのかを、凡そだが理解している……普段の生活で、その性能の5%でも出してくれれば……

オレは詮無い事を考えながら魔力武器(大剣)を出した。


「じゃあ行きますよ。失敗するかもしれませんから少し離れてください」


間違いがあって破片が飛び散ったりするかもしれない。少なくとも最初の振動の時は飛び散っていた。

3人が3メード程後ろに下がる。本当はもうちょっと下がって欲しいのだが……


「まぁ、良いでしょう。じゃあ、行きますよ」


オレは魔力武器(大剣)の刃を徐々に振動させて行く。

辺りは真っ暗だと言うのに10秒程の集中の後にヒィィィィンと羽音の様な高音が聞こえ、元のナイフの刃が少し赤熱している。


「行きます」


そう声を出して大岩へ片手に持った魔力武器(大剣)を振り抜く。振り抜く。振り抜く……

一文字斬りから振り下ろし、逆袈裟切りを振るった。


魔力武器(大剣)から羽音が消えてナイフに戻っていく……


「失敗か?」


爺さんがそう呟くと同時に大きな音を立てて大岩が6個にズレて行く。

父さんと爺さんは割れて行く大岩を呆然と見ているが母さんは次の事を考えていた。


「アル、明日は騎士の使ってる盾を切って貰うわ。出来る?」

「……分かりませんがやってみます」


どうやら母さんも地竜の情報を集めていた様だ。思いがけずに明日は騎士の盾でこの超振動を試せる。

今は真夜中と言う事でオレはなんとか開放された。


しかし、寝すぎな程に寝たオレはゆっくりと冬の露天風呂を楽しんだ後にベッドに潜り込んだ。





朝は珍しく起こされるまで眠っていた。原因は勿論、露天風呂に入って夜更かしをしたせいだ。

アシェラがやさしく起こしてくれたのは少し意外だった。


肩を揺すりオレの名を呼ぶアシェラを目覚めて最初に視界に入れる。

寝ぼけた頭でアシェラに手を延ばし腕を握ると少しだけチカラを入れて引き寄せた。


オレに覆いかぶさる様な姿勢のアシェラを抱きしめながら”おはよう”と声をかける。

そのまま少し赤い顔のアシェラが”おはよう”と返してくれた。


ここは天国かと思った瞬間、アオが指輪から飛び出してくる。


「定期報告だよ。”問題なし”人は暇だねぇ。何回、同じ事をすれば気がすむんだろ。ん?アルド。そのままアシェラに種を仕込みなよ。きっと丈夫な子を産んでくれるよ」


アオは言うだけ言って姿を消した。今、ここにはアシェラだけだ。

真っ赤になりながらも、この場から逃げようとしないアシェラに……オレは手を延ばそうとして……固まった。


扉のスキマからエル、マール、母さん、父さん、クララまでもがオレ達を興味深そうに見ていたのだ。

オレがとびきりの殺気を込めて扉を睨むと雲の子を散らす様に逃げていく。


オレは起き上がりアシェラに少し長めのハグをして朝の身支度を始めた。




屋敷の裏庭-----------




朝食を摂って、一服していると母さんがオレを呼びにきた。

既に騎士団が使う盾は用意されていて、立てた杭に結びつけられている。


「アル、昨日のヤツこの盾に使ってみて……」


珍しく真剣な表情の母さんがそう話す。

オレは一つだけ頷くと、眠って満タンなった魔力で超振動を魔力武器(大剣)にかけていく。


何度目かのヒィィィィィンと言う羽虫の様な音を聞きながら


一閃


もう一閃


一文字斬りからの振り下ろし。

魔力武器を解除する頃には盾は音を立て4つの鉄の塊へと変わっていた。


この場にいる、爺さん、父さん、母さん、エル、アシェラ、マール、セーリエ、の全員が驚愕の表情を浮かべている。


「母様、どうでしょうか?」

「正直、驚いてるわ。でもアル、今の魔力はどれぐらい残ってるか教えてくれる?」


「……半分を少し切るぐらいです」


最初は希望を受かべてオレを見ていた皆の眼に暗い影が浮かぶ。


「アル、その剣をどれぐらいの時間使えるの?」

「……恐らく30秒程かと」


更に皆の瞳には絶望の色が浮かび出した。


「そう、実戦の中になるけど特訓ね。斬る寸前だけ発動出来る様になるまで迷宮探索よ」


実戦で修行するのは良い。オレもそのツモリだったから。

ただ、”斬る寸前だけ発動”出来るようになるまで”迷宮探索”を続ける。


それは限界まで迷宮で修行すると言う意味になるはずだ。

安全マージンをどこまで取るかは長期連休の残りと相談になるだろう。


その間に迷宮を踏破できなければオレかエルのどちらかはブルーリングに帰らないといけない。

リミットは後1ヶ月と少し……


今は朝一番だ。エルに魔力を貰って、もう1回……

昼寝をして更にもう1回……


たった数回の修行で事足りるとは思えないが、今 出来る精一杯だ。

母さんの言う様に瞬時に発動出来るように迷宮探索の合間にも練度を高めようと思う。


一抹の不安は地竜を屠った冒険者が騎士団の盾を斬った。のは事実らしいが、騎士団の盾を斬れれば地竜を斬れるなんて誰も言って無いのだ。

騎士団の盾はあくまでも目安に過ぎない。超振動を過信しないで性能も今以上の物になる様に修行しなければ。




迷宮探索 初日の朝-----------------




約束の時間にギルドへ到着すると既にローブ姿のナーガさんが待っていた。


「おはようございます、皆さん」

「おはよう、ナーガ」

「「「おはようございます。ナーガさん」」」


ナーガさんの横には荷馬車があり食料だろう木箱が3つと小さめの人力車が積んである。


「ナーガさん、この荷物は?」

「5人分の食料20日分と人力車よ。荷物を運ぶにも戦利品を運ぶにも必要よ」


ナーガさんの言う事に納得していると、ふと疑問が浮かぶ。


「階段はどうするんですか?」

「そこは手運びね。この人力車も2人で持てる大きさの物を選んできたわ」


食料を食べて余った場所に戦利品を入れていくのだろうか。

早速、皆で馬車に乗りナーガさんから詳しい説明を聞く。


最初に前回のお試し探索と違い本番の探索の流れをナーガさんから説明された。まずは、この荷馬車で賢狼の森へと移動する。到着して荷物を降ろしたら御者の役目は終了。王都へは自力で帰って貰う。

賢狼の森に入ってからは人力車に荷物を乗せ、交代で荷物を運んで行く。


迷宮探索は普通、安全を考慮して一番実力が低い人間に合わせる事になる。そうしないと、そこから櫛の歯が欠けるようにパーティ自体が瓦解してしまうからだ。

1人に疲労を蓄積させると結局はパーティ全体の危険に繋がってしまう。


なので荷物も交代で運ぶ。勿論、体力のある者は長い時間引くのは当然の事だ。

最終的には、そこの判断はリーダーの差配になるのだろう。この様にある程度の信頼関係が無いとパーティは成立しない。


飛び入りのメンバーが戦利品を独り占めする為にパーティメンバーを見殺しにしたなんて噂は枚挙に暇が無いほどだ。


そうして何日かの迷宮探索を終えると地上へ戦利品を運ぶことになる。その際に1人がパーティーから離脱し、王都で馬車を手配して戻ってくるのだ。


その時の馬車の台数や手伝いの人間の数は戦利品の量と質とで相談となる。

因みにオレ達の目的でもある魔瘴石を得るには地竜を倒さなくてはならない。


試しにナーガさんに聞いてみる。地竜を倒した場合には最低でも馬車は5~6台、手伝いの人数は最低20人は必要になるらしい。

これが大まかな探索の流れとなる。


因みに”アオ”の事だが母さんからナーガさんへと話しは通してあった。

アオの詳細を説明すると、こちらの事情にナーガさんを巻き込んでしまう。なので朝と晩に”青い喋るタヌキ”が出るけど驚かないで。と、ものすごーく適当な説明と口止めだけをしてあるらしい。


そろそろ馬車に乗って1時間程になる。前に見た賢狼の森の入口が見えてきた。



今回の探索は10日を目処に潜る予定だ。いきなり地竜に合う事は無いと思うが……第一に全員の生存を目標に探索して行こうと思う。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る