第26話遠征の予感

26.遠征の予感





10歳の初秋のある日の昼食。



「今度、新兵を鍛えるために、遠征軍を出す事になったんだ」

「そうなの?」


「よかったら、アル達に見学させようかと思うんだけど、どうかな?」

「うーん、どの辺りまで入る予定なの?」


「新兵の実戦訓練だからね、森の浅い場所までかな」

「そうねぇ、それなら問題ないと思うわ」


「学園に入るまでに1度は実戦を見学させたいけど、来年 遠征軍を出すか分からないからね」

「そうね。魔法使いになるなら、実戦を1度くらいは経験しないとねぇ」


「あくまで見学だよ。実戦はちょっと早すぎるかな」

「あら、私はアシェラの年には実戦を経験していたわよ」


「君はほら、10年に1人の逸材だから」

「フフフ、冗談よ。見学だけね。分かってるわ」


父さんと母さんが何やら面白そうな話をしている。

内容はオレ達の事らしいし、凄く聞いてみたい。


「母様、遠征って何ですか?」


エル、アシェラ、マールも思ってるであろう事を代表で聞いてみた。


「このブルーリングには魔の森と言われる魔物が住む森があるの。放っておくと魔物が溢れて近くの村や街を襲うようになるわ。だから定期的に魔物を間引くために軍を派遣してるのよ」

「魔の森ですか……」


「魔の森はね、言い伝えでは魔物の主がいるって言われてるのよ」

「魔物の主……」


「誰も見た事が無いから眉唾だけどね」

「なるほど。魔物って動物とは違うんですか?」


「魔物は体のどこかに魔石を持ってるわ。ランタンや水の魔道具の燃料になる石ね」

「魔石……」


「魔道具職人が魔石を使って魔道具を作るのよ」

「魔石から魔道具……」


「そうよ、興味があるのなら学園で授業を選択すると良いわ」

「なるほど。分かりました」


「話を戻すわよ」

「はい、すみませんでした」


「今回、魔の森の魔物を間引くための遠征軍が編成される事になったの」

「……」


「で、その遠征軍に同行させてもらって実戦を見学しよう、って話よ」

「実戦に参加させてもらう事は出来るんですか?」


「それはヨシュアから禁止されたから、ダメ」

「そうですか……」


「まあ、良い子にしてたら考えてあげてもいいわ」

「!分かりました」


父さんが苦笑いを浮かべながら会話を聞いている。




昼食後-----------




「母様、さっきの話ですが全員ですか?」

「そこなんだけど、アナタ達の希望を聞いておきたいの」


「希望ですか」

「そうよ。当然、危険はあるもの。無理して行くものじゃないと思うし」


「母様、僕は実戦に参加したいです」

「アルは分かってるから良いわ」


何故だ……


「皆はどう?無理はしないで正直に答えて」

「僕はちょっと怖いですが皆が一緒なら……参加したいです」

「ボクは参加したい。実戦でも問題無い」

「私は……怖いです……まだ魔法も満足に使えないので……」


「分かったわ。アルとアシェラは参加。エルは保留ね。マールは不参加」

「ラフィーナ様、申し訳ありません……」


「マール、謝らないで。アナタの立場なら当然よ。スタートがアル達より4年も遅かったんですもの」

「はい……」


「これからゆっくりとチカラを付けていきましょう」

「はい」


ここでマールの不参加が決定した。


「結局エルはどうするんだ?」

「僕はどちらでも……」


母さんはエルの態度を見て、少し呆れた様子を見せる。


「エル、自分で決めなさい。人に判断を任せるのは感心しないわよ」

「はい……」


「……」

「……参加…します」


「無理してるなら、止めておきなさい」

「無理はしてないです。行きたいのも本当です。ただ、ちょっと怖いだけで……」


「まあ、当然の反応ね。この2人がおかしいだけで、エルが普通の反応よ」

「僕はノーマルです」

「ボクは普通」


「はいはい……見学で同行するなら、どこの部隊が良いかしらね……」

「「はいはいで流された……」」


「やっぱり魔法師団が一番かしら……ちょっとヨシュアと相談してくるわ」


母さんは呟きながら父さんの執務室に行ってしまった。





残されたオレ達は、4人で先ほど聞いた話を肴に雑談へと入って行く。


「しかし実戦か……楽しみだな」

「兄さま、見学です。実戦じゃありません」

「ボクは実戦でも良い」

「アルド様やアシェラは怖くないのですか?」


「オレは特に怖くは無いな」

「ボクも怖く無い」

「そうですか、私は魔法が上手になっても、きっと“実戦には行きたくない” と思います……」

「マールは優しいから、しょうが無いよ」


「ボクが優しく無いみたい」

「アシェラ姉も優しいです!」


「じゃあ、オレが優しくないってのか?」

「兄さまも優しいですよ!」


「ぷっ……エルファス様、2人に揶揄われてますよ」


エルが苦笑いを浮かべる。



「人は向き不向きがある。マールは戦う必要なんて無いよ」

「そうだな、エルの言う通りだ」

「ボクもそう思う。マールは戦わない方が良い」

「ありがとうございます……」


マールの顔に安堵の色が浮かんでいた。


「そういえばマールは母様の弟子として、ずっとこの街にいるのか?」

「その事なんですけど……エルファス様」

「実はマールから相談を受けていたんです」


エルがマールの悩みの内容を話し始めた。


「母さまの弟子で技術を受け継いでもマールは戦闘が苦手です。それなら学園に通って、回復魔法を覚えた方が良いのでは?と悩んでいるんです」

「なるほど、良いんじゃないか?」

「ボクも良いと思う」

「でも、ラフィーナ様にせっかく、弟子にしてもらえたのに……」


「僕は、母さまは賛成してくれるって言ったんですが……」

「オレも、母様は賛成すると思うぜ」

「ボクも、賛成すると思う」

「そうでしょうか……恩知らずと思われないでしょうか……」


マールは不安そうに俯いてしまう。


「たぶん、難しい事は考えずに“良いわね!”って言うと思うぞ」

「お師匠なら言いそう」

「母さまなら……確かに」

「……」


「分かりました。私、ラフィーナ様に相談してみます」

「それが良いと思うよ、マール」


「ありがとうございます。エルファス様」


マールは母さんに進路を相談するようだ。

きっと母さんなら喜んで送り出してくれるだろう。


そうなると12歳になったらオレ、エル、マールが学園に通って、アシェラだけが留守番になる。

アシェラにはクララと一緒に母さんの面倒を見てやって欲しい。



こうして、あれよあれよとオレ達は遠征に参加する事になった。

見学だけかもしれないが、実戦に参加できる機会に期待して用意をしていこうと思う。


ワクワクが止まらなくなってきた。



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