第25話教会

25.教会



10歳の夏の闇の日


「エル、今日はどこか行くのか?」

「マールと教会で炊き出しに行く予定です」


「炊き出しかオレも行く」

「ローランドに聞いてみないと…」

「ボクも行く」


「アシェラ姉も?尚更ローランドに聞かないと」

「ちょっと聞いてくるよ」


オレはローランドを探し居間にやってきた。


「ローランド、エルと一緒に教会に行きたいんだ」

「ボクも行くつもり」

「アルドぼっちゃまとアシェラ様、お2人が増えるのですか。もう1人護衛が揃うか聞いてきますので少々お待ちください」


オレとアシェラはローランドを待つ間、お茶を貰う。


「うーん…うまい」

「爺臭い」


「うまくないか?」

「おいしい…」


「うまいんじゃねえか」

「……」


オレの言葉に知らん顔をしている。


「まあ良いか。教会は久しぶりだな」

「うん、みんな元気にしてるかな」


「あいつらが元気じゃない所が想像できねぇ」

「アルドと一緒」


「オレはもっと落ち着いてるよ」

「むしろアルドが一番、落ち着いてない」


アシェラといつもの会話をしているとローランドが戻ってくる。


「手配がつきましたので、大丈夫でございます」

「ありがとう、ローランド」


ローランドは頭を下げて返答をする。



教会へ移動するために玄関に向かうとガルと知らない男が立っていた。


「アル坊、紹介するぜ。護衛のタメイだ」

「タメイでス。よろしくお願いいたしまス」


「アルドだ。畏まった態度は好きじゃないんだ。普段通りで頼む」

「よかったッス。オレッチ敬語が苦手なんス」


また濃いヤツが来たなぁ、とタメイを見ていた。


「エルファスです。よろしく頼みます」

「アシェラです。よろしく」

「タメイッス。よろしくお願いしまス」


挨拶が終わり馬車が来るが、オレは街を歩いて回りたかった。


「エル、アシェラ、オレは歩いて街を見ながら行くよ」

「判りました、兄さま。僕は先に馬車で移動しますね」

「ボクもアルドと歩いて行く」


エルとガルが馬車に乗り込んでいく。早くマールに会いたいのだろう。

アシェラと歩いて屋敷を出ようとすると、クララがこちらをじっと見ている。


「クララ、いってくるよ」


オレはクララに声をかける。


「……」


クララは何か言いたげにこちらを見るだけだ。


「どうした、クララ?」

「……」


「……」

「わたしも行きたい…」


オレはクララの隣にいる母さんを見る。

母さんは困った顔をしながらオレ達を見ていた。


「アル、アシェラ、クララを頼める?」

「判りました。大丈夫です」

「任せてください」


「クララ、アルとアシェラの言う事をちゃんと聞くのよ」

「はい、かあさま」


こうしてクララも一緒に教会に行く事になった。


(妹デートか、ちょっと楽しみだ)


「じゃあ、アシェラ、クララ、行くぞ」

「はい、アルにいさま」

「出発」


オレ達はクララを真ん中に、手を繋いで歩きだした。

タメイは辺りを警戒しながら後ろからついてくる。


教会には遠回りになるが、露店のある道を選んだ。


「アルにいさま、あれはなんですか?」

「あれはアポの実のジュースを売ってるんだ」


「ジュースですか…」


クララはジュースをじーっと見てる。


「クララ、ジュースが飲みたいの?」

「アシェラねえさま、どんな物なのかと…」


「買いに行こう」

「いいんですか?」


「ボクに任せて」

「はい、ねえさま」


アポの実のジュースを売ってる露店に近づいて行く。


「ジュースを3つ、コップも貸して」

「はいよ、そこのコップを使ってくれ」


アシェラはお金を渡してから置いてあるコップを取り樽のレバーを捻る。

ジュースが出てきて危なげなくコップで受け取っている。


ジュースに魔法を使い冷やしてから渡してくれた。

まだ朝だが気温はかなり上がっている。正直、冷たい飲み物はありがたい。


「ありがとう。アシェラねえさま!」

「ありがとう、アシェラ」


アシェラは笑顔を浮かべて頷いた。


冷たいジュースを飲んでいると店のオッサンが話しかけてくる。


「嬢ちゃん、魔法使いなのか?」

「うん、氷結の魔女の弟子」


「氷結の魔女の弟子か。すごいな!」


Vサインでオッサンに返す。


「嬢ちゃん、この樽って冷やせるか?」

「余裕」


「冷やしてくれたら、さっきの金は返すぞ」

「すぐ冷やす」


アシェラは樽に手を当てて魔法を発動させる。


「これで冷えた」

「おー、ありがとう。これがさっきの金だ」


アシェラがお金を返してもらっている。

オレ達は邪魔にならない様に隅に移動してジュースを飲む。


「儲かった」

「さすがです。アシェラねえさま」


アシェラは満面の笑みで話している。



この暑さの中、オッサンの屋台のジュースは あっと言う間に売れていく。

オレ達は忙し気なオッサンを後に教会への道を移動した。


「クララ疲れたら、ちゃんと言うんだぞ」

「はい、アルにいさま」

「クララ、無理はダメだよ」


オレ達は露店を覗いたり、街並みを眺めたりして教会を目指す。




教会前では皆が忙しそうに炊き出しの準備をしていた。


「うわー人がいっぱいです。」

「そうだな。迷子にならない様にオレかアシェラの近くにいろよ」


「判りました」


オレ達は人の輪の中に入り誰か知ってる人間を探す。


「お、ヤマトー!」


ヤマトを見つけて声をかけた。


「ん?アルドか。久しぶりだな」

「おう、久しぶり!アシェラもいるぞ。あと、こっちがオレの妹のクララだ」


「あ、アシェラ…久しぶり…。クララちゃん初めまして」

「久しぶり」

「はじめましてクララです」


ヤマトの様子がおかしい…アシェラと話す時だけ妙にソワソワしてる気がする。


「ヤマト、何か手伝う事あるか?」

「じゃあ子供達の世話を頼めるか?」


「任せろ」


オレ達は教会の中に入って行く。


教会の中では子供達が走り回っていた。


「おーし、ガキ共。オレ様が遊んでやるぞー」

「あ、アルドだ!」「アルドー光の玉だしてー」「アルドだっこー」「オレが先だぞ」


「ガキ共、待て待て。アシェラもいるぞ。あとオレの妹のクララだ。仲良くしてやってくれ」

「ボクが遊んであげる」

「クララです。よろしくお願いします」


「よーし、アシェラは ままごと。オレは かくれんぼ。ガキ共、やりたい方に移動しろー」


オレの声に子供達が移動する。

クララはアシェラ組でままごとをするようだ。


かくれんぼの途中にクララを覗くと、同じぐらいの年の子と笑い合って遊んでいた。

オレは邪魔をしない様に、かくれんぼにそっと戻るのだった。




夕方----------




「よし、エル、アシェラ、クララ、帰るか!」

「「「はい」」」


馬車が4人乗りのために護衛も入れると6人で2人余る。


「護衛なしの馬車で帰ってもいいか?」

「ダメだ。馬車でも襲われない訳じゃない」


ガルにダメ出しされた。


「じゃあガル、悪いがオレと歩きだ」

「わかった。タメイ、馬車の護衛は任せたぞ」

「はい、判ったッス」


馬車が行った後を、ガルとのんびり歩く。


今日の行きも思ったが不快な視線をいくつか感じた。


「ガル、ブルーリングの街は治安があまり良くないな…」

「そんな事は無いぞ。この街はかなり治安が良い方だ」


「そうなのか…」

「どうした?何かあったか?」


「昔の誘拐の時もそうだけど、不快な視線をいくつか感じる」

「あー、それは当たり前だ」


「ん?なんでだよ?」

「その恰好だよ。いかにも貴族の子弟って恰好してれば、そういった輩から眼はつけられ易い」


「なるほど…次から出かける時は服装に気を付けるか…」

「あー、それは難しいと思うぞ。貴族の体面ってもんがある。直系のオマエがそこらのガキと同じ格好ってわけにはいかんだろ」


「それこそ屋敷から出たら分からないだろ」

「それは…そうだな…」


オレ達はそんな話をしながら屋敷に帰った。




夕食では今日の教会での話で盛り上がった。

クララは友達ができた。と喜んでおりオレ達まで楽しくなる程の喜びようだった。


「アルにいさま、また連れてってください」

「任せろ。でもエルの方が教会には良く行くぞ」


「エルにいさま。お願いします」

「分かったよ。僕はついでか…悲しいよ」


みんなの笑い声が響いた。


そうしてクララの初めての外出は無事に終わった。




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