第204話ドライアド part1
204.ドライアド part1
ここからはアオとドライアドに聞いた話だ。
アオは先日のエルフとの話をドライアドにすると、暇を持て余していたドライアドは二つ返事で了承した。
1年の内の数日程度なら事前にマナを調整しておけば、大した手間も無くドライアドを招く事が出来るらしい。
何でも精霊王に会いに行った時にドライアドが地上に出たがっていたようで、そこに今回エルフからの頼みもあり、ドライアドを招く事にしたそうだ。
今回の事は完全にアオの善意であるにもかかわらず、ドライアドは約束を破り勝手に地上へ出て来てしまった。
善意でした事に対してこの仕打ちは無い、とアオが怒り、マナの調整のためにも一時的にではあるがドライアドを配下にしたそうだ。
ドライアドとアオは本来 同列の存在であり上下関係は無い。
しかし、この場がアオの領域内である事と、乱れたマナの流れを治すためにドライアドも一時的に配下になる事に同意した。
こうしてアオ>ドライアドの上下関係が完成したのである。
ドライアドの話では、今の状態であればアオの領域内という制限はあるものの地上で過ごせるらしく、アオの配下から離れるつもりは無いみたいだ。
それと、この家の惨状はドライアドが住み着いていた事から、マナの流れが乱れ植物が異常繁殖した結果らしい……
この惨状はお前のせいか……オレはドライアドを睨むと、ウィンクで返してきやがった。
こいつ絶対に金とか持って無いよな……
家の修理費、エルフに請求して良いだろうか……アイツ等なら喜んで払いそうな気がする。
取り敢えず、今日は出来る事は何も無い。アシェラ達の希望は聞いたので一度、専門家と一緒に下見に来ようと思う。
「何だか疲れたな……」
「「うん……」」
「はい……」
「帰ろうか」
オレの言葉に3人はチカラ無く頷いた。
屋敷へと歩いて行くと一番後ろをドライアドが付いてくる。
半人半樹の少女とかに、付いて来られても……
「ドライアド……さん?何で付いてくるんですか?」
「ん?ドライアドで良いよー。何でって私、アオちゃんにチカラを封じられてるから」
「ちょ、ちょっと待ってくれ」
オレは今さっき別れたアオを再び呼び出した。
「何だよ。何度も呼び出して。僕はアルドみたいに暇じゃないんだぞ!」
「アオ、ドライアドが帰れないって言ってるんだけど……」
「僕は既に配下から解放してある。ドライアドがチカラを使えないのは、自分で僕の配下から離れないからだよ」
ドライアドを見ると露骨に顔を逸らして口笛を吹こうとしている……口笛ヘタですね、鳴って無いですよ。
「どうすれば良いんだ……」
「放っておけば良いよ。そのうち勝手に帰るから」
「酷いんだーーアオちゃん。私も久しぶりの地上を見学したいーー」
「……」
「僕は地上見学なんてしてないよ。領域の管理に忙しいんだ」
「管理なんて適当にしておけば良いのよーー」
「……」
「そんな訳にいかないだろ。領域を拡大させたり、植生を整えたり、やる事が一杯だよ……」
「私はそんな事しなかったもん。それより魔物を追いかけて倒す方が楽しいよーー」
「……」
「……」
「……なに?何なの、その眼!」
「あー、ドライアドは強いんだな……あ、アオもそう思うよな?」
「何だよ、僕に振るなよ。アルドは本当に……」
「……」
何故かドライアドはオレとアオを交互に見ている。
「どうした?」
「……わ、私とジェイルの方が仲良しだったんだから!」
何なの、この子。微妙に会話にならないんだけど……
ジェイルってのは精霊か何かなのか?
「……ジェイルって精霊の名前なのか?」
「違うもん!ジェイルは私の使徒なんだからーーー!私達の方が仲良しだったんだからーーー!」
どういう事?もしかしてオレとアオに嫉妬したのか?
そんなに仲良さそうに見えたんだろうか……
何とかドライアドを宥め終わると、アオが“帰る”と言い出した。
「僕はそろそろ帰らせてもらうよ」
「待ってくれ、ドライアドをどうするんだ」
「だから放っておけば良いよ。僕の配下を離れれば好きにチカラを使えるんだから」
「そうなんだろうけど……」
オレがドライアドを見ると、コイツはこっちの話しはシカトしてアシェラ達と楽しそうに話してやがる。
「じゃあ、行くね」
「あ、アオ、待って……」
オレの言葉を聞く前にアオは消えてしまった。
ドライアドと違って、アオは領域の管理をしっかりしているみたいだ。きっと本当に忙しいのだろう。
改めてドライアドを見てみる……オレ、精霊がアオで良かったかもしれない……
さて、この状況をどうしようか……先程から4人でキャッキャと楽しそうに話しているのは主に服の話だ。
ドライアドは何百年か前の服しか知らないらしく、興味深そうに3人の服を触っている。
「ドライアド……本当に帰るつもりは無いのか?」
「うん!」
言い切りやがったよ!
「ハァ……分かったよ。少しの間だけだぞ……」
「やったーーーありがとーーーアオちゃんの使徒!」
「アルド、オレの名前はアルドだ」
「分かったーーアルドちゃんね」
オレはドライアドを上から下までマジマジと見る……服を着せれば、そこらの少女で通じるか……
問題は名前だな……流石にドライアドはマズイ気がする。
「ドライアド、そのままオマエの名前を呼ぶと問題になりそうなんだ」
「そうなの?じゃあ好きに呼べば良いよーーーー」
「じゃあ、名前の後ろ部分を取ってアドはどうだ?」
「うん、良いね!アドーー!」
ドライアドは嬉しそうに何度も“アド”の名前を読んでいた。
「アシェラ、悪いがお前の服を貸してやってくれないか?」
「それは良いけど、ボクの服だと大きいかも」
「そうか……クララと同じぐらいだな……でもクララは貴族の服しか持って無いからな」
「取り敢えずボクの服を着せて、後で一緒に買いに行こう」
ドライアドが眼をキラキラさせてオレ達の話を聞いている。
「そうだな。アド、それで良いか?」
「うんうん!アルドちゃんありがとーー!今度、秘薬の作り方を教えてあげる!」
秘薬って……そう言えばエルフの秘薬ってドライアドがエルフに教えたんだったよな……
「あ、ありがとう……ほどほどに教えてくれ……」
オレはそう返すので精一杯だった。
昼食の時間----------------
王都の屋敷に移動すると、メイド達が昼食の準備をしているのが見える。
ドライアドに食事はどうするか聞いてみると、意外な事に“食べる”と答えが返ってきた。
ドライアド曰く、精霊はマナから直接エネルギーを吸収できるので食事の必要は無いらしい。
精霊にとっての食事は完全に嗜好品になるとの事だ。
良い事を聞いた。精霊が食事を摂れるなら、今度アオに何か差し入れしてやろう。
食事の準備をしているメイドに1人分多く用意するように話し、ドライアドの分も昼食を用意してもらった。
あまりドライアドを服を着せずに、人目に触れさせたくない……サッサとアシェラの部屋に移動させ、服を着せねば……
「じゃあ、アシェラ、頼むな」
「うん、任せて」
そう言ってアシェラはドライアドの手を引いて自室へと歩いて行く。
15分ほどが経ち、昼食の用意が出来たと同時にアシェラがドライアドを連れて戻ってきた。
「おー、それならどこから見ても町娘だ」
「そう?似合ってる?」
「ああ、少し大きいけど似合ってるよ」
「やったー!」
オレとアシェラの間に座ったドライアドを爺さん、母さん、クララがガン見している。
3人の顔を見ると“誰コイツ?”と聞きたそうだ。
爺さんはさほど興味も無さそうに、食事をしながら聞いてきた。
「誰だ。その少女は……」
オレは3人以外には聞こえない程度まで声量を落とし、驚かせないように言葉を選んだ。
「あー、驚かないでくださいね……エルフの精霊のドライアドです」
一瞬の空白の後、爺さんが口の中の物を吹き出しやがった。汚ねぇな、ジジイ。
爺さんは激しく咳き込みながら水を飲んで、やっとの事で落ち着いた。
3人の反応は正に千差万別。爺さんは慌てふためき、母さんは興味深そうにドライアドを観察している。
そしてクララは何とドライアドと楽しそうに会話しだしたのだ。
我が妹ながらこの胆力は尊敬に値する……きっと、氷結さんの血を一番濃く受け継いだのだろう。
まずはプチパニックになってる爺さんを落ち着かせねば。
「お爺様、詳しい話は後でしますが、アドに敵意は無いはずです」
「アド?だと……」
「はい、ドライアドでは流石にマズイと思い、名前の最後の部分だけを使いアドと呼んでいます。本人に了承は得ました」
「……そうか」
それから爺さんは無言で昼食を摂り、酷く疲れた顔で早々に食事を切り上げてしまった。
きっと詳しい話を早く聞きたいのだろう。
「アシェラ、アドを任せて良いか?」
「うん、任せて」
「ありがとう。アドもアシェラの言う事をちゃんと聞けよ」
「分かってるーーアルドちゃん、五月蠅いんだーーー」
久しぶりの食事でニコニコ顔のドライアドを置いて、オレは肩を竦めながら爺さんが待つ執務室へ移向かった。
執務室でまずは爺さんに今日あった事を、全て隠さずに話していく。
「………という事でドライアドは暫く、この屋敷に滞在するようです」
「……何故ブルーリングなのだ、エルフの国ではいかんのか?」
「僕も詳しくは知りませんが、アオの領域内しか移動出来ないそうです」
「領域……魔の森も領域だったはずだな……」
「……お爺様から言ってください。僕は怖くて言えません」
「……止めておこう」
こうして叩き出す訳にも行かず、なし崩し的にドライアドはブルーリング邸に居候する事になった。
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