第273話静かな戦い part2

273.静かな戦い part2






母さんがスライムまみれになった事で、魔力さえ纏えばスライムに捕食される事は無いと分かった。

次は雷撃の効果を確認するために、素の状態のスライムにソナーを打って、情報を集める番である。


「では、ソナーを使いますね」


魔力を体の表面に纏い終わると、ゆっくりスライムに近づいていく。

森の中は生きた木と枯れ木の境界がハッキリと分かり、まるで線を引いたかのようだ。


恐る恐る境界の内側に足を踏み入れていくと、地面から灰色のスライムが湧き出して、オレを捕食しようと包み込んできた……

魔力を纏っていれば大丈夫なのは分かっているが、自分を食おうと纏わり付いてくる物を見て、根源的な恐怖が湧いてくる。


生理的な嫌悪の中、さっさとソナーを打ち、反射して返ってきた魔力に集中した。

強い魔力を持つ者には、ソナーの魔力は通り難く、何度も打つ必要があるのだが、コイツは殆ど抵抗無く魔力が通っていく。


早速、母さんに分かった事を伝えようとするが……


「…………」


こちらから母さん達に話しかけているのに、当の母さん達は不思議そうな顔をしながら声をあげている。


「アル、何を言ってるか分からないわ。そっちからの音は聞こえないみたい!」


なるほど、先ほどの母さんの声も聞こえなかった気がする。

スライムの体の特性として、被食者側から外に音は漏れ出ないようになっているらしい。


確かにスライムからすれば、捕食中に悲鳴が漏れ出れば、そこから先の狩りに支障が出る事もあるか。

魔物なりに効率的に進化していった結果なのだろうが、今、正に捕食されている方からすると、一刻も早く離れたい。


直ぐに先ほどの母さんと同じように、スライムの境界から外に出ると、直ぐにスライムは体から離れていった。


「やっぱりコイツはスライムみたいです。反応がスライムの体の部分とそっくりでした」

「そう、やっばり……それで雷撃は効きそうなの?」


「それはやってみないと分かりませんが、魔力の通りは凄く良いので、部分的に見たら雑魚です」

「雑魚ねぇ」


「あと気になった事なんですか、ソナーの範囲は100メードぐらいでした。今までこんな大きな生物にソナーを打った事が無かったので、僕も初めて知ったんですが」

「そりゃそうね。で、証か核は見つけたの?」


「ソナーが届く100メード以内にはありませんでした」

「そう、上手くはいかないか」


「そうですね」

「じゃあ、次は雷撃ね。ライラ、お願い」

「はい、お義母様……」


ライラは皆の前から1歩踏み出すと、両手をスライムに向け魔力を溜めていく。


「私の前には絶対に出ないようにしてください」


ライラからの声にそれぞれが了解の意志を示すと、安心したように頷いてから、最後に魔法名を叫んだ。


「雷撃!」


ライラが付き出した両手の間の魔力が紫色に変わって行く……その瞬間、目の前のスライム目掛けて紫電の光が走ったと同時に、見える範囲の地面も光を放った……


「アル、雷撃の効果を調べてみて」

「はい」


オレは再び魔力を纏って、スライムの境界の内側へと足を踏み出すが、先程と違ってスライムが纏わりついてくる気配は無い。

この辺りのスライムを全滅させたなら問題無いが、万が一、麻痺で動けないだけであれば、このまま進むと麻痺が解けた時に恐ろしい事になる。


「母様、範囲ソナーを使います」

「……お願い」


今度は体の中を探るソナーでは無く、索敵用の範囲ソナーを最大の1000メードで打ってみたが、50メード内にはスライムの反応は無い。

恐らくライラの雷撃1発で倒せるスライムは50メードほどのようだ。


「スライムの反応は50メード先までありません」

「そう、ライラの雷撃の効果範囲は50メード……思ったよりも広いけど、5キロメードのスライムを焼き払うにはどれだけの時間がかかるのかしら……」


オレは地面に数式を書いて計算をし始めた。


「えーと、円の面積はπr²だから3.14×2500²=19625000㎡……後は3.14×50²=7850㎡、割ると……2500か……」


オレがボソボソと呟き地面に数式を書いている姿を、2人は興味深そうに見つめ、1人は眼を見開き一挙手一投足を見逃さないようにガン見していた。


「えーと、ライラの雷撃の威力だと2500回で殲滅出来ると思います」

「2500回?2500って2500よね?」


「はい、その2500です」

「ライラ、魔力が満タンで1日に何回、雷撃が撃てるのかしら?」

「2回……頑張って3回……たぶん魔力枯渇で倒れると思う」


「毎日3回で834日……これはあくまでも計算上です。実際はスライムも食事を摂って成長するでしょうし、最悪は削るスピードより増えるスピードの方が速いかもしれません……」

「最悪ね……そうなったら他に手はあるのかしら?」


「その場合は、魔力を纏ってスライムの体に突撃して闇雲にソナーを打てば、運が良ければ核か証を見つけられるかもしれません」

「核や証の大きさが普通サイズなら、半径5キロの砂浜で1本のペンを探すようなものね」


「そうですね。よほど運が良ければ、或いは……」

「ハァ……それは最後の手段に取っておくとして、次はアルの雷撃を試しましょう。その次はアシェラの魔法拳、それと状態異常は入るのか、後は……氷の範囲魔法なんて良いかもしれないわね」


「氷……母様は氷結の魔女ですし、良さそうですね」

「それ以上は言わないで!ほら、さっさとアルの雷撃の調査をするわよ」


氷結さんほ頑なである。しかし、これ以上言うと、ウィンドバレットを撃ち込まれる未来しか見えない。

言われた通り雷撃を撃つべく、皆から5歩ほと前に出てから魔力を集め始めた。


「絶対に僕の前に出ないで下さい!」


オレの雷撃は科学知識があるために、ライラのそれより格段に威力が高い。

誤爆した場合、魔力を纏っていても耐えられるかどうか……


改めて考えてみると、この雷撃は非常に有用なのに、致命的な欠陥がある……コンデンスレイを筆答に、オレの魔法はそんなのばっかりだ。

自分の魔法に呆れながら、集めた魔力を雷撃へと変えていく……魔力が紫の光を放ち始めた所で、魔法名を叫んだ。


「雷撃!」


次の瞬間、ライラの時とは比べ物にならない紫電の光と、空気を割る轟音が迸る……

雷撃が通った後の地面では、湯気が立ち上り威力の高さを見せ付けていた。


オレはキーンと耳鳴りがする中、我慢しながら口を開く。


「終わりました」


オレの声を聞きながらも、ライラは興奮気味に、アシェラは難しい顔をして、雷撃の通った地面を見つめている。


「この魔法、ミルドの時より威力が上がってる気がするんだけど……」

「雷撃は自動で攻撃するって言ってありましたよね?」


「それは聞いてるけど、何か関係あるの?」

「スライムがの体が大き過ぎて、数発分が一度に発動してます。それで威力が上がって音も光も強くなったのかと」


「なるほどね。単体の威力が上がった訳じゃないから、全体の燃費は変わらないって事ね」

「はい」


「上手い話は無いか」

「そうですね。では効果を確認します」


オレは早速、1000メードの範囲ソナーを打ち、スライムをどれぐらい倒せたのかを確認した。

うーん、ライラよりは広いが大体、150メードほどのスライムがいなくなっている。


「母様、僕の雷撃の効果範囲は凡そですが、150メードです」

「150……ライラの雷撃よりだいぶ強力に見えたけど3倍しか変わらないの?」


「電気は流れ易い所に流れるんです。恐らくスライムだけで無く地面にも流れてしまってるのかと。文字通りアースですね」

「大事な事を言ってるんでしょうけど、人族語を話してくれると嬉しいわ」


オレが何を言っているのか意味が分からないのだろう。ライラだけは真剣に聞いていたが、今の段階はやっと分数と少数を勉強し始めた所である。

数年後には何となくでも理解してくれると、教える方も張り合いが出ると言う物だ。


「うーんと……地面に雷撃が逃げちゃうって事です。威力が上がっても、そのまま効果範囲がは大きくはならないみたいですね」

「そうなの?それじゃあ、込める魔力を少なくしたら威力は下がるの?」


「あー、魔力を減らすと電圧から下がるみたいで、空気の絶縁破壊ができなくなるみたいなんですよ。電流だったら威力から下がったと思うんですが」

「だから、人族語を話せって言ってるのよ!」


何故だ!オレは人族語しか話してないのに……解せぬ。


「ですから……うーんと、魔力を下げると雷撃を飛ばす能力から下がっていくんです。ですので魔力を下げると雷撃が飛ばずに発動しない、って事になるんです」

「攻撃する能力と飛ばすの能力が別なの?魔力を下げると、魔法を飛ばす能力が先に下がるから、魔力は下げられないって事で良いのかしら」


「もう、それで良いです」

「何よ、その言い方は!アルはもう少し私を敬った方が良いと思うわ!」


「スミマセン……」


雷撃の説明には、どうしても電気の説明が必要になる。電気を雷ぐらいでしか実感した事が無い人達に、どうやって説明すれば理解してもらえるのか……

ここはライラに科学を教えて、ライラから説明してもらう事にしようと思う。


いつまでもこうしていても仕方がないので、オレの雷撃の効果範囲である150メード先まで歩いていった。


「ここが今のスライムとの境界です」

「そう……あまり期待できないけれど、アシェラは魔力拳と状態異常を、私は氷の範囲魔法を試してみましょうか」

「はい、お師匠」


次はアシェラ、母さんの師弟コンビである。

申し訳無いが、2人の使える攻撃の中で、地中に効率良く攻撃できる物は恐らくは無い筈だ。


早速、アシェラから試すらしく、全身に魔力を纏いスライムに触れて行く……


「……毒、効果なし……麻痺、効果なし……混乱、効果なし……睡眠、効果あり」


睡眠だけ”効果あり”と……何とも微妙な結果が出たわけだが、スライムを寝かせて何か意味があるのだろうか……


「アシェラ、因みにどれぐらいの間、寝かせられそうだ?」

「うーん、これだと1時間ぐらい?」


「そうか……分かった」


1時間の間スライムを寝かせる……攻撃をしてくるわけでも、躱すわけでもない相手を寝かす……そのメリットか。

オレは恐らくは一生かかっても出ない結論を早々に諦め、次の実験に興味を移していった。


アシェラの次の攻撃は魔法拳である。早速、魔力を拳に集めると大きな声で叫んだ。


「魔法拳、行く!」


アシェラはいきなり飛び上がったかと思うと、落下の衝撃すら拳に乗せて地面を殴りつけた。

ドゴッ!と腹に響く音がした瞬間、地面には大きなクレーターが出来上がっている……この拳を受けたら、オレは即死する自信がある!


しかし魔法拳の攻撃力は確かに凄まじい物があるが、所詮は点の攻撃だ。

地竜や風竜などの敵には絶大な攻撃力を誇るが、やはり今回のような薄く広くの攻撃にはどうしても適さない。


今回のアシェラは裏方に回ってもらって、万が一の場合には魔力盾を展開してもらうのが良さそうだ。


「まぁ、予想通りではあったわね」

「お師匠、ごめんなさい……」


「アシェラ、これは適正の問題でアナタが悪いわけでは無いの。今回は相性が悪かっただけよ」

「……」


珍しくアシェラがヘコんでいる。攻撃力では普段からオレ達の中でもトップを走っている事から、戦力外通告を受けたのは初めてなのだろう。


「アシェラ、今回は魔力盾で皆を守ってくれ。頼りにしてる」

「……うん!」


アシェラは驚いた顔をしたと思ったら、次には笑みを浮かべてくれた。

オレの言葉で全部が割り切れたわけでは無さそうだが、気持ちは切り替えてくれたと思う。


さて、最後は真打の”氷結の魔女”様である。期待させて頂くとしましょうか。






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