第150話模擬戦(弐)

150.模擬戦(弐)





迷宮探索の前日。エルの鎧が出来上がる日だ。

オレとエルは朝の支度を終え急いで朝食を摂ると、空間蹴りで王都の空を駆け抜けて行く。


「ボーグーーー!鎧を取りに来たぞーーーー!」


流石に早すぎて防具屋は閉まっていた。2階がボーグの自宅だと聞いていたので空間蹴りで入ろうとしたが、エルに止められて今は大声で呼び出している所だ。


「うるせーー!」


扉が乱暴に開いたかと思うとボーグが額に青筋を立てて出てきた。


「ボーグ、鎧を取りにきた」

「お前はその前に、言う事があるだろうが!」


オレが頭に???を浮かべているとボーグが更に怒りだす。


「まずは謝れ!朝っぱらから大声出しやがって!」

「ああ、スマン。これで良いか?」


「……ハァ、もう良い。で、何だって?」

「鎧を取りに来た」


「そこに置いてある……」


オレとエルは早速、服を脱いで鎧を装備していく。

全部の鎧を装備すると軽く新しいバーニアを吹かして使い勝手を確かめた。


「おお。良いな」

「そうか。エルファスの方はどうだ?そっちは盾の位置やらだいぶ弄ったからな」

「試してみます……」


エルも軽くバーニアを吹かして使い勝手を確かめていく。

流石エルだ。今まで殆ど使った事が無いバーニアを器用に吹かしている。


魔力盾を含め一通りの動きを確かめた後でボーグにお礼を言い屋敷へと空間蹴りで急いで戻った。

何故、こんなに急いでいるかと言うと、明日からの迷宮探索の前に鎧の使い勝手の確認と前に思いついた模擬戦をするからだ。


オレ:短剣二刀 VS エル:短剣二刀  オレ:片手剣、盾 VS エル:片手剣、盾  オレ片手剣、盾 VS エル 短剣二刀


この組み合わせでどんな結果が出るか……試してみて使い易いなら魔力盾と魔力武器(片手剣)なんてのも良いかもしれない。





屋敷の裏でエルと向かい合う。見られる事を考えて2階まで飛ぶのは禁止にした。

何故かギャラリーが沢山いる……


爺さん、父さん、母さん、クララ、アンナ先生、ファリステア、ユーリ、セーリエ、等々……


「エル、良いか?」

「もう少し待ってください」


エルは短剣の木剣を二刀持って薙いだり突いたりして体の動きを確認している。

5分程、短剣を振るとエルの準備は完了したようだ。


「兄さま、お待たせしました」

「じゃあ、やるか」


「はい」


まずは慣らしとばかりにエルは短剣を二刀構えて向かって来る。

突き、薙ぎ払い、足技、普段自分がやっている事だが、やられる側に回ると攻撃の回転が速くて反撃の合間が無い。


ひたすら防御に回っていると次は魔力武器(大剣)を振り回してきた。

流石に大剣の扱いには慣れていない様で振り切った後に隙が出来ていたので遠慮なく攻撃させてもらう。


エルは一度、離れて仕切り直す。

そろそろ本気とばかりにバーニアを吹かして突っ込んでくる。


オレは右に躱すがエルもバーニアを吹かしてオレの動きに合わせてきた。

この挙動は反則だろ!と心の中で叫ぶが、元々は自分の動きだ。歯噛みしながらも何とかエルの攻撃を捌いて行く。


結局、エルは光る物はあるのだが、初めての短剣二刀と言う事でオレの勝ちとなった。

ただエルが本気で短剣二刀を修行したらオレは勝てる自信が無い……


「兄さま、強いです」

「いや……エル……お前、短剣二刀使うの初めてだろ?」


「はい」

「オレは初めてお前が怖いと思ったよ……」


エルは苦笑いを浮かべて否定している。


「じゃあ、次だ。オレとエル両方、盾に片手剣で良いな?」

「はい」


オレは木剣の片手剣と騎士団で使っている盾を装備して暫く動きを確かめる。5分程して自分なりに納得出来てからエルの前に立った。

慣れないせいか左手に盾を持つと視界の悪さと盾の重さで、どうしてもいつもの様な動きが難しい。


「兄さま、良いですか?」

「いつでも良いぞ」


向かいあったエルが、オレを伺うかの様にゆっくりと近づいてくる。

ジッと待っていると、間合いに入ったエルが一気に踏み込んできた。


エルの片手剣を盾で受けてカウンター!

盾で受けられ、お互いの剣を盾で受け合う千日手へ……


盾で片手剣を弾き一旦距離を取る。


「エル、やるな」

「兄さまこそ……盾に慣れて無いのは嘘ですか?」


「本格的に触ったのは初めてだ」

「……ガイアスやマーク、ティファより上手いですよ」


「そりゃ、どうも。っと……」


掛け声と同時にエルへ奇襲の攻撃を仕掛けるが盾で余裕を持って弾かれてしまう。

エルと同じ動きをしても勝てる訳は無いしオレの求める物でも無い。


「エル、オレなりの戦闘で行くぞ」

「……はい」


オレは片手剣を魔力武器(大剣)に変えてエルに吶喊して行く。

魔力武器(大剣)の上段からの振り下ろしをエルは盾で受ける。


すかさずバッシュ。

エルが怯んだ所を右上段蹴りで追撃する。


さらに体勢を崩した所でリアクティブアーマーを仕込み、魔力武器を解除し片手剣で追撃。

エルが左の魔力盾を展開して片手剣を止めた所で正面からリアクティブアーマー仕込みのバッシュ!


エルに決まる寸前にバーニアで後方へと逃げられた。


「兄さま。怖いですねぇ……」


エルはそう言い放ち、先程とは異質な殺気を放ってくる。

ここからが“修羅の騎士”と言われるエルの本気だ。


そこからはオレが多少、トリッキーな動きをしようとエルは即座に対処して見せ終始エルの優勢で終わる。


「参った……」


オレが降参の意思を示すのはエルが本気になった僅か5分後の事だった。

どこか特別な事があった訳では無い。正に力不足と言うのが正しい。


特に盾の使い方に圧倒的な練度の差があった。

ただ弾くだけでは無く、時にはわざと引いてオレのチカラを逃がしてみたり……


あえて盾を捻って思わぬ方向へチカラを逃がしてみたり……

短剣の時には気が付かなかった盾の使い方をされて終始、芯を外されていた感じだった。


「エル、あのチカラの逃がしは最近、覚えたのか?」


エルは苦い顔をして答えた。


「昔からです。兄さんとの模擬戦では、それ処では無く中々使う機会が無かったですが……」


どうやら昔から使っていたらしい……スマン、エル。

ここらで昼食の時間になった。ギャラリーに声をかける。


「そろそろ昼食にしましょうか」


ファリステア、アンナ先生、ユーリ、そして父さん……

皆が呆れた顔でオレ達を見ていたが父さんが一番酷かった……


言われて見れば父さんに模擬戦を見せた事は無かったはずだ。

顔は蒼白で眼の下に隈が出来、まるで死相が浮き出てるかの様だった。


「と、父様。大丈夫ですか?」


思わず声をかけたが焦点の合わない眼で“大丈夫……”と一言呟いて自室へと籠ってしまった。

溜息を吐いて母さんが自室へと入って行ったのでフォローは任せたいと思う。


エルと顔を見合わせ昼食を摂りに移動して行く。


「エル、昼からはオレが盾と片手剣でお前が短剣二刀だからな」

「はい。楽しみです」


「オレもだ」


エルと話してるとアシェラが入ってくる。


「それが終わったらボクとも模擬戦」

「ああ、盾と片手剣で相手してやるよ」

「アシェラ姉、短剣二刀でいきます」


昼食を摂り、暫しの休憩を取って体力と気力を回復した。




休憩後-----------




食後の休憩も取り準備万端。


「エル、どうだ?」

「大丈夫です。兄さま」


「じゃあ、行くぞ」

「はい」


オレは左手に盾、右手に片手剣を装備し、エルは短剣二刀だ。

いつもと真逆な装備での模擬戦に、オレは思った以上にワクワクしていた。


エルがこちらに突っ込んでくるのをオレは盾を構えて待ち受ける。

エルは短剣を振るいながら足技を混ぜ、魔力武器(大剣)まで自由自在に使ってみせた。


中でも一番厄介だったのはバーニアだ。生き物の挙動と根本的に違う動きに、どうしても反応が一瞬遅れてしまう。

カウンターの片手剣を撃ち込もうとした時もバーニアを使い後方へと逃げられる。


「エル、オレが言うのも何だがバーニア……本当にやり難いな……」

「分かります……」


エルは苦笑いを浮かべながら答えた。

一度、仕切り直して、今度はオレから攻めていく。


リアクティブアーマー。このスタイルにはやはりリアクティブアーマーが使い易い。

エルがウィンドバレットを当ててリアクティブアーマーを暴発させようとしてくるが、バーニアで避けて突っ込んでいく。


殆ど無理やりの特攻だがバーニアがあればそんな動きも出来てしまった。

リアクティブアーマー込みのバッシュ。


エルは右側の魔力盾を起動したが完全には威力を防げずに3メード程、吹っ飛んだ。


「参りました……」


まだやれるだろが良い攻撃を貰ったら降参するのがオレ達の中でのルールになっている。

そうで無いと大怪我を負ったり、最悪は殺してしまうかもしれない。


オレとエルは構えを解いてお互い近くに寄って行く。


「兄さま、強いです」

「お前の方が強いだろ」


エルは首を振って答えた。


「ただ兄さまの最後の攻撃。バーニアがあればリアクティブアーマーで強引な攻撃が出来るのが分かりました」

「ああ、怖いな」


リアクティブアーマーは近距離で爆発を受けるので元々、攻撃力は高い。

それを強引に当てられるとなるとエルのカードが1枚増えたと言う事だ。


「疲れたな。戻って休憩するか」

「そうですね」


オレとエルが屋敷へと戻ろうとすると、それを邪魔するかの様にアシェラが立ち塞がる。


「ボクとの約束」


オレはエルと顔を見合わせ”ラスボスがいた”と苦笑いを交わす。


結局、アシェラとの模擬戦はオレもエルもボコボコにされて終わった。

ただ盾越しだとアシェラの攻撃に、いつも程の圧力を感じない。


やはり戦いには相性がある事を再確認出来た。それにバーニアの動きはアシェラ相手でも十分に通用する。

この収穫があっただけでボコボコにされた価値はあったはずだ……きっとあったはず……





明日からは迷宮探索が再開される。この休みの間、超振動の修行もみっちりして6秒で発動出来る様になった。

これ以上の短縮は一朝一夕では難しいかもしれない。


地竜戦ではエルとオレが超振動、アシェラが魔法拳を試してみる事になる。

明日からが本番だ。気を引き締めて行こうと思う。




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