第391話ブルーリング武道大会 part3

391.ブルーリング武道大会 part3






寂しくはあるが、リーザス師匠が去ってしまった事により、目的の半分は既に達成した事になる。

後はラヴィとメロウに分からせれば、この模擬戦も大成功となるのだが……


当の本人たちはと言うと、メロウはエルに攻撃を掠らせる事すら出来ずに、カウンターの一撃をもらい気絶。

ラヴィはカズイに散々 七面鳥撃ちされて、最終的に降参した。


少しは実力差を感じて大人しくなったかと思いきや、そこは2人の事。一息入れた所で文句を言い出したのだ。


「ズルイぞ! 空を歩けるんじゃ、私の攻撃が当たらないじゃないか!」

「そうだ! それにアイツは何だ。岩を相手にしてるみたいで全然攻撃が通らないぞ!」


言われたカズイとエルは眉根を下げ、どう返して良いのか分からず困った顔をするだけだ。

しかし、カズイは兎も角、エルが本気を出せば一瞬で終わってしまうわけで……実力差を叩き込むため、わざと長引かせたのにメロウには理解出来なかったらしい。


そんな2人を見て、呆れた顔で母さんが口を開いた。


「アルの恩人って聞いてたから黙ってたけど……そこの2人は少し甘えすぎじゃないかしら?」

「な、何を! 私のどこが甘えてるって言うんだ!」

「そ、そうだぞ! 私は甘えてなんか無い!」


「ハァ……先ずはそっちの魔族の娘。今回の事は、よく考えもせず、魔道具の使用を許可したアナタ達の落ち度よ。それに、そもそも魔物には空を飛ぶ敵も当たり前にいるわ。アナタはそんな相手に「ズルイ」って文句を言うのかしら? 次にそっちの獣人族の娘。エルはアルと双子なだけに、同じチカラを持っているわ。世界中 探しても対等にやり合える者なんて片手もいないはず。そんな相手にどれだけ手加減されたのかも分からないなんて……アナタ達はそれでも「甘えてない」って言い張るのかしら?」

「そ、それは……じゃあ、私にも魔道具を貸してくれ! それなら対等だ!」

「アルドと同じチカラ? え? だってアイツ、自分でアルドほど強くないって言ってたぞ! 騙したな!」


あー、そうだった。コイツ等は絶対に折れない心を持ってたんだった……まぁ、おバカとも言うのだが……

放っておくと本気で母さんを怒らせ兼ねないので、面倒臭い事この上ないがオレがフォローする事にした。


「ラヴィさん、分かりました。但し、流石にいきなり空を歩くのは許可できません。危険すぎます。今回は、空間蹴りの魔道具を禁止にしましょう。それで良いですか?」

「ああ、それなら対等だ。問題 無い!」


「メロウさん、エルは修羅と呼ばれて、このブルーリングでも最強の1人なんです。そんな相手の実力を計れなかったのは、メロウさんの慢心のせいですよ」

「でもアルドと同じぐらい強いって反則じゃないか! そんなの分かるわけないだろう!」


ラヴィと違い、メロウは納得していない。どうした物か……頭を抱えていると、見かねたネロが会話に入ってきた。


「じゃあ、次はオレとやるんだぞ。オレはアルドやエルファスよりだいぶ弱いぞ。それでもお前には負けないんだぞ」

「言ったな! お前なんか簡単に倒してやる! アルド、私の次の相手はコイツにする」

「分かりました……ネロ、熱くなり過ぎるなよ。軽くだぞ?」


こうしてブルーリング武闘大会の2戦目が始まったのであった。






メロウ組ではメロウとネロが、お互いに闘気を漲らせて向かい合っている。

対するラヴィ組はラヴィVSライラであった……あー、ラヴィさん、確かに魔道具は禁止にしましたが、ライラは素の空間蹴りが使えるんです……さっきと同じように、七面鳥撃ちされる光景が目に浮かぶんですが。


ラヴィの冥福を祈りつつ、目の前のメロウとネロに向き直った。


「じゃあ、ネロ、メロウさん、準備は良いですか?」

「オレはいつでも良いんだぞ」「私だっていつでも良い! お前なんか軽く捻ってやる!」


「ハァ……では、始め!」


メロウは「始め」の合図と共に、ネロへ真っ直ぐに突っ込んでいく。

メロウさん……初めての相手と戦う場合は、先ず様子を見て実力を観察しろって教えたでしょうに……ハァ、絶対に忘れてるだろう……


もういっそ何か1つ覚えたら、ご褒美にデザートでも付けるか? 何故だろう……一瞬 凄く賢くなったメロウが、白衣を着て教壇で弁を取っている姿が見えたような……

思考が逸れた。


メロウは片手剣を前面に出し、縦横無尽に振るってネロに迫っている。

一見するとネロは防戦一方に見えるが、顔には余裕の笑みを浮かべ左手の片手斧を盾のように使い、メロウを軽くいなしていた。


「クソッ、ちょこまかと! 正々堂々と打ち合え!」

「んー、打ち合っても良いのか?」


メロウからの言葉を、どう判断すれば良いのか分からないのだろう。ネロはオレをチラチラと見ながら、攻撃を受け流している。

うーん、このまま放置してメロウを調子付かせるのもなぁ……仕方ない。ネロからの視線に頷いて返してやった。


「アルドからOKが出たんだぞ。段々と速くしていくから、付いて来れなくなったら降参すると良いんだぞ」

「これ以上速くとか、適当な事を言うな! 今でも精一杯なくせに!」


メロウの激昂する声が響く中、宣言通りネロの動きは徐々に速くなっていく。

最初こそ反応出来ていたメロウだったが、速く鋭くなっていくネロの動きに、とうとう追いつけなくなってしまった。


「もう少し速く動けるんだぞ」

「くそっ、こんな動き……これじゃあ、アルドと変わらないじゃないか……」


メロウの零した言葉……確かにネロの速さは、本気の身体強化をかけたオレやエルの速さに匹敵している。

勿論 オレやエルには斥力を使った空間蹴りやバーニアがあるので、実際にはネロに速さで圧倒される事は無い。


しかし、ネロの脚を改造した事で、獣人族の特性である身体能力の高さと身体強化の適性の高さ。この2つの相乗効果が、ネロに凄まじい成長をもたらしていた。


「兄さま、ネロのあの速さ……魔力操作が一段階上がるように、脚を改造したからですよね?」

「ああ、たぶんな。あそこまでの速さ。バーニア無しならオレやお前でも追いつけないかもしれない」


オレとエルが考察している間も模擬戦は続いており、ネロは怪我をさせないように軽く攻撃を当てるだけに留めている。

そんな手加減された攻撃を、メロウは煽られていると受け取ったようだ。


負けを認めながらも、女の子がしちゃいけない顔で大声を上げ、完全に切れ散らかしている。


「きょ、今日の所は負けを認めてやる!! でもお前は絶対にいつか泣かしてやるからな!! 覚えておけ! ムキーーーーー!」  


あー、ムキーーって前にも聞いた事ある。あの時はラヴィさんがパーガスにおちょくられたんだったか……

もしかしてアルジャナでは一般的に使われてたりするのだろうか?


頭を振って考えを切り替えてから、ネロの勝ち名乗りを上げた。


「勝者、ネロ!」

「……ハァハァ……やったんだぞ……ハァハァ……」


ネロは滝のような汗を流し、今の戦いが一方的な物であったなど信じられないほど消耗している。


「ネロ、お前、その汗……メロウさん相手にそこまでの消耗? まさか、脚だけ魔力操作の練度が高いから、それ以外の箇所に負担がかかってるのか?」

「……ハァ、そうみたいだぞ……ハァ、長い間 全力で動くのは無理かもしれないぞ……ハァ」


「マジか……」


やはり体を好きに改造するなど、許される事では無いのだろう。ネロからすればメロウは間違い無く格下である。

そんな相手と僅かな時間の模擬戦でここまでの消耗するなんて……


オレやアシェラの改造は腕だったから分からなかったが、この技術は想像以上に欠陥がありそうな気がする。


「ネロ、異変を感じたら直ぐに言ってくれ。約束だぞ」

「分かったんだぞ……」


ネロに新たな課題が発生はしたが、一応の勝敗は決まった。ラヴィ組の方はどうなっているのだろうか?

好奇心を隠す事も無く、振り返ると……ライラは涼しい顔で立ち、転がされたであろうラヴィが肩で息をしながら必死に立ち上がろうとしていた。


この状況はどうなってる? ライラが地上にいると言う事は、空間蹴りを使っていないのか?。

であれば、何故 ラヴィはこんなにも消耗しているのだろうか……


その答合わせをするこのように、ラヴィは再び両手剣を構えてライラの下へ走り寄っていく。


「このぉぉぉぉぉぉぉ!!」

「……何度やっても同じ……これで終わり」


ライラが杖をラヴィに向けた瞬間、無数のウインドカッターが現れ、ラヴィに向かっていく。


「くそっ、こんな物!! ぶへっ、ごふっ、ぎょっ……」


ライラが連続で放ったウインドカッターは、刃はナマクラでラヴィに当たった瞬間 砕けてしまうほど脆い物であった。

しかし、そこは腐っても攻撃魔法……当然ながら当たれば素手で殴られた程度の威力はあるのだ。


結果ラヴィは、ライラに近づこうとする度に地面へ転がされている。

何度でも立ち上がるひたむきな姿は、勇者のようにさえ……いや、違うな……これは犬だ。がむしゃらに突っ込んで、返り討ちにあっている狂犬が相応しい。


「ラヴィさん、もう負けを認めた方が良いんじゃないですか?」


綺麗な顔が腫れあがって、目と口なんて数字の3になってるじゃないですか……


「バカを言うな! こんな魔法なんか全然 効かないぞ! もう少しで倒せるんだ、邪魔をするな!」


あー、それはライラが、大きな怪我をさせないように威力を調整してるからです。しかも、万が一魔法をくぐり抜けても、空間蹴りで空に逃げれるんですよ?


でもなぁ、ラヴィに言っても素直に言う事を聞くわけが無いし……どうしよ。


「しょうが無い……ライラ、もう少し本気を出してくれ。ただし、ラヴィさんは恩人なんだ。やり過ぎないでほしい」

「分かった……」


ライラはオレの言葉を聞いてラヴィに向き直る。


「アルド君が言うから、もう少し本気を出す……実力の違いが分かるように、ここから先 魔法は使わないであげる……」

「魔法使いが魔法を使わないだと! ふざけるのもいい加減にしろ!」


「アナタにはそれで十分」

「舐めるな!!!」


ラヴィは髪が逆立つほどの怒りを見せ、両手剣を振り上げライラへ突っ込んでいく。

先ほどまでなら ここで魔法の弾幕を張っていたが、宣言通りライラは魔法を撃つ様子は無い。


ライラは純粋な魔法使いである。身体強化の練度は並みの魔法使いより高いとは言え、純粋な剣士とは比べるまでも無い。

しかし、ライラにラヴィの攻撃が当たる事は無かった。


魔法を使う事も無く、身体強化の練度が勝る相手からの攻撃をどうやって躱したのか……


「お前、ズルイぞ! それはアルドが使っている歩法だろう!」

「何もズルくない。この移動法の名は「バーニア」、魔道具無しに空間蹴りを使える者だけに許された技術……そして、アナタを倒す技術でもある……」


「言ってろ! 少し速く動けるだけで、私に勝てると思うな!」


凄い……これだけ手加減されてるのに、まだ自分が格上のような雰囲気を醸し出している。

ライラは眉根を寄せて何かを言いたそうにしているが、ラヴィには何を言っても無駄だと悟ったのだろう。


無言でバーニアを吹かし、ラヴィの背後を取って背中に杖を押し当てて口を開いた。


「これで終わり……これでも降参しないなら、更に痛い目にあってもらうしか無い」


流石にこれでも降参しないのなら、ライラが言うように身をもって味わってもらうしか方法は無い。


「くぅっ……分かった! しょうがないから、今回だけは降参してやる!」


何とか降参してはくれたが……ラヴィさん、アナタは負けたのに、何でそんなに偉そうなのかと。

これで第2戦目が終わったわけだが……これ、今日中に終わるのか? もう止めても良いんじゃないかな?


そんなオレの心を無視するかのように、ラヴィとメロウは不服そうな顔で座っていたのだった。





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