第392話ブルーリング武道大会 part4
392.ブルーリング武道大会 part4
第2試合が終わり次は第3試合なのだが、後1時間もすれば昼食の時間となる。
今オレの頭を過るのは、「これ今日中に終わるんだろうか?」と言う事だ。
流石に何日もこんな意味の無い模擬戦なんてしたくない。更に言えば、見学している騎士達。オレ達の戦いを参考にする処か、完全に観客と化してはしゃいでいるだけである。
良いご身分だな、騎士団!
「これは思ったより時間がかかるな。どうするかなぁ……」
オレの独り言を聞き、ルイスが話しかけてくる。
「そうだな。確かにこのペースだと、後、数日はかかるかもな。そんなお前に朗報だ。オレ達の組は母さんが帰って人が少ない。ナーガさんをこっちの組に移せば、全体の時間がかなり縮まるんじゃないか?」
「そうか、なるほど。ナーガさんを移せば……でも、それだとオレ達の組だけ人数が多くなるぞ?」
「そこはな……今回、お前はもう棄権で良いんじゃないか? 元々 母さん達に他の者の実力を分からせるために始めたんだ。あの2人も、流石にお前の実力まで見誤るような事は無いだろ?」
「あー、確かにな。もし、それでも文句を言うようなら、後日 ミッチリ修行してやれば良いか」
「ああ。じゃあ、決まりだな」
ルイスの言葉に頷いてから、全員へ新しい組み分けとオレは棄権する事を知らせたのである。
第3試合を終え、それぞれの組の優勝者が決まった。
メロウ組からはエル。オレが棄権した事から、当然のように勝利を決めた。
ラヴィ組からはライラ。
空間蹴りの魔道具を禁止にした事で、素の空間蹴りを使えるライラはメロウとカズイを完全に圧倒してしまった。
やはり、何時だったかナーガさんが言っていたように、「空を飛べる」というのは1段階 強さが引き上げられるのと同義なのだろう。
そして最後のリーザス組は……予想通り氷結さんが代表の座を掴んだ。
ルイスとの戦いでは、終始 圧倒的な魔力操作を見せ付け、一切 近づく事すら許さず勝利をもぎ取っていった。
こうしてメロウ組からはエル。ラヴィ組からはライラ。リーザス組からは母さん。3人の代表が決まったのである。
そして、いよいよ昼食の後は3人でのリーグ戦を行い、勝率で優勝者を1人決めるのだ。
「では昼食にしましょう。食後の休憩も考えて、次は13:30から始めます。3人は遅れないでくださいね」
「分かりました、兄さま」「うん、アルド君……」「分かってるわよ。本当にアルは細かいんだから」
氷結さんは何を言っても文句を言うので放っておくとして……見学していたアシェラ、オリビアと合流して領主館で昼食を頂いたのであった。
昼食後の休憩もしっかりととり、皆の調子も良さそうだ。
「じゃあ、決勝リーグを始めましょうか。最初はエルVSライラ、次にエルVS母様、最後が母様VSライラの順番で進めようかと思います」
3人は頷いて了承の意思を示している。
ここからは演習場の真ん中へ移動して、1試合ずつ進めていくつもりだ。
「第1試合を始めるぞ。エル、ライラ、準備は良いか?」
「はい」「大丈夫……」
「良いのを貰ったら降参するんだぞ。熱くなりすぎるなよ。じゃあ、始め!」
開始の合図と同時に、ライラは牽制の魔法を放ちながら距離をとっている。
純粋な魔法使いであるライラからすれば当然の選択だ。わざわざ近接戦をする意味など無い。
しかし、エルも黙って見ているはずも無く、距離を詰めるべくバーニアを吹かしてライラへ真っ直ぐに突っ込んでいく。
エルのバーニアを使った攻撃……普通であれば、大抵の者は常軌を逸した速さに、反応する間も無く叩きのめされる事になる。
しかし、ライラは驚く事に対応してみせた。オレ達よりは拙いとは言え、同じバーニアを使い攻撃を躱してみせたのである。
しかも、お返しとばかりに、ウィンドカッターのオマケ付きだ。
エルはオマケの魔法を軽く盾で弾いていたが、その光景に驚いたのは、エルの強さを知っているルイスやネロ、カズイ達だった。
「ちょっ、ちょっと待てよ……相手はエルファスだぞ? 何で対等に戦ってるんだよ! おかしいだろうが!」
「そ、そうだぞ。何なんだぞ、あの動き……あれじゃ、アルドやエルファスと同じなんだぞ」
「凄い……あんな女の子が、エルファス君と対等に戦ってるなんて……」
あー、そう言えば3人共、ライラがまともに戦う姿を見たのは始めてだったかも。
普段はお笑い要員ですが、これでも一応 自前で空間蹴りが使える4人の内の1人で、凄腕の魔法使いなんです。
しかも、何度か命を救って貰ってるほどの手練れだったりします。
ルイス達の驚きの中でも戦いは続いており、終始 エルが追いかけ、ライラが躱しながらのカウンターを入れている。
そんな緊迫した戦闘も10分が経った頃、唐突に終わりが訪れた。
エルの動きが一段階上がったのである。まるで今までの動きは様子見だと言わんばかりに、スピードを上げていく。
徐々に対処 出来なくなったライラは、最終的に「降参」の言葉を口にしたのだった。
第1試合が終わって、エルには悪いが直ぐに第2試合を始めようと思う。
「このまま第2試合を始めようと思います。エル、母様、準備は良いですか?」
「はい、大丈夫です」「問題無いわ」
「では怪我などしないように……始め!」
決勝リーグへ勝ち進んだ3人の中で、唯一 母さんだけが空間蹴りを使えない。
本来なら空中から七面鳥撃ちすれば良いような気がするが……実際に距離を取って魔法を撃とうものなら、返り討ちにあうのは火を見るより明らかだ。
何故なら修羅と呼ばれるオレ達3人ですら、魔法のみの模擬戦で母さんから勝ちを拾えた者はいないのだから。
当然ながらエルも母さんの実力は分かっている。無暗に空へ上がったりせず、盾を構えながらジリジリと距離を詰めていく。
そうして2人は近づいていき、不敵な笑みを浮かべた母さんとの距離が3メードを切った所でエルが動いた。
バーニアを吹かし、一気に距離を縮めて母さんに突っ込んだのだ。
そのままエルの片手剣が母さんに吸い込まれると思われた瞬間、辺りを眩い光が照らし出す。
これは……フラッシュ……この光量……それなりに距離があったオレですら、目がチカチカして母さんを捉えられない。
そんな混乱する場の中、小さくではあるがハッキリとエルの声が響き渡った。
「参りました……」
参りました? 霞む視界の中、目をこすりながらも2人を捜すと、母さんから首筋に鞘付きの短剣を当てられているエルの姿があったのである。
子供の頃から数えきれないほど模擬戦を行ってきたが、「接近戦あり」のルールで母さんが勝ったのは初めてじゃないだろうか?
母さんは頬を染め、満面の笑みを浮かべながらエルへ口を開いた。
「むっふっふーーのふー! エル、これで私の実力が分かったでしょ。私が本気を出せばこんな物なんだから!」
嬉しそうな母さんへエルが少し呆れた笑いを浮かべている……嬉しかったのは分かるが、負かした相手へ自慢するとか……無いわ。
「流石は母さまです。いきなり最初からフラッシュを使ってくるとは思いませんでした。狙っていたのですか?」
「まあね。エルなら絶対にゆっくり距離を詰めてくると思ったわ」
「ゆっくり……もしかして兄さまやアシェラ姉だったら、フラッシュを食らわなかったんでしょうか……」
「アルやアシェラなら、いきなりバーニアで突っ込んでくるでしょうね……でもその場合の対策も考えてあるわよ?」
「バーニアへの対策ですか?」
「ええ、バーニアにも弱点はあるわ。その1つ、あれは速すぎるのよ。制御出来ないほどの速さ、それ自体が弱点ね」
「速いのが弱点……すみません、母さま、言っている意味が分かりません」
「そうね……例えば、狭い洞窟の中で10個のウィンドバレットが浮いているとして、エルはバーニアを使いながら、全ての魔法を搔い潜る事が出来る?」
「それは……魔法間の距離や配置によります。通り抜けられる隙間が無ければ難しいかと」
「そう、要は通り抜けられない間隔でウィンドバレットを配置してやれば、バーニアを防ぐ事が出来る。こんな風にね」
そう言って母さんは、自分の前に20個のウィンドバレットを待機状態で漂わせ始めた。
20個のウィンドバレット……それぞれの魔法は、ぶつかったりせずフヨフヨと漂っている。この人はどこまで強くなるんだろうか……まだ先日の専用魔法もあるのに……
「まぁ、そうは言ったけど、アナタ達には魔力盾があるわ。強行突破するつもりなら、けん制にしかならないとは思うけどね」
「……」
「でもエル、勝ちは勝ちよ。今回は素直に譲りなさい」
「はい、分かりました……」
こうして母さんがエルに勝つと言う番狂わせの中、第2試合は終了したのだった。
最後の第3試合は母さん対ライラ。2人は向かい合いながら、不敵な笑みを浮かべて口を開いた。
「ライラ、1つ聞きたいのだけど……1段階強くなった今の私に、勝てると思っているのかしら?」
「お義母様……アナタの才能は本物です……でも今回は私が勝たせてもらう」
「面白い、面白い冗談だわ。本気で私に魔法で勝てると思って? この「魔法使いの王」こと、魔王ラフィーナに!!」
「くっ、魔王……か、勝てないかも……あ、アルド君。私に勇気の出る言葉をください」
あー、何か先の展開が読めてきたな……ジト目でライラを見るも、キラキラした眼差しを向けてくる……何だかなぁ。
「はぁ……らいら、がんばれよー(棒)」
オレの全く心の籠っていない声援に、ライラは満面の笑みを浮かべながら母さんへ告げた。
「アルド君の声援で私の勇気は100%。「勇気を持つ者」……勇者ライラが相手になる!」
君達、何やってるの? ネタなの? 絶対 真面目にやってないですよね?
何時の間にか、魔王対勇者の最終決戦が始まっちゃうんですが?
「もう、好きにしてくれ……(ぼそ) 第3試合を始めますよー。母様、ライラ、準備は良いですかー?」
「ええ、いつでも良いわ」「私も良い」
「では、はじめー」
こうして魔王対勇者の戦いの火蓋が切って落とされたのである。
10分ほどが過ぎて、ライラは荒い息を吐いて母さんの前で跪いている。
「クックック、勇者ライラ。魔王たる私には一歩及ばなかったようね!」
「くっ、後少しだったのに……」
「フハハハハッ、唯一 私を越える可能性のあったライラを倒してみせたわ! これで私は真の魔王になったのよ!」
おーい、2人共、いつまでやってるんですか? いい加減 帰ってこーい。
この2人は何時までもキリが無いので放置だ、放置。サッサと進めさせてもらおう。
「あー、ごほん。今回のブルーリング武道大会の優勝者は「氷結の魔女」……ラフィーナ=フォン=ブルーリングに決定しました! 観客の皆さん、大きな拍手で祝福してください」
オレの勝ち名乗りに、周りの騎士達から拍手と大きな歓声が上がる。
「ブルーリングの英雄!」「ラフィーナ様ー、恰好良かったですー!」「まさか修羅様を抑えて、ラフィーナ様が……」「女帝だ……」「凄かったですーーこんな戦いを見せて頂いてありがとうございましたー」
「ラフィーナ先輩ーーステキーー!」
母さんは大きな歓声を聞き、鼻の穴を広げてご満悦の表情だ。
「ふっふっふっふ! もっと私を称えなさい! 最高の気分ね! 私の勝利を祝して、魔王である私の最強の魔法を見せてあげるわ!」
母さんに向かって強い風が吹き、圧縮された風の弾が出来ていく……徐々に圧縮熱で陽炎が立ち上り始め、恐ろしいほどの存在感を見せつけていた。
おま、こんな所で何やってやがる! ヤメロ! それ暴発したら夥しい死人が出るんだぞ!
何を考えているのか、母さんはこんな場所でいきなり「氷結さん専用魔法」を作り始め、高らかに宣言した。
「目を見開いて瞠目しなさい! これが魔法使いの王たる私の最強魔法、「魔王の一撃」よ!!」
その瞬間、高速回転していたハリガネムシが演習場を越え、隣の林へ向かって射出された。
カン、カン、カカカカン……と幾つか何かを貫通する音の後、腹の底から響くような大爆発が巻き起こる。
ドォォォォォォォォォォン……
この日、ブルーリングに1人の魔王が降臨した。
その魔王は圧倒的な魔法を使い、ブルーリングにいた強者を全て屈服させたと言う……
人々は恐れおののき、毎日 プリンと呼ばれるお供え物を貢ぐ事で、魔王の庇護を賜ったのだとか……
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