第276話スライム part1

276.スライム part1






アオが消えた後、オレは先程の話を思い出していた。

実はずっと気にはなっていたのだ。過去の使徒は何故1人きりであるのに、話に聞くような活躍ができたのかを。


精霊がどれほどの強さかは知らないが、人よりは比べるまでも無いほとに強いのは確かなのだろう。

その精霊と一緒に戦えば、伝え聞く活躍も納得出来るというものだ。


それを踏まえれば、アオが言う“生まれ変わり“が本当に出来るのであれば、これ以上無い戦力アップになるのは分かる……

但し、それでアオがアオで無くなるのは、許容出来る話では無い。


きっとオレは甘いのだろう……本当に出来るのなら、アオに生まれ変わってもらうのが、使徒としての正しい選択なのも理解は出来る。

しかし、それにオレの心が納得できるかは別の話だ。


色々と思うところはあるが、オレは自分の中の甘さを存外、気に入っているのだ。

もっと言えば、そもそもの話この甘さも含めてこそ、今のオレがあると言うことになる。


精霊王が創世神話のような完全な存在であるならば、不完全なアオやオレを選んだ理由があるはずだ。

であれば、オレはオレの心のままに信じる道を進もうと思う。


そんな取り留めも無い事を考えていると、思ったより時間が経っていたようだ。

そろそろ眠気を感じ始めたため、アシェラと見張りを交代してもらった。


起こす時にいつもより寝起きが良かったので、もしかしたらアオとの話を聞いていたのかもしれない。

隠すつもりは無いので、聞かれていたとしても問題があるわけでは無いのだが……1つだけ気になるとすれば、アオが生まれ変わったほうが良いと考えないか、と言うことだ。


本気でそんな事を願う者がいるなら……オレはその人物と、どう接して良いか分からないかもしれない。

オレの家族には、そんな事を思う者がいない事を願いながら、眠りについていくのだった。




次の日の朝--------




「おはよう」


アシェラ、ライラと挨拶を交わしてから朝食の用意を始めると、やっと母さんが起き出してきた。


「おはようございます」

「おはよう……むにゃむにゃ」


母さんは、半分寝ぼけながらフラフラと木の枝を歩いており、ライラに後ろから支えてもらいながらの登場である。


「朝食を食べたら直ぐに出ようと思います」


母さんはチラッとオレの顔を見てから、興味なさそうに答えた。


「任せるわ」


それからは、いつも通りに過ごしながら、それぞれが準備を進めていった。

とこか空気が浮ついているように感じるのは、昨日のアオとの会話を聞かれていたからなのだろうか。


オレは気を引き締めるためにも自分の立ち位置を話しておくことに決めた。


「皆さん、聞いて下さい。実は…………」


昨日の夜、アオと話した内容を順を追って細かく説明していく。

3人共、何も言わずに真剣な態度で聞いてくれた。


「…………と言う事で、アオには今まで通りマナスポットの管理を頼むつもりです」


オレの話が終わり、1番最初に口を開いたのは意外な事にライラであった。


「私は判断出来ない……使徒としてアルド君が決めたのなら、それが正しいと思う……」


ライラの次は間髪入れず、母さんが口を開いた。


「ハァ、そもそもアオが生まれ変われるとして、今より優秀になれる保証は無いのよね?」

「そうですね」


「アオってマナスポットの管理をして、土地に祝福も与えてて、制御出来ないみたいだけと予知も出来るんでしょ?」

「予知はマナが動くような、大きな事件だけらしいですが」


「そもそも上位精霊の戦闘力って言っても、このスライムを倒せない程度なわけじゃない?使徒の魔力が無いと出てこられない精霊に、大した期待は出来ないと思うのだけど」

「確かに僕の魔力が際限なく使えるなら、戦闘力が不足してるわけじゃないですしね」


「最悪は戦闘中にヘタに魔力を使われて、邪魔になる可能性すらあるわ」

「そうですね」


母さんと話が纏まりかけた所でアシェラが口を開いた。


「ボクはライラと一緒で、良く分からない。でもアオは仲間。仲間を犠牲にするような事には賛成しない」

「そうか、そうだよな……仲間だもんな」


「うん」


結局、言葉は違っても、全員が今のアオで良いと言ってくれた事になる。

何故か少し嬉しくなりながら、準備を進めていくのだった。






移動を開始して数十分でマナスポットから200メードほど離れた場所までやってきた。

マナスポットである大岩は弱々しい光を放っており、その上に灰色の粘液が纏わり付いている。


「ここのマナスポットはそれなりに大きいと聞いていたんですが、今まで見たどのマナスポットより弱々しく見えます……」

「そうね、だいぶ小さくなったとは言え、一時は5キロのスライムが主だったから。きっと壊れかけてるのね……」


マナスポットの弱々しい光を見ていると、何故か知らないが悲しくなってくるのは、オレが使徒だからなのだろうか。

こうなると少しでも早く解放して、マナスポットへの負担を減らしてやりたい。


「ライラ、雷撃はマナスポットにも攻撃が当たる。今回は禁止だ」

「分かった」


「先ずはソナーで核と証を捜してみます」


それだけ言うとオレは魔力を纏い、スライムへと突っ込んでいった。

スライムはだいぶ体を減らされたからか、オレを捕食しようと勢いよく纏わり付いてくる。


魔力を纏っているので食われる事は無い。折角、向こうから来てくれているのだ、このままソナーを打たせてもらった……返ってくる魔力に集中すると……動いている……どうやら核が証らしく、的を絞らせないために、体の中をかなりの速度で移動させているようだ。


このまま母さん達に伝えようかとも思ったが、スライムの内側からは音が届かない。直ぐに空間蹴りでスライムの腹の中から逃げ出すと同時に、大声を出してソナーの結果を伝えた。


「コイツの証は核でした。核を奪うか壊すかしないと倒せません。しかも的を絞らせないために、絶えず核を動かしてます。殺さすに核を奪うのは難しいです」

「そう、じゃあ、核が壊れるまで全員で総攻撃ね。核が壊れたらアルは真っ先にマナスポットの解放を、皆は他の魔物の警戒よ」

「はい、お師匠」「はい、お義母様」


「後衛の私とライラは南から、前衛のアルとアシェラは北から攻撃よ」

「「はい」」「分かった」


どうやらフレンドリーファイアを避けるために、前衛と後衛を分けるらしい。

スライムの遠隔攻撃は精々酸の玉を吐く程度なので、それよりも同士討ちのリスクを優先したのだろう。


この辺りの判断は流石はAランク冒険者だと素直に関心できる。

早速、アシェラとスライムの北側へと向かい、攻撃を始めた。


「アシェラ、行くぞ。マナスポットは傷つけるなよ」

「分かってる」


そう言うとアシェラは魔力を纏い、更にウィンドバレット10固を漂わせスライムに突っ込んでいく。

先ずは特大の魔法拳を叩き込むと、スライムの体の10メードほどの部分が跡形もなく消し飛んだ。

更にウィンドバレットを叩き込んで確実にスライムの体を削っていく。


オレも負けてはいられない。魔力武器(大剣)を発動させると、バーニアを吹かして渾身のチカラでスライムを叩き切る……

あれ?何故か手応えが全く無い……あ、そう言えばスライムに斬撃って、効かなかったんだっけ……


誰も今のオレの攻撃を見ていない事を確認してから、スライムと距離を取る……見られて無い、セフセフ。

気を取り直して、それならと魔力盾を両腕から出して、それぞれにリアクティブアーマーを起動した。


「アシェラ、リアクティブアーマーを使う。少し離れてくれ」

「分かった……空振り、ぼそ」


アシェラが距離を取るのを見届けると、空間蹴りとバーニアを使ってスライムへ吶喊する……あーあー何も聞こえない。

最初に右腕のリアクティブアーマーが発動し、バーニアの勢いもあって思ったよりも激しい爆発が起こった。


自分まで吹き飛ばされそうな勢いの中、バーニアを使って更に前に進むと、次は左のリアクティブアーマーを発動する。

爆発に爆発が重ねられ、凄まじい爆発がスライムを襲う。


2発のリアクティブアーマーで、アシェラの魔法拳と同程度の量を消し飛ばしてやった。


「どうだ!」


100メードほどだったスライムは、オレ達4人の総攻撃で既に2/3の70メードほどまで縮んでいる。

ここに来て、野生の勘か生存本能なのか、スライムは自分の死を予見したのだろう。なんと今までのような捕食の行動では無く、粘液質の体を触手のように伸ばして攻撃してきたのだ。


近一番近くにいたアシェラに触手が振るわれるが、臨機応変に魔力盾を展開して防いでいた。


「アシェラ、大丈夫か?」

「うん。でもあの攻撃、魔力を纏ってるだけでは防げない。攻撃は躱すか魔力盾で防がないと」


「分かった。オレはリアクティブアーマーを主体に戦う」

「……」


「どうした?」

「リアクティブアーマー……今度で良いから、ボクにも教えて」


アシェラは攻撃が最大の防御と言わんばかりの戦闘スタイルであり、盾など使っている姿を殆ど見た事は無い。どういう心境の変化なのか、リアクティブアーマーを教えてくれとは……


「ああ、帰ったら教えるよ。実はアシェラにはもう少し、安全に戦ってほしいと思ってたんだ」

「……」


あー、この反応はリアクティブアーマーの攻撃力に惹かれただけっぽいですね……

攻撃オプションが増えるのは、単純に戦力の底上げになるので、教えるつもりではいるのだが……きっと攻撃にしか使わなさそうた。


アシェラの思惑が透けて見えたが、今はスライムの相手が先だ。

再びリアクティブアーマーを発動させて、スライムへと突っ込んでいった。




30分後




全員での総攻撃の結果、スライムの体は10メードほどまで削る事に成功していたが、ここに来て問題が表面化してしまっていた。


「母様、これ以上はマナスポットに攻撃が当たってしまいます……」

「……普通のスライム狩りみたいに、木の枝で体を散らす?」


「いや、流石にそれは……」

「そうよね。でもマナスポットに纏わり付いている以上、スライムだけをどうやって攻撃するか」


正直な所、あまりやりたくはなかったのだが、他に良い方法を思い付かない……渋々、オレは重い口を開いた。


「ハァ、しょうがないので、スライムの中からソナーを打って、核を直接狙います」

「それは良いけど、スライムの攻撃はどう躱すのよ。魔力を纏っただけでは、さっきの攻撃には耐えられないでしょ」


「そこは魔力盾を球状に展開して耐えようかと」

「アル、魔力はどれだけ残ってるのよ」


「半分と少しです……」

「アンタ、それって失敗した時の逃げる分の魔力を考えて無いでしょ……」


「なんとかなるかなぁって……」

「ハァ、アシェラ、悪いけど魔力盾はアナタが展開してあげて」

「分かった」


「それとライラは最悪の場合、雷撃を撃ち込む事を考えておいて頂戴」

「はい、お義母様」

「母様、それだとマナスポットが最悪、壊れる可能性があります」


「マナスポット1つと使徒であるアナタの命を秤にかければ、どちらに傾くかなんて議論するまでも無いでしょう」

「……」


「マナスポットを壊したく無ければ危なげなく勝ちなさい。それが全てを丸く収める事になるわ」

「頑張ってみます……」


こうして母さんに押し切られる形で、アシェラ達とスライムに突撃する事になった……解せぬ。






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