第277話スライム part2

277.スライム part2






些か魔力の残量に不安は残るが、ここは攻めきりたい。

仕切り直して、もしスライムが逃げ出したりマナスポットを壊したりしないとも限らない。


風竜戦での事もある。優勢な時には躊躇せず、攻めきるのも大事な事なのだと覚悟した。


「アシェラ、魔力盾を頼む」

「分かった」


早速、アシェラと一緒にスライムへと突っ込んで行くと、向こうも追い詰められているからか今までで一番苛烈に触手を振り回してくる。


「アシェラ、一旦離れよう」

「大丈夫。このまま行く!」


アシェラはオレの言葉を無視すると、魔力盾を球状に展開しその外にはウィンドバレット(魔物用)を12個漂わせた。

触手と言っても所詮はスライムの体、魔力盾に達する前に全てウィンドバレットで撃ち落されていく。


オレ達はそのままの勢いでマナスポットまで辿り着くと、スライムの体の中へ突っ込んでいった。


「体の中なら触手は来ない」

「お前、そこまで考えて突っ込んだのか?」


何故かオレの方を見ないアシェラさん……え?勢いのまま突っ込んだら、たまたまラッキーってヤツ?マジ?

想像以上の脳筋具合にオレが驚愕していると、アシェラはマナスポットの左側を見ながら口を開いた。


「アルド、核はあれ?」

「ん?スマン。直ぐにソナーを打つ」


そう言って魔力を纏って魔力盾の外へ手を出し、ソナーを打った……見つけた。アシェラが言う”あれ”がどれなのかは分からないが、マナスポットの左側を魚が泳ぐ程度の早さで移動している。


「“あれ“がどれなのか分からんが、核の方向を指差すからそっちに移動してくれ」

「分かった」


アシェラはオレが指を指す方向に移動するが、徐々にオレの指示を越えて移動していく。


「お前、核の位置が分かるのか?」

「うん、見える。こいつの核は普通のスライムと一緒みたい。不安だったから一応聞いてみた」


そう言えば、魔力視の魔眼であれば核が見えても不思議では無い、と言うか体の中の魔石が見えるなら普通に核も見えるって気が付けよ、オレ!

こうなるとサイレントパンサーの主に続き、アシェラはスライムの主の天敵と言う事になるのでは無いのだろうか……


ヤバイ……何がヤバイってオレの使徒としての尊厳がヤバイ。ついでに夫としての威厳もヤバイかもしれない。

そんな思いを抱きながら、せめてアシェラより早く核を倒すべく、ソナーを打ち続けるのだった……






「そっち!」

「くそっおしい!」


アシェラが核を見れる事が分かってから、オレとアシェラは核を壊すべく、魔力盾の中からウィンドバレットを撃っている所だ。

しかし考えてほしい、10mの池の中にいる魚を銃で撃つ事を。


こっちが必死なら向こうも必死である。なにせお互いに殺し合いをしているのだから……

しかも、こちらはマナスポットを人質に取られた格好であり、向こうは逃げの一手。


結果、まれに見る泥仕合にもつれ込む事になってしまった。


「くそ、雷撃が撃てればこんな奴、瞬殺なのに……」

「ボクも魔法拳が撃てれば……」


2人でボヤキながらもウィンドバレットを撃っているが、これ終わるんだろうか。

こんな時こそ氷結の魔女と呼ばれる母さんの精密な魔法が輝く時なのに……


しかし、悲しい事に、母さんにはソナーも魔眼も使え無いのである。

であれば、オレとアシェラで何とかしないといけない訳で、ひたすらウィンドバレットを撃って行くのだった。






昼食の時間になろうという頃、面倒になって半ば適当に撃っていたウィンドバレットに手応えがあった。

魔力も3割ほどになり、戦略的撤退を考え始めていた所である。


「やったか?」

「浅い。でも動きは凄く遅くなった」


アシェラの言うように全体の1/5を削られた核は、もう先ほどまでの動きは出来ないようだ。

2人でトドメを刺そうとウィンドバレットを準備した時、それは起こった。


スライムは核をマナスポットの影に隠す処か、闇雲に辺り一面暴れ始めたのである。


「マズイ、折角マナスポットに当てないように戦っていたのに、これじゃあ壊される」


オレはそう叫ぶと、魔力を纏い息を止めて魔力盾の中から飛び出した。

狙いは動きの鈍った核のみだ!


バーニアを吹かすが、スライムの中では思っていたより動きが遅い。

それでもバーニアを吹かし続けると、やっと核を目の前に捕らえるまで近づく事に成功する。


(随分、手子摺らされたがこれで終わりだ!)


リーチを伸ばすため魔力武器(片手剣)を発動させると、バーニアの勢いそのままに核へ真っ直ぐに突き入れた。

スライムは数秒間震えていたが、直に透明になって流れ出していく。


「やっと倒せたか……疲れた……」

「うん、疲れた」


想像よりだいぶ手子摺らされた感想を、アシェラと話していると、オレ達から10メードほどの場所ににウィンドバレット(魔物用)が撃ち込まれた。


「アル!まだ終わって無いわよ。早く解放を!」


ウィンドバレットは母さんの仕業だった。何時の間にか近づいていたサイレントパンサーを、ウィンドバレットで倒してくれたのだ。

ここまで来て他の魔物に、漁夫の利をされるのは流石に御免被る。


母さんの言葉に青くなったオレは、バーニアを吹かながら必死にマナスポットへ右手の指輪を押し当てるのだった……






アオがマナスポットの上で丸まってから30分ほどが過ぎた頃、調整が終わったらしいアオはゆっくりと起き上がった。


「アオ、マナスポットを開放出来たのか?」


聞こえてはいるのだろうが、アオはマナスポットの上で微動だにせず、難しい顔でマナスポットを見つめている。

きっと今も必死に壊れかけのマナスポットを調整しているのだろう。


アオの邪魔をしないように、そこからは話しかけたりはせず、弱々しく光るマナスポットをジッと見つめ続けた。

少しの時間が過ぎた後、アオが唐突に口を開く。


「ダメだ……マナが遮断されていて、崩壊が止まらない……」


アオの言う事はいつも難しい。上辺だけで無く本質的な意味を聞かなければ。


「アオ、教えてくれ。マナスポットは間に合わなかったのか?」

「……」


「アオ!どうなんだ?」

「……マナが圧倒的に足りないんだ。今は辛うじて領域を保っているけど、マナが再び満たされるまでの時間はたぶん持たない」


やはり何を言ってるのか半分も理解出来ない。しかし、アオの様子からこのマナスポットは恐らく手遅れなのだろう。話によるとマナが足りないみたいだが……

マナ……オレは記憶の糸を手繰り寄せる。アオは随分前に言っていた筈だ。魔瘴石はマナが汚染された瘴気で出来ていると……


「アオ、オレには詳しい事は分からないが、魔瘴石じゃあ補填出来ないのか?」


緋想な顔のまま振り返ったアオの顔に、驚きと希望が入り混じる。


「アルド!魔瘴石は瘴気の塊だ。瘴気は元々、マナが汚染された物……浄化してある魔瘴石があればなんとかなるかもしれない!」


オレは収納から風竜戦で手に入れた魔瘴石を取り出すと、直ぐにアオへ手渡した。


「アルド、お手柄だ!これで何とかなるはずだよ」


魔瘴石は宙に浮くと、徐々に青い光りを放ち出す。光が強くなり凝視できなくなった頃、今度は青い色が徐々に薄れていった。


最終的に色の無い純粋な光の塊へと変わったソレを見て、オレは根源的な感動を呼び起こされる。


「これがマナ……」


例えるなら魂……人の魂を見る事が出来たなら、きっとこんな光なのだろうと思えた。

そんな恐ろしくも美しい光の塊は、吸収されるかのようにマナスポットへと飲み込まれていった。




次の日の朝----




昨日、魔瘴石の光が吸い込まれてからアオは、いつものようにマナスポットの上で丸くなった。

しかし、いつもは30分もすると起きてくるのに、今回は身動き一つせず結局一晩が過ぎてしまった事になる。


オレ達としては無防備なアオを放っておくことも出来ず、こうしてマナスポットの前で野営をする事になってしまったのだ。

まぁ、ブルーリングへ帰るにもマナスポットで飛ぶのが一番早いわけであるし、エルの結婚式までは4日あるので、今さら1日ぐらいどうと言う事は無いのではあるが。


そうしてノンビリとした時間を過ごしていると、昼過ぎにアオがゆっくりと起き出した。


「アオ、マナスポットはどうなった?」

「もう大丈夫だ。魔瘴石を浄化して、マナだけをマナスポットの核に注ぎ続けたんだ」


「そうか……良く分からないけど大変だったんだな」

「マナスポットの核だよ?なんで分からないんだよ!アルドは使徒だろ?」


「そう言われても……マナも昨日の魔瘴石の光を見て、初めて感じたぐらいだからな」

「昨日のは純粋なマナの光だよ。あれは人の魂の光と酷似しているんだ。あれだけのマナを扱えるのは、マナの精霊である僕ぐらいの物さ」


「そうか、アオじゃなきゃマナスポットは壊れてたのか……」

「まぁ、そうだね」


「偉業を成した使徒と、他の上位精霊には出来ないマナスポットの修復を果たした精霊。オレ達は過去のどんな使徒と精霊より凄いんじゃないか?」

「え?あ……そ、そうだね。その通りだ!僕達は最高のチームだよ」


そう言ってアオは心の底から嬉しそうに笑った。






それからアオは、木の上に浮いている魔瘴石もこの地に祝福を与えるのに使いたいと言い出し、オレは快く了承した。

実はスライムを倒すのに必要だっただけで、マナスポットを開放した今、あそこに領域を作ったことさえ忘れかけていた所である。


アオに言わせると、5キロにも育ったスライムはマナスポットだけで無く、周辺の土地すらもボロボロにしていたらしく、マナスポットが回復しても元通りになるには5年はかかるそうだ。

しかし、木の上の魔瘴石を使う事で、1~2年もしたら元の生きた土地へと戻る、と嬉しそうに笑っていた。


アオは今回の事で自分に自信を持てたらしく、呼び出すと機嫌が良い事が多くなっている。

勿論、相変わらず毒は吐くが、そこはアオなのでしょうがない。


しかし、マナスポットだけで無く土地も殺すとは……スライムの主、オソロシス……流石は過去に何度もマナスポットを壊してきただけはある。

今回、このマナスポットを守れた幸運に感謝し、ここに来るキッカケにもなった王子とグラン家には何かお礼でもしたいぐらいだ。


こうしてスライムを倒し終わったオレ達は、2手に別れる事になった。

1つはこのままブルーリングに帰還するチームだ。直ぐにでもグラン家の件をハルヴァとルーシェさんに話したいアシェラと、面倒くさい事が大嫌いな氷結さんが帰る事となった。


もう1つはヴェラの街で待っているタメイを迎えに行くチームである。これはライラとオレでヴェラの街まで移動するつもりだ。


「じゃあ、アシェラ、母様、行ってきます」

「うん、気を付けて」

「お土産期待してるわー」


簡単に挨拶だけをすると、アシェラと母さんはアオに指輪の間まで飛ばしてもらった。


「ライラ、行こうか」

「うん」


そうしてライラと2人、ノンビリとヴェラの街までの道のりを歩いて行くのだった。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る