第29話遠征準備:鑑定

29.遠征準備:鑑定





回復魔法の修行に思ったより時間を使ってしまった。

元々、鑑定には時間がかかると踏んでおり、回復魔法にはあまり時間をかけないつもりだったのだ。


しかし実際は15日程の時間を取られてしまい、鑑定の修行時間が思ったより取れない。

出来れば後3日は早く終わりたかった。


しかし、回復魔法もとても有用な魔法だ適当な所で終わらせて良いものじゃない。

かかってしまった物はしょうがない、と気持ちを切り替えていく。





まず、鑑定という魔法か技術について考えてみる。

この世界には“鑑定”という魔法も技術も無いらしい。これは“氷結の魔女”の異名を持ち、Bランク冒険者である母さんからの話なので信頼できる情報だ。


そうなると、やはりオレのオリジナルの技術となる訳だが……

どうすれば良いのか全く分からないのが本音だ。


しょうがないので鑑定に必要な能力から考えてみる。


<<< オレの思う鑑定の能力 >>>

1.相手の能力が分かる

2.相手のスキルが分かる

3.相手の弱点が分かる

4.相手のLVが分かる

5.相手を見るだけで発動可能

6.敵味方が分かる




ざっと諸兄が使っていた“鑑定”の能力を書き出してみたのだが、全部の能力は必要ない。

ここの中から、オレが必要な能力を絞り出していく。




1.の能力は欲しいな。これが分からないと、そもそも鑑定とは言えない。ただ、数値化は無理だろうな……何となく分かる程度で十分だ。

2.は、そもそもこの世界にスキルなんて無いからな、いらない。

3.かぁ。これも欲しいな……苦手属性だけでも良い、是非、欲しい。

4.はいらない。この世界にLV無いしな。

5.見るだけで発動できれば理想だ。だけど、触る、音を聞く、匂いなんかで発動でも十分だ。

6.これは……主観だからオレが判断すれば良い。いらない。




纏めてみると1.3.5.が欲しい能力だ。


相手の能力・弱点が判って、目視・接触などでなるべく簡単に発動できる。


ハードルが高そうだが、どんな方法があるか……




人の魔力が見れれば、そこから能力は判るのだろうか?


ちょっと母さんに相談してみようと思う。


居間に母さんがいたので対面のソファに座って、魔力を見てみる。

……

……

じー……

全く見えない。

ちょっと聞いてみる。



「母様、聞きたい事があります」

「どうしたの?」


「他人の魔力って見えるのですか?」

「難しい事を聞くわね……」


「難しいですか?」

「瞑想中の活性化された魔力や、発動寸前の魔力なら誰でも見えるわ。でも、他人の素の魔力は才能のある人にしか見えないの。身近な例だとアシェラね」


「アシェラが?」

「あの子を弟子にした理由が正にそれよ。アルが誘拐犯を殴り飛ばした時に、身体強化の魔力が見えたらしいわ」


母さんがアシェラの能力について、話し始めた。


「アシェラはアルの魔力が見えるのよ。いわゆる魔力視の魔眼ね」

「そうだったのか……妙に反応が良い時があると思ったら、魔力を見て動きを予想してたのか」


「ただし、魔力が見れるのは才能よ。修行で身に付けたって話は聞いた事がないわね」

「そうなんですか……」


「そもそもアシェラの能力は、魔力を使う事において特別な能力なの。アルは、ヒールやアンチポイズンを他人に掛けられる?」

「他人の魔力がよく分からないので、今は自分専用です」


「普通はアルと同じで他人にかけるには、修行が必要なのよ。ただしアシェラは違う。あの子は自分と同じ様に回復魔法を使う事ができるはずよ」

「アシェラがそんな有能とは……」


「何言ってるのよ。戦闘だって修行を始めたら、アンタなんてすぐに追い越されるわよ」

「それは、ちょっと言いすぎじゃないですか?」


「言い過ぎじゃないわ。アシェラと戦闘になって体を一切、触られずに戦える?」

「それは……難しいですが、体を触られると何かあるんですか?」


「他人の魔力が見えて、干渉できるって事は、相手を好きな毒の状態にできるって事よ」

「毒……」


「アンチポイズンの修行の時に、魔力を通常の状態に戻したでしょ?」

「はい……」


「アシェラはその反対が出来るのよ」

「……」


「勿論、毒だけじゃないわ。修行は必要だけど、理屈ではあらゆる状態異常にする事が出来るはずよ」

「あらゆる状態異常……」


「遠征に同行するんだもの。アルが回復魔法を修行してる間に、エルやアシェラも戦闘訓練の基礎は始めてるわ」

「戦闘訓練を……」


「エルは騎士団で騎士剣術を、アシェラは騎士団の中で格闘術が得意な者に、それぞれ修行を付けてもらってるはずよ」

「そうですか……」


「アルもうかうかしてられないわね」


ニヤニヤして見てきやがる……殴りたい、アナタのその笑顔!


「エルとアシェラは分かりました。オレは負けないように自分の修行を頑張ります」

「アルのそーゆー所、私は好きよ。頑張りなさい」


「はい。それで話は戻るのです…が…」


オレは当初の話の流れで魔力が見える様にならないなら、他人の魔力を感じられる方法を聞いてみた。


「他人の魔力ねぇ……」

「はい」


「回復魔法も厳密に言うと、他人の魔力を感じられるわけじゃないの」

「そうなんですか?」


「何十、何百と他人に回復魔法をかけて、効果が高い所に魔力を変化させる。そしてさらに何百、何千と回復して魔力を補正するってのを繰り返していくの」

「究極の効率化ですか……」


「おもしろい事を言うわね。その通りよ」

「じゃあ、他人の魔力を感じる事は無理だと?」


「少なくとも私は知らないわ」

「そうですか」


オレは母さんに礼を言い、自室に戻った。

アシェラをスカウター代わりに連れ歩くか……本気で考えそうになる。


(うーん、発想の転換が必要か?日本で調査の機械……医療機器?レントゲン、エコー、CT、MRI、……)


レントゲンをイメージしてみる。

右手から魔力を出し、左手で吸収する。

その間に調べたい物を置いてみる…今回はアポの実を置いてみた。


(お、何か手応えありっぽいけど……)


何かがあるのが分かる。

試行錯誤すれば鑑定まで昇華出来るかもしれない。


まずは第一候補と考えておく。


次はエコーだ。

アポの実に右手を当てる。

魔力を送って、返ってくる魔力を感じる。


(お、これも手応えありっぽいぞ)


これも良い、両方共、第一候補にしてみた。


(エコーがいけるなら、潜水艦のソナーはどうだ?)


早速、試してみる。

右手をアポの実に当てて、魔力の波を一瞬だけ送ってみた……返ってくる魔力を感じる。


(これは!一瞬だけ魔力を送るのが良いのか?レントゲンやエコーより返ってくる魔力が分かり易い)


これで決定とばかりに、色々な物にソナーを当てる。


分かった事があった。ソナーには通りやすい物と通りにくい物があったのだ。

通りにくい物の代表が魔力の高い生物。


これはレントゲンもエコーも同じ結果で、魔力の高い物は鑑定し難いらしい。


魔力の高い生物……アルドの近くで一番魔力が高い生物。


「ア~ル~今、何したの?」

「ソナーをかけました」


「そのソナーって何?って聞いてるの」

「この前、話した敵の状態を調べる技術です」


「敵って誰よ!」

「母様です」


「私って敵なの??」

「敵じゃないですけど、調べてみました」


「ハァ……」

「どうしました?」


「まあ、良いわ……」

「そうですか」


「それで、何か分かったの?」

「はい、母様の魔力はとても大きくて、僕の倍ぐらいなのが分かりました」


「魔力の量が分かったのね……」

「ただ、今はそれぐらいしか分かりませんでした」


「これから、どうするつもりなの?」

「まずは虫から、どんどん大きくして最終的には魔物に試してみたいと思います」


「魔物……遠征で試すチャンスがあるかしらねぇ」

「あると良いんですが。まずは予定通り虫から試してみます」


「分かったわ。定期的に進捗を教えてね」

「分かりました」


秋とはいえ虫ぐらいはそこら中にいる。捕まえてはソナーをかけて練度を上げていく。

オレは渋い顔をしてひとり呟いた。


「やっぱり、殺さないとダメか……」


虫にソナーをかけ始めてそろそろ10日程だ。

ソナーの効果により虫の体の構造など、分かる事は日々増えている。


しかし、弱点……死ぬ時の魔力の動きなど、殺さないと調べられない事が出てきたのだ。


「虫ぐらいなら良いけど、小動物、大型の動物、魔物……最終的には……人……」


既に5歳で人を殺しているとは言え、人殺しに慣れたわけでも、まして慣れたいわけでもなかった。


「虫、小動物までだ……」


今はそこまでと心に言い聞かせる。

将来、必要になる時が来たらその時に考えよう、と結論を先延ばしにした。



準備は万端とは言えないが最低限は出来たはず。

いよいよ遠征軍の出発の時だった。




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