第242話翼の天敵 part1

242.翼の天敵 part1






朝からオレ達はミルドの街の北東にある〝空の楽園”に向かって歩いている。

この空の楽園だが、名前は天使でも踊っていそうであるが、現実は真逆。地上から攻めるには天然の要害と言うのがピッタリくる地形であった。


切り立った崖に囲まれ、空を飛べなければ巣を攻めるだけでも多大な犠牲を覚悟しなければいけない。

翼のある者にとっては、正に楽園と言える場所であった。


「あー、これは確かにヤルゴも助けを求める訳ですね……ぶっちゃけアイツがいても何の役にも立たない……」


最近、オレの中でジョーに次いでのお笑い要員になりつつあるヤルゴでは、ここを攻めるに肉盾以外、何の役にも立たないのがひしひしと感じられる。


「いっそのことアイツをエサにすれば、ワイバーンの1匹ぐらい釣れるんじゃない?」


この鬼畜発言は安定の氷結さんである……恐らくだがナーガさんを攫った事がどうしても納得出来ていない気がする。

母さんは一見、適当ではあるが情には想像以上に厚い……一度でもナーガさんの命を脅かし、軽んじた事が許せないのだろう。


この件についてはヤルゴのこれからの行動次第なので、ヤツには誠意を持って信頼回復に尽力して欲しい。


「では母様、偵察ついでにこの大層な名前の断崖を見てきます」

「アルだけで行くの?」


母さんの言葉にアシェラとライラを見ると、付いてくる気満々である。

しかし2人を連れて行くと母さんが一人になってしまう……さすがに土地勘も無い場所に1人置いていくのは……


こうなると、いっそパーティーを2つに分けた方が良いかもしれない。

前衛と後衛を1人ずつ配置して……一通り考えるとオレと母さん、アシェラとライラでペアを組むのが最適だと思う。


「あまり時間も無いですし、パーティを2つに割りましょうか?」

「私は構わないわよ」


アシェラとライラを見ると2人も頷いている。


「じゃあ、母様と僕、アシェラとライラでどうでしょう?」

「問題は無いけれど、何故その組み合わせなのか教えて頂戴。私と一緒に居たかったってのでも良いわよ」


氷結さんはニヤニヤしながら、フザケタ事を言っている。


「ハァ、説明します……僕達にとって一番の脅威はワイバーンじゃありません。Bランクのラピッドスワローです。片手で足りる数なら放置でも良いですが、種として定着したラピッドスワローがどの程度の群れになっているか想像出来ません。もしかして両手でも足りない数で、群れている可能性もあります……」

「……続けて」


「しかし、対ラピッドスワローには〝雷撃”が非情に有効で、僕達には使い手が2人います。それを考慮し更に前衛、後衛をバランス良く配置した結果、この組み分けが最良と判断しました」

「……分かったわ。でもツマンナイ答えね」


一生懸命考えたのに……氷結さんは無視してアシェラとライラに話しかけた。


「アシェラ、ライラ、パーティを分けたと言っても役割としてだ。取り敢えずは4人で固まって移動しよう」

「うん」「分かった……」


「それとライラ、雷撃を使う前には必ず周りの了解を取ってから使ってくれ。あれは発動したら最後、躱せない」

「アルド君でも?」


「ああ、あれを躱せる者はこの世界にはいない筈だ」


ライラは眼を見開いて驚いている。

きっと以前に言っていたオレの知識を聞きたいのだろうが、もう一度聞いてオレの不興を買い、折角の婚約が解消でもされないか心配なんだろう……


オレはそんな心の声が駄々洩れの顔をしたライラに、苦笑いを浮かべながら話しかけた。


「……帰ったら教えてやるから、そんな顔をするな」

「!!」


ライラはこれ以上無いほど喜んでいるが、この世界の人間に光の速度をどこまで理解できるのか……


「但し、いろいろと教える前に学ばないといけない事が沢山ある。恐らく1年や2年では無理だろうし、きっと辛い事も沢山ある筈だ。それでも教えて欲しいか?」


オレの言葉にただならないものを感じたライラは、1つだけ大きく息を吸い覚悟を決めた顔で答えた。


「はい!」

「じゃあ、帰ってからだな」


「ありがとう、アルド君」


この瞬間のライラの笑顔は、大輪の花のようで思わず見惚れてしまった。

どういうわけか、アシェラが足を踏んでくるのは何故なんだろう……普段はライラの応援をするくせに……女心は複雑である……





後の話にはなるが、ライラはアルドの予想を遙かに凌ぐ努力と才能を見せる事となる。

こちらの人間で始めて科学を学び、体系化してみせたのだ。


それは元から持っていた魔法の知識をも融合させ、全く新しい学問〝魔法科学”として新しい種族に伝えられてゆく事となる。

新しい種族の国の礎を築いた1人として、後の世でも長く語り継がれる事となるのは別のお話。





オレ達は空の楽園と呼ばれる断崖に住む魔物を駆逐するために、空を駆けているところだ。


「母様、早すぎますか?」

「大丈夫よ。私だって身体強化は使えるんだから」


「キツかったら直ぐに言ってくださいね」

「分かってるわ」


一応パーティを分けているのでオレの後ろに母さん、アシェラの後ろにライラが付いて空の散歩を楽しんでいる。


「出てきませんね……」

「もう面倒だから、ソナーを打っちゃいなさいよ」


「その方が早そうですね……待ち構えれる場所を探して、そこでソナーを打っておびき寄せましょうか」

「ええ、そうしましょう」


母さんと話した事をアシェラとライラにも伝えると、2人は頷いて作戦の変更を了承してくれた。


「どんな場所が良いんでしょうね」

「そりゃ、私達は戦い易くて敵は戦い難い場所が良いに決まってるわ。それに万が一に備えて逃げられる場所があれば尚、良いわね」


オレと母さんが話しているのを聞いていたライラが指を差している。


「あそこ……広場になってて戦い易いし、広すぎないので囲まれ難い。奥には洞窟も見えるから最悪は逃げ込めそう」

「流石だ、ライラ。行ってみよう」


早速、広場に降り立つと何とも言えない獣臭がする……この感覚は……何かいる!

オレが恰好を付けて辺りの気配を探っている間に、アシェラとライラは洞窟の中のワイバーンを瞬殺していた。


…………オレはすごすごとアシェラ達の後ろを付いて洞窟に入っていく。


「ワイバーンの巣だったのか……」


オレの言葉に答えるように洞窟の中にはワイバーンの成体が2匹、幼体が5匹死んでいる。

成体はアシェラが、幼体はライラが倒したのだろう。


何故だろうか、普段は魔物を狩るのに何も感じないのに、生活感のような物を見せられると、途端に何か罪悪感を感じてしまう。

これはきっと前世の価値観に引きずられているのだろう、いい加減 慣れないと……


「どうしたの?」

「何でも無い……ソナーを使うぞ。危なくなったら洞窟に逃げ込もう。良いか?」


「「うん」」「いつでも良いわよ」


3人の答えを聞いて最大の範囲ソナーを打った……距離は1000メード。無数の魔物がオレのソナーに反応してこちらに向かっている。

ヤバイ……300メードぐらいから始めれば良かったかも……


「マズイ、数は約200以上。知らない魔物も多数!」


アシェラや母さん、ライラが真剣に空を見上げていると、空が無数の影で埋め尽くされていく……


「あらら、レッサードラゴンまでいるじゃないの。少しマズイかしら……」

「洞窟で籠城戦をしますか?」


「うーん……」


考えていた様子の母さんがオレ達3人を見回して、不適な笑みを見せながら口を開いた。


「大丈夫だと思うわ。但し、お互いのフォローだけは忘れないようにして」

「「「はい」」」


「さあ、来るわよ!」


母さんの声に反応したのか……空を覆いつくさんとする、翼を持つ魔物達との戦いが始まった。






オレとアシェラが空間蹴りで空へ駆け上がると、魔物達はまさか同じ舞台に立たれるとは思っていなかったのか明らかに動揺してみせた。


「アシェラ、まずは数を減らす!」

「分かった」


総数は200前後。まずは数を減らすために、群れの中でも魔物が多そうな場所を選んで突っ込んでいく。

魔力武器(片手剣)を二刀持ち、魔物の間をすり抜け様に切裂いた。先ずは8匹。


ソナーに反応したと言う事はコイツ等は全て魔法が使えるという事だ。

早速、ウィンドカッターが飛んでくるが、遅い、遅すぎる。ライラのウィンドカッターは、その倍は速い。


一当てしてみた感想だが、母さんが言うように100や200ならどうと言う事は無さそうである。

で、あれば……省エネモードは止めだ。最速で倒すべくウィンドバレットを10個纏い、群れの中へ吶喊した。


片手剣二刀を持ちすれ違いに切裂いて、遠くに見える魔物にはウィンドバレットで撃ち抜いていく……28匹

アシェラを見れば同じように省エネモードは止めたのだろう。オレより多い13個のウィンドバレットを纏ったかと思うと、何故か全ての魔法を一斉に発動した!


ウィンドバレットは四方に飛び散り闇雲に撃ったかのように見える……しかし、師匠譲りの魔力操作を発揮し、発動後のウィンドバレットを曲げてみせた。

結果、13個のウィンドバレットが全て魔物を撃ち抜いていき、アシェラの周りは一時的に敵のいない空白地帯となる……


「アイツ……本当に勇者じゃないのか!?」


アシェラの個の強さをまざまざと見せつけられ、オレの心によぎるのは……安心か恐怖か……確実に1つだけ言える事は、浮気する時は命掛けだと言う事だ……

アシェラとの討伐数の差が広がらないように、必死になって魔物を狩っていくが……46匹、全然追いつけねぇ。


見る間に魔物の数が減って行くと、真打とばかりにレッサードラゴンが1匹、王者の貫禄を漂わせながら現れた。

普通なら畏れ慄き逃げまどうのだろうが、こちとら既に2匹の竜を討伐した実績を持つドラゴンスレイヤーである。


「アシェラ!風竜の代わりに、こいつの素材をもらおう」

「!うん、分かった」


哀れレッサー君はオレ達の目には素材としか映らないのだ。


「母様、ライラ、残りの魔物は任せます」


残りの魔物は60前後。母さん達なら問題無い数だ。先ずはレッサードラゴンの注意を引き付けるべく、鼻先にウィンドバレットを叩きつけてやった。

ワイバーンよりはだいぶ強いみたいだが、所詮はレッサー。


きっとパンダとレッサーパンダならパンダの圧勝だろう。ドラゴンスレイヤーたるオレ達にかかれば雑魚の筈だ。

訳の分からない理由でオレはレッサードラゴンに突っ込んで行く!







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る