第44話アシェラ part5

44.アシェラ part5





病室で準備をしていると手引きの男が現れた。男はフードをかぶり顔も表情も知れない……

声も布か何かでくぐもっており、辛うじて男と判る程度だ。


男に促され付いていくと1台の幌馬車が置いてある。

指を差された。乗れという事なのだろう。


ルーシェさんを幌馬車に乗せ、オレとアシェラもそのまま乗り込む。

御者台には男とハルヴァに座ってもらう。


男はそのままカシューの街を通り門まで移動すると、当然の如く門番に止められた。

しかし、男が懐から何かを出して門番に握らせると、途端に周りから一斉に門番がいなくなってしまう。


男は門番いなくなった事を確認すると、御者台から降り閂を外し門を開けた。

当然、男が戻ってくると思っていたのだが、そこからは知らないとばかりに御者台には戻らず早く行けと手で急かしてくる。


ハルヴァが頷いて馬車を走らせるが、一応は世話になったのだからと礼をすると、驚いてこちらを見ていた。



そこからは怪しまれない程度の速さで急ぐ。

幌馬車の馬は1頭で速度は大して出ない……無理をして馬を潰してしまうのだけは避けたかった。


「ここまでは何とかなったな」

「はい。どこかで休憩を取りたいものですが……」


考えてみるとハルヴァはブルーリングを出てからまともに休んでないはずだ。

オレとアシェラは1晩だけだが休めたが、ハルヴァはその間も休まずにルーシェさんの世話をしていた。


一応はルーシェさんが意識を取り戻してから仮眠は取ったようだがそれだけだ。


「どこか馬車を隠せる場所で休憩しよう。このままじゃ、流石にマズイ」

「分かりました。すみません……」


「オレは休ませてもらったからな。お互い様だ」


ハルヴァはオレの言葉に苦笑いを浮かべていた。

そうして暫く馬車を走らせると、休憩できそうな広場を見つける事ができたのは運が良かったのか……


「あそこで休憩しよう」

「分かりました」


広場にゆっくりと馬車を止めて、ハルヴァに休憩に休憩を取ってもらう。


「ハルヴァ、悪いが馬車を運転できるのはオマエだけだ。1時間、オレが見張りをする。それで疲れを取ってくれ」

「分かりました。騎士団で使ってる睡眠薬です。使うと1時間絶対に起きませんが4時間分の睡眠が取れます。これを使おうと思います……」


ハルヴァはオレの眼を見て聞いてきた。

オレに1時間を託している。


ハルヴァはこの1時間、何があっても起きる事が出来ない。例え大事な人に危険が迫っても……自分の身に危険が迫っても起きる事が出来ないのだ。

オレは下腹にチカラを入れて正面からハルヴァの眼を見た。


「分かった。1時間、絶対に守りきる。安心して休んでくれ」

「……信じます」


そう言ってハルヴァは睡眠薬を飲みこんだ。

薬を飲んで5分もしないでハルヴァは眠ってしまった。


「アシェラ、1時間なんとしても守りぬくぞ」

「分かった」


「アシェラは暗闇でも敵の魔力は見えるのか?」

「かなり見難いけど見える」


「オマエ本当に高性能なんだな……じゃあ木の上から敵を見張ってくれるか?」

「うん」


「敵がいたら風の魔法で知らせてくれ」

「分かった」


「オレは幌馬車の外で見張る」


アシェラは一度だけ頷いて外に出て行く。

ルーシェさんはハルヴァに膝枕をして、愛おしそうにハルヴァの髪を撫でていた。


オレも外に出て周りの警戒に入る。


(探知の魔法も欲しいな……アシェラの魔眼、オレが欲しい物 全部出来るじゃねえか……恐ろしい程の性能だなアイツ)


アシェラのあまりの才能に嫉妬しながら周りの警戒をしていく。

どれぐらいの時間だろうか30分は経ってないと思うが、アシェラから風の魔法で合図がきた。


敵か……人か?魔物か?

魔物なら良い。人は出来れば殺したくない……


そっと気配を探ると……いた。1人、2人、、、4人……人だ……

こうなれば割り切るしかない。但し、人間なら絶対にアシェラにやらせちゃいけない。


14歳の少女に人殺しは早すぎる。オレは気配を消して追手の裏にゆっくりと回っていく。

賊に近づくと小さな声が聞こえてきた。


「男は生きてても死んでてもどっちでも良いらしいぜ。ただし女の子供は傷1つ付けるなだとよ……」

「ひひ……見える傷はつけねえよ。見える傷はな……うひっひ……」

「14歳の子供らしいじゃねえか。股間ふくらませやがって変態野郎が……」

「オレは男のガキを頂くぜ……泣き叫んでる所で首を落としてやるんだ」


「こいつは……クズの集まりかよ。オレも含めてクズだったな……行くぞ……」

「うひっひ……」

「おう」

「ガキの悲鳴……」


コイツら……クズすぎる。アシェラやルーシェさんを見せるだけでも変態パワーで妊娠させかねない。

サーチ&デストロイ。



オレは意識を切り替えていく……感情の部分を消して冷静に……スゥーハァー、敵は……殺す。



行く!



オレは足音がしないように、全て空間蹴りで近づいていった。

一番後ろを歩いていた男の首を右手の短剣で薙ぐ。


1人……


そのまま左の短剣を投擲!


2人……


人が倒れた音で、前の2人が振り向いた。

オレは夜の闇に消えるように、空間蹴りを使って林の中に移動する。


「何だ!どうなってやがる!」

「一瞬に2人だと!魔物か?」


パニックになっている2人の片方に、真上に空間蹴りで移動した。

左手の武器は予備のナイフを左腿から抜いて装備済だ。


真上から自然落下で落ちていく……魔力を足に集めて片方の頭を踏み潰す。

真上からの奇襲に驚きながらも、最後の1人が片手剣を振り抜いてきた。


左のナイフで受け、右の短剣で胸を突いてやる。


「ガキだと……バケモノか……」


直ぐに返り血を魔力を弾いて落とした。

死体の後頭部に刺さったままの短剣を回収して装備に戻していく。


切り替えて直ぐに辺りを警戒するが、どうやら追加の攻撃は無さそうだ。

するとアシェラが木から降りてくる。


「アルドが全部倒す必要は無い」

「まあ、雑魚だったからな」


「……」

「こいつら片付けたら、また見張りだ」


「アルドはボクに甘い……」


オレは苦笑いで返すしか無かった。

初めての殺人では無かったが、刺客がクズ揃いだったせいで思ったより落ち着いている。


アイツ等は殺しておいた方が良い……直にそう思えた。

そうこうしていると1時間が経ち、ハルヴァが起き出してくる。


「体調はどうだ?」

「充分です。このままブルーリング領までいけます」


「分かった。ただし疲労が溜まったら正直に言えよ」

「分かりました」


その後は襲撃も無く順調に移動していく。

オレとアシェラとルーシェさんは移動する馬車の中だったが睡眠も取れた。


そして夜が明けていく。


「朝か……」

「……」


「ブルーリング領にはいつ入る?」

「そうですね。明日の朝には領境に着けるかと」


「分かった。無理はしないようにな」

「分かりました」


オレは襲撃が1回で済むとは全く思っていない。

現にあの賊達はアシェラの年齢もこちらの人数構成も知っていた。


オレやアシェラの戦闘力を見誤るのはしょうがないとしても、ハルヴァはブルーリング騎士団 第1大隊の副隊長だ。

昨日の4人のような雑魚で、倒せるはずがない。


恐らくだが、あれは捨て駒でこちらの戦力を確認したんだと思う。

どこかで見られていたのだろう……そうすると本命の襲撃は今日の晩か……


「ハルヴァ、今日の夜に通る場所で襲撃されそうな場所はあるか?」

「襲撃ですか……1か所だけありますね」


「どんな場所だ?」

「森のすぐ横を通ります。そこなら隠れる場所には困りません」


「そうか……ハルヴァちょっと話がある」


そう言ってオレは自分の考察をハルヴァに話して聞かせた。


「なるほど、それでアルド様はどうするつもりで?」

「先制攻撃が一番だと思う」


「しかしこちらには戦力が……」

「オレの魔法を使う」


「魔法を?」

「襲撃ポイントで、一帯が火事になったら迂回路はあるか?」


「一応近くにありますが……」

「じゃあ、オレが魔法を撃つ。但し、辺りは火の海になると思う。直ぐに退避してくれ」


「ひ、火の海ですか……分かりました」

「それと一発で魔力枯渇で気絶するから、オレは戦力にはならない。申し訳ないが後は頼む」


「は?」


オレはコンデンスレイを撃つ事にした。

欠陥だらけの最強魔法……水平射撃か……大丈夫だよな……


一抹の不安がオレの中を駆け巡った。




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