第39話雪

39.雪




今年もあと1ヶ月を切った頃。


魔法の練習場で転移魔法が出来ないか試行錯誤していた。


「うーん。これは難しいなぁ……」

「何を悩んでるの?」


「アシェラか、オマエに言ってもなぁ……」

「む、ボクは意外と頭は良いはず」


「まあ、ダメもとで聞いてみるけど……」

「どんとこい」


「短距離転移が出来ないか。考えているんだが……」

「ふむふむ」


「空間に穴を開けて飛ぶイメージと、別空間を移動して戻ってくるイメージでどっちが素早く、魔力消費が少なく使いこなせるか……」

「ふむふむ」


「そもそも、そのイメージで短距離転移できるのか?」

「ふむふむ」


オレはアシェラをじーっと見てみるが、こいつ絶対に分かってないだろ。

ちょっとカマをかけてみる。


「焼き芋は棒が通るぐらいが、食べ頃だぞ」

「ふむふむ」


「焼き過ぎると焦げるからな。でもちょっと焦げたのも美味いんだよな」

「ほうほう」


「皮もパリパリのは実と一緒に食べると旨い。この前はちょっと急いだから皮はしっかり火が通らなかったからな」

「む、アルド!それは焼き芋に対する冒涜だと思う!」


「そうか?じゃあ今度、作る時はしっかり火を通してやるよ」

「うん。楽しみ」


「で、アシェラどう思う?」

「む……」


「……」

「焼き芋は美味しい!」


「ハァ、そうだな。焼き芋は美味いな」

「うん」


「また今度、作ってやるよ」

「アルド、ありがとう」


アシェラとの会話は正直に言って楽しい。

煮えた頭の中をリフレッシュされるようだ。


そんな会話をしていると一陣の風が吹く。


「さむ!」

「む。アルド、寒いの?」


「そりゃ、寒いだろ。オマエは寒くないのか?」

「寒くない。魔法で自分の周りだけ温めてる」


「マジか?!オマエそんな高度な事できたのか?」


ドヤ顔でVサインを出してきやがった。うぜー


「ちょっとオレにも教えてくれよ」

「良いけど、意外に難しい」


「大丈夫。アシェラに出来たならオレでも出来るはずだ」

「む、アルドは失礼」


そんなやり取りをしてオレはアシェラからエアコン魔法を習う。

結果から言うと出来なかった……


自分の周りだけを温めるのがむちゃくちゃ難しかった。

周り1mなら問題なく出来たが、アシェラは自分の周り5cm程だけを温めている。


アシェラに言わせると色が違って見えるそうだ。

これが魔眼の威力なのかと、改めてアシェラの高性能さに驚く。


(見た目ポンコツ……いや、見た目は良い……黙ってれば深窓の令嬢のようだ……とにかくアシェラに出来てオレに出来ないのはプライドが許さない)


帰ったら隠れて特訓するのを決めた。


すると、目の前を白い物が横切る。

一瞬、身構えるが、すぐに気を緩めて空を見上げた。


「雪だ……」

「うん、綺麗……」


空を見上げると暗くなっているが白い雪が無数に漂っている。


「寒いわけだ……」

「ハァー」


アシェラが自分の手に息を吹きかけて温めている。


「エアコン魔法切ったのか?」

「うん。この寒さを味わわないのは勿体ない……」


「そうか、そうだよな」

「うん」


アシェラは寒いんだろう、オレにくっついてくる。

しばらく、そうして雪を見ていた。


「帰るか」

「うん」


雪が舞い散る中、オレ達は屋敷へとゆっくり歩いて帰る。

アシェラは帰りの雪の中でエアコン魔法は使わなかった。




その日の夕飯---------




「降るわね」


母さんの言葉に皆が窓の外を心配そうに覗き込んだ。

マールは早い時間にタブ商会の従業員が迎えにきて、既に帰った後だ。


オレは父さんと母さんに提案した。


「父様、母様、今日はこの吹雪です。アシェラとハルヴァを屋敷に泊めてあげられませんか?」


父さんはオレを一瞥して、アシェラを見ながら話しだした。


「そうだね。アシェラ、今日は泊まっていきなさい」


アシェラは自分で決めかねる様で、思案しだした。


「アシェラ、アナタは私の弟子よ。遠慮なんかする必要はないわ。今日は泊まっていきなさい」

「分かりました、お師匠」


母さんの言葉にアシェラは泊まっていく事に決めたようだ。

ハルヴァにはローランドが騎士団経由で連絡したが、屋敷ではなく騎士団の宿舎で泊まると言い辞退した。


リビングは母さんがエアコン魔法で暖かくしており、非常に快適である。もう氷結さんなんて言えなくなってしまった。

これからは感謝の気持ちを込めてエアコンさん。若しくはエアコンディショナーさんと呼ばなければ!


皆で思い思いにくつろいでいると、考えてしまう。

トランプでもあれば楽しめるのに……


一度、タブにトランプを説明して製作を打診した事がある。

タブは乗り気ですぐに職人に掛け合ってくれた。


しかし職人からの返事は表の数字は問題無いが、裏の模様がまったく同じは不可能だと断られてしまった。

トランプは活版印刷が無いと難しいのかもしれない。


しかし、この世界に存在しない物を作り、文化LVを推し進めて良い物か……トランプ如きで……

これは今度、父さんにこっそり相談してみようと思う。


アシェラが泊まるのをクララが一番、喜んだ。夜も一緒に寝るのだそうだ。

アシェラも普段は1人なので楽しそうにしている。


そうして、ゆっくりと夜は更けていった。




次の日の朝----------




オレは朝食を摂った後で窓の外を見た。


「これは……積もったなぁ」


思わず声に出てしまったように、窓からの景色には一面の銀世界が広がっていた。

オレは靴を履き、空間蹴りで屋敷の屋根の上に駆け上がる。


屋根からの景色は360°パノラマの銀世界だ……カメラがあれば是非、1枚撮っておきたい景色が広がっていた。


「アル兄さまー!アル兄さま!!」


クララが呼ぶ声が聞こえてくる。

下をみると父さん、母さん、エル、アシェラ、クララがこちらを見上げていた。


オレは空間蹴りで空に飛び出すと、そのまま真っ直ぐに落ちていく。

地上に着く寸前に、また空間蹴りで速度を落とし着地した。


「アル、見晴らしはどうだった?」

「最高の景色でした、父様」


「僕は行けないけど、クララに見せてあげられるかい?」

「はい、大丈夫です。クララおいで!」

「はい、アル兄さま!」


オレはクララをお姫様だっこしてやる。


「しっかり掴まってろよ」

「はい!」


「いくぞ!」


オレは空間蹴りで屋敷の屋根の上まで駆け上がって行く。


「どうだ、クララ」

「すごい、すごい!こんな景色初めてです!」


「そうか、でもオレを絶対に離すなよ」

「はい!」


そう言ってクララは周りの景色を楽しんでいた。

そうこうしてるとエルとアシェラも駆け上がって来る。


「アルド、お師匠も見たいって駄々捏ねてる……」

「マジか……体重いくつだと思ってるんだよ……」


「レディに体重の話題は禁句」

「分かったよ。クララ、アシェラの方に移れるか?」


「はい、大丈夫です。アシェラ姉さま、お願いします」

「任せて」


クララをアシェラに任せてオレは下まで移動した。


「母様、本当に上るんですか?」

「当たり前よ!」


オレは父さんの顔を見つめたが、そっと首を振られてしまう。


「じゃあ、しっかりと掴まってくださいね」

「分かったわ!」


オレは母さんをお姫様抱っこするが、身長差でスカートの裾が引きずってしまった。

この体格差で母さんを抱っこ出来るのは、身体強化があってこそだ。


オレは母さんを抱かかえたまま、一気に屋敷の上まで駆け上がっていく。


「キャーーー!すごいーーーー!きれいーーーー!」

「母様、耳元で叫ばないでください」


「何?何か言った?キャアーーーーー!気持ちいいーーーー!!」

「もう良いです……」


こうして屋根の上だけでなく5分程、空中を散歩させられた。

降りた時にはエルに、少し魔力を分けて貰ったほどだ。




皆が満足して屋敷に戻ろうとする中、父さんが少しだけ寂しそうにしている。

魔力があれば1度ぐらい見せてあげたかったが、もう一度上るだけの魔力はオレにもエルにも残っていなかった……スマヌ、パパン



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る