第41話アシェラ part2

41.アシェラ part2




タメイの馬の後ろに乗せられて2時間程。


「アルド様、馬がもたねぇッス。休憩ッス」

「分かった、水場だな?」


「そうッス、流石アルド様」

「ちょっと待ってろ」


オレは空間蹴りで上空から水場を探す。

見える場所に水場を見つけたオレは、直ぐに降りていきタメイに水場の場所を教えた。


休憩中もアシェラの事が気になる。

きっと顔を見て話しをしないと、落ち着かないんだろう。


30分程して馬に餌をやり水を飲ませ終わった。

ここからは30分程、馬と一緒に歩いていく。


やっと休憩が終わり、やっと馬を走らせる。

気持ちだけが焦ってしまう。焦っても良い事なんて、無いのは分かっているのに……


「アシェラ……」


タメイがチラッとこちらを見た気がした。


馬を走らせたり、歩かせたり、きっとオレの分からない理由があるんだろう。

何度目かの休憩の時にタメイに聞かれた。


「アルド様は変わってるッスねぇ。そりゃ、アシェラ様は美人になると思うッスよ。でもアルド様なら選びたい放題でしょうに……」


オレはタメイに苦笑いでしか返せなかった。

自分でもそう思ってたから……


日本でも恋愛なんて何度も経験したはずだ。どんなに好きだったとしても、2年もすれば焦がれるような想いは消えてしまう。

オレは何でこんなに……誰か教えてくれ……


こうして進んで夕方になる頃、前方に男と子供の2人組を見つけた。

心臓が高鳴る……


横に並んで顔を見た。


「ハルヴァ!」


つい声が出てしまう。男は驚いてこちらを振り向いた。

その横にはローブ姿にフードを被ったアシェラがいた……


「アシェラ!」


オレは馬を飛び降りてアシェラの前に出る。


「アルド?どうして……」


オレは言いたい事が沢山あったのに、言葉が上手く出てこない。


「アシェラ、オレ、行ってほしくなくて、父さんに話して、タメイがここまで……」


自分でも何を言ってるのか、良く分からない。


「アルド様!」


ハルヴァがオレの名前を大きな声で呼んだ。


「息を大きく吸ってください……そして吐いて……吸って……吐いて……」


スーーーーハーーーーースーーーハーーー…


「落ち着きましたか?どうしてここにいるのか話せますか?」


オレはハルヴァの眼を見て、1つだけ頷いた。


ここまでの事を、自分の気持ちを隠したままに大まかに話す。


「そうですか、昔のヨシュア様の婚約破棄の話が拗れているのですか……」

「そうだ、必要ならブルーリングでアシェラの母方の家を丸ごと引き受けても良い。アシェラが無理に結婚する必要なんて無いんだ」


ハルヴァはアシェラを見る。


「アシェラ、アルド様はこう言ってるがどうする?」

「私はカシュー家に嫁ぐ。それは変わらない」


「だ、そうです。アルド様ありがたいとは思いますが、このままお帰りください」


オレは眼の前が真っ暗になった。

何も言わず俯くだけのオレを、アシェラとハルヴァが礼をして歩き去っていく……


どうなってる……オレの独り相撲で誰も望んで無かったのか……アシェラでさえも……

オレは下を向いて呆然としてると、



頭をはたかれた。



誰がやったか……驚いて見てみると、タメイが眉間に皺を寄せて拳を握っていた……


「あー、アルド様。ちょっと今のアンタ、ムカツクッスよ」

「は?」


「分かって無さそうだから言うッスよ。アンタどうしたいッスか?婚約破棄がどーのー、家がこーのー、自分の気持ちはどうなんだって聞いてんッスよ!アンタ男だろ!まず自分の気持ちを、惚れた女に話すのが筋ってもんでしょうが!」

「……」


「早く行け!これが本当の最後のチャンスっすよ!」


オレはタメイを見て頷きながら走り出す


「ありがとう、タメイ。でも、テメエ、普通にしゃべれるんじゃねえか!」


ダメなら、もうそれで良い。

ただ聞いてほしいんだ。オレの気持ちを……


「アシェラ!」


ハルヴァは少しだけ鬱陶しそうに、こちらを見た。

アシェラは俯いたまま背中を見せている。


「アルド様、申し訳あr……」


「好きなんだ!!」


オレは叫んだ。ハルヴァが何か言いかけたがどうでも良い……


「行くな!!アシェラ!!オレの傍にいてくれ!頼む……お前が好きなんだ……」


アシェラは振り向いたが、俯いたままで顔は見せてくれない。


「かあさまの所に行く……」


ああ、、、ダメだったか。でもしょうがない。


「そしたらアルドの所に帰る……」


やっと顔を上げて見せてくれた。

泣いていたんだろう……眼が真っ赤で腫れている。


どうしてこうなったか分からないが、アシェラもオレを好きでいてくれたんだ、と心から信じられた。


オレはアシェラを抱きしめた。


2年経ったら気持ちは冷めてる?そんな事どうでも良い……

オレはこいつを一生離さない。そう決めたんだ。



「ゴホンッ」



ハルヴァがわざとらしい咳をした。

オレは我に返って、飛び刎ねるようにアシェラから離れる。


「あー、ハルヴァ?……ハルヴァ…さん?……お父さん?」


最後の言葉でやっと笑ってくれた……これで正解だったのか……良かった……


「いやー、アルド様の心が聞けて、このハルヴァ感動しました!」


え?ハルヴァってこんなキャラだっけ?もっと寡黙な騎士って感じじゃなかった?

思っても絶対に口には出さない。


「邪魔かも知れないが、オレも一緒に行かせてほしい」

「分かりました。まだ先は長いですが急ぎましょう。それで良いな?アシェラ」


アシェラはオレとハルヴァを見て頷く。

そうなると、タメイとはここでお別れだ。


「タメイ、オマエのお陰で助かった。本当にありがとう」

「気にしなくていいッスよ。お姫様を大事にするッス」


そう言い残し、タメイは馬を歩かせ去っていった。





ここからは徒歩だ。オレは気持ちを引き締め、ハルヴァ達に同行する。

道中の休憩は最低限だった。ひたすらカシュー領を目指す。


これだけの強行軍なら追いつくのに、あれだけ時間がかかったのも頷ける。

暫くすると途中に領境の関所があったが、ハルヴァの顔を知ってる者だったので楽に通る事ができた。


その際、オレの顔を見てしきりに首を傾げているのが印象的だった。


「ハルヴァ……お父さん」

「まだハルヴァで大丈夫ですよ。将来、呼んでもらえればね」


そう言ってウィンクする。

やっぱりイメージが違う……誰だ、こいつ……


「ハルヴァ、カシューの街までの予定を教えてほしい」

「このまま夜通し歩く予定です。明日の昼には到着するかと」


「そうか、オレは良いがアシェラが……」

「これはアシェラが言い出した事です。そうしないと母親に生きて会えないと……」


「……分かった」

「キツければアルド様は、後から来られても……」


「いや、オレもアシェラの母親に会っておきたい。このまま同行させてほしい」

「分かりました。ありがとうございます……」


そこからは会話は最低限だけだった。

話す体力さえも惜しいと、ひたすらに前だけ見て歩いていく。


途中、1時間だけ仮眠を取った。

装備を脱ぎ、ゆっくりと休めたのは何時間分の休憩に値するのか……


起きてからは、またひたすらに歩いていく。

隊列はハルヴァ、アシェラ、オレの順番だ。

シンガリをおれが務めるのはハルヴァが難色をしめしたが、そこは男として押し切らせてもらった。


道中、魔物や動物の気配を感じる事もあったが、脅しの魔法を撃ち込んでやると逃げていく。

万が一、襲われたとしても大抵の魔物は問題はない。オレとアシェラに、更に強いハルヴァまでいるのだ。

幸いな事に襲われる事もなく旅路は進んでいった。


そして、とうとう目的のカシューの街が見えてくる。

幾分か予定より早く、カシューの街に到着する事ができたのは、皆の頑張りがあったからだろう。


アシェラの母親はグラン騎士爵家にいるらしい。

オレ達は駆け出しそうになりながら、目的地のグラン騎士爵家を目指した。




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