第105話仕返し

105.仕返し



季節は12月も半ばの光曜日


1月と2月は学園が長期連休に入る。ファリステアとユーリ、アンナ先生はオレとブルーリングに行くだろうが、ルイスやネロはどうするのか聞いてみた。


「ルイス、ネロ、長期連休はどうするんだ?」

「夏に帰らなかったからな。母さんがサンドラに帰って来いってうるさいんだよ」


「そうか。たまには顔を見せてやらないとな」

「まあな。っと言う訳でサンドラに帰省だ」


どうやらルイスはサンドラ領の母親から帰省命令が出た様だ。13歳の息子に会いたいだろう親心は何となく判る。

ルイスにはしっかり親孝行して欲しい。


ルイスは帰省。ではネロは?と言う事でネロにも聞いてみた。


「ネロは長期連休はどうするんだ?」

「オレは店の手伝いをさせられそうだぞ…」


「店の手伝い?」

「ああ。母ちゃんの店の男手が足りないみたいで、休みの間はずっと手伝いさせられるぞ」


ネロかーちゃんの店…オレはルイスと顔を見合わせ桃色の妄想を浮かべていた…お姉様方へマッサージ。羨ましい!


「客が帰った後の部屋の掃除や水汲み、お使い、なんかの雑用をさせられるぞ…流石に客引きはしないけどな」


桃色どころか灰色だった。他人の事後の掃除なんか絶対にしたくない。


「そ、そうか。頑張ってくれ。応援してるよ」


何とか振り絞って、そう言うのがやっとだった。

2人共、長期連休は予定があるらしく、ブルーリングへはオレ、エル、マール、ファリステア、ユーリ、アンナ先生、の6人とコンデンスレイを見るために爺さんが一緒に帰省する。


ルイスとネロは、またエアコン魔法を覚えそこなった訳だ。機会があればオレが教えてやろうと思う。

しかし、もうすぐ帰省と思うとブルーリングの事、家族の事、アシェラの事が頭に浮かんでは消えて行く。


そう言えば”爪牙の迷宮への同行のお願い”の手紙を母さんに送ってあるのに今になっても返事が来ない。もう1ヶ月近くなるのだが…

氷結さんは適当だからしょうがない。きっと読んで忘れてるか、読んですらいない可能性もある。


ブルーリングに帰ったら直接お願いしてみよう。と心のメモ帳に書いておく。




その日の夕飯---------




いつもは爺さん、オレ、エル、マール、ファリステア、ユーリ、アンナ先生の7人での食事なのだが今日は11人での食事だ…

誰が増えたのか5w1h。


食卓には父さん、母さん、クララ、アシェラの4人がいるのだ…意味が判らない。

オレは驚きながらもアシェラから目を離せない…父さんは苦笑いで、母さんはニチャっと笑い、クララは頬っぺを膨らませ、アシェラは恥ずかしそうに俯き加減でこちらを見ていた。


「な、何が、どうして、え?……」


オレがメ〇パニを食らっていると爺さんが悪い顔で話し出す。


「アルドには隠していたがブルーリングから呼んでおいた」


犯人はお前か!ジジイ!アシェラを呼んでくれたジジイにハグしたいぐらいだ。

何故なら!アシェラを風呂に入れられる…今でもオレの120%なのに風呂に入ったら…オレの〇〇が有頂天!!きっと140%いや、150%になるのでは無いだろうか。


いきなりのサプライズにテンションが上がってしまった。少し冷静さを取り戻し再会の挨拶をしなければ。


「父様、母様、お久しぶりです。お会い出来て嬉しいです」

「アルだけが聞いて無かったみたいだね。父さんには後で言っておくよ」

「アル、長期連休にはいったら”爪牙の迷宮”に入るわよ。覚悟しておきなさい」


「父様、お願いします。母様、ありがとうございます」


父さんと母さんへの挨拶は済んだ。次は…クララだろう。先程から頬っぺが膨らんだままなのが可愛い。


「クララ、久しぶりだ。綺麗になったな」


実際は数ヵ月ぶりなので違いなど判らないのだがクララには効果覿面だった。


「アル兄様、お久しぶりです!」

「良かったらオレが作った風呂に入っていくと良い。2割増しで美人になるぞ」


オレの言葉に氷結さん、クララ、アシェラの眼が妖しく光る…


「…アルドの言う事は本当です。後ほど説明させて頂きます」


おかしな空気になりそうだったからだろう、普段は前に出ないマールが補足してくれた。


「マール、ありがとう。夕食の後にでもマールと一緒に入ってください。きっと気に入ると思います」


これでクララも大丈夫だろう。次は…アシェラに話かける


「アシェラ、驚いたが会えて嬉しい…ずっと会いたかったんだ」

「ボクも会いたかった…」


アシェラの眼を見て話していると、まるで吸い込まれて2人だけの世界にいる様な錯覚に陥ってしまう…それはアシェラも同じみたいだ。

そこからお互い見つめ合ってどれぐらいの時間が過ぎたのか。


「あー、良いか?」


爺さんの声にオレとアシェラが驚いて2人の世界から戻ってくると、周りが砂糖を吐きそうな顔で見てくる。氷結さんなど”ひゅーひゅー”とヤジを飛ばしてきた。


「ごほん。ヨシュア、ラフィーナ、クララ、アシェラ、長旅ご苦労だった。無事にたどり着いて嬉しく思う。ラフィーナとアシェラにはアルドの迷宮探索のサポートを頼みたい。無理を言ってすまないが、よろしく頼む」


先程、母さんが言ってたが迷宮に潜るのも決まってるのか…

何だろう…この疎外感…オレ以外は全員が知っていたのだろうか…なんか眼から汗がでそうだ。


それからの話も含め総合すると、どうやらオレが送った手紙によりオレ、エル、アシェラ、母さんの4人で迷宮へ潜る事が決まった。

しかし、オレ達はブルーリング家の直系だ。万が一オレとエルが同時に死ぬとクララしか跡継ぎがいない事になってしまう。


そこで爺さんへの説明と確認の手紙が届いたそうだ。

爺さんは何故かオレの願いを極力手助けする様に言ったらしい…解せぬ。


こうして、オレ、エル、アシェラ、母さんの4人パーティでの爪牙の迷宮探索が決定した。

しかし、最近、脅かされてばかりの爺さんがオレへの仕返しをする為に父さん、母さん、クララ、アシェラが来る事を黙っていた。と言う訳だ。。


「判りました。お父様。早速、明日にでもギルドに出向き最新の情報を集めてきます」

「ありがとう。ラフィーナ」


長期連休と同時に迷宮に入る様だ。ナーガさんは母さんに会いたがっていたから、明日はきっと懐かしい再会があるのだろう。


「アル。確認だけど、本当に転移罠を踏む気なのね?」

「はい。転移を体験してみたいんです」


「手紙にも書いてあったけど転移を体験しても使える様になるかは判らないわよ」

「はい。しかし転移の手がかりがお伽話の中で”使徒が使った”としか書いて無かったので」


「…判ったわ。それとアシェラも転移を踏むわ。勿論、私も」

「な、転移はオレだけで十分です。母さんやアシェラを危険な目に合わせる訳にはいきません」


「それを了承しないのであれば私は一切、手伝いはしない」

「……」


「どう?」

「…判りました」


こうして母さんのゴリ押しでオレ、アシェラ、母さんで転移罠を踏む事になった。

さて、エルはどうするのだろう。オレが気になった事を母さんがエルに聞くようだ。


「エル、いきなりの事で悪いんだけどアルドが”爪牙の迷宮”にある転移罠を体験したいらしいの。普通、転移罠だけは何があっても避けるのが迷宮探索の常識よ。正直な話、危険は覚悟する必要があるわ。即答する必要は無いから長期連休までに参加か不参加かを聞かせてちょうだい」

「…はい」


エルは複雑な顔をしている。マールも手を握り締めて青い顔だ。

今回はオレのワガママだエルが付き合う必要など無い。どうせオレが転移を覚えればエルも覚えるのだから。


しかしエルの性格上、オレがそう言えばタダで成果だけを得る事にエルは納得しないだろう。

ここはエルの判断に任せようと思う。こうやって少しずつ違う道を歩き出すのだと思うと、少し寂しい気分になる。


オレは13歳と半年だ。エルだけじゃなくルイスやネロ、ファリステア、オリビアとも後1年半でそれぞれ別の道を歩き出す。

日本でも卒業と別れは何度も経験してきたが、これだけは何度経験しても慣れる事は無いのかもしれない。


少し思考が逸れた。元々オレ1人で転移罠を踏むつもりだったのだ。エルがなくても問題は無い。

後は地龍に会わない事だけを願っておく。




夕飯後----------




オレはエル、父さん、爺さんの4人で風呂に入っていた。

父さんは身だしなみに気を付けていたのか体1回、頭2回で綺麗になったのを見て流石だと感心する。


季節は12月。露天風呂には最高のシチュエーションだ。

4人で湯舟に浸かりながら空を見ると、冬独特の澄んだ空が星と月をこれ以上無く際立たせている。


「父さん、これは…最高の贅沢ですね。王都ではこんな風呂が流行っているのですか?」


父さんが爺さんに聞いているが爺さんは苦笑いを浮かべながらオレと父さんを見た。


「王都にもこんな風呂はここにしか無い。サンドラ卿とダンヒルからも風呂に入らせて欲しいと再三のお願いをされておる」

「ここにしか無い?」


「お前の想像通りだ。アルドが裏庭でゴソゴソしてるのを放っておいたら風呂が出来ていた」

「……」


父さんが濁った眼でオレを見て来る。


「聞きたいのだがお前、アルドとエルファスの模擬戦を見た事はあるか?」

「模擬戦ですか?ラフィからは聞いてますが…」


「なるべく早い段階で見ておけ。それがお前の為だ」

「??…判りました」


そういって爺さんはオレとエルを一瞥すると”もう忘れた”とばかりに月を見ながら露天風呂を楽しむ。

暫くして、のぼせる前に風呂から出た。今は4人で牛乳を飲んでいる。


「「「「ぷはーーーー旨い!」」」」


父さんだけが少しズレたが流石に直系だ。所作とセリフは揃ってる。

屋敷に戻る間に冬の夜風を当たりながら、火照った体を冷やしていく。


オレ達が出たのを見計らいメイド達が風呂の掃除をしに行った。

掃除が終わればマールが母さん、クララ…そしてアシェラを風呂に連れていくはずだ。


今から待ちきれない!150%アシェラが待ちきれなーーーい!!

何?50%も上がるのかって?今が120%だから30%アップですーー!30%で150%なんですーー!


直に風呂掃除も終わりマールが皆を連れて風呂に移動する。

ファリステア、ユーリ、アンナ先生は後で入るらしい。気を使わせて申し訳ないと思う。




1時間弱経過---------




流石は女性陣!風呂が長い。と思っていたら戻ってきた様だ。

オレ達がいた居間に4人が現れると場が凍った。


最近のマールは既に3割増しだが風呂上りと言う事で濡れた髪など色っぽい・・まずはエルが撃沈。1人目

次に母さんだ。30を少し越えたとは言え美形である。それが風呂に入った事で磨きがかかった…父さんが撃沈。2人目


どうやらクララは婆さん似らしく可愛らしく育っている様だ。元々クララに甘かった爺さんは風呂効果で30%可愛くなったクララに骨抜きにされた…3人目

最後にオレだ…元々アシェラに骨抜きにされていたオレは風呂上り+30%割り増しに完全にやられていた…アシェラさんやばすぎますわぁ。4人目


オレが漲っていると強烈な殺気を感じた。殺気の方向を見ると何故かハルヴァがこちらを睨みながら腰の片手剣に手をかけている。

ハルヴァの横にはルーシェさんが立っており、ハルヴァの頭を引っ叩いていた。


こうして4人の男達が簡単に虜になってしまい、今にも抱きしめてしまいそうになる。

オレ達4人は残された理性を頼りに、頭を振って自分の頬を叩く…見事にシンクロしていたのは正に血の成せる業なのだろう。


こうして今日が過ぎて行く。明日は闇曜日でエル、ルイス、ネロと依頼を受ける約束をしている。

母さんとアシェラに話したら付いてくるだろうか。


オレとしては少しでもアシェラの傍にいたいのだが…





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