第2話転生

2.転生





水の中を漂う様な感覚

何か聞こえてくるし何か見える

でもボンヤリとしか聞こえない

目もボンヤリだ

ここはどこだっけ……

自分は?あれ?

まあいいや

オレはその心地よい感覚に身を預けて考えるのをヤメタ……



そんな感覚からしっかりと自我を得たのはいつだったか、気が付いた時には若い栗毛の女性?少女?に抱かれていた。


(あれ?どこだ、ここ……確か会社で残業をしていて……あれ?……)


まだ霞がかかった思考に鞭を打ち、必死に今の状況を理解しようと努める。


(どういう状況なんだ? 残業をしてたら変な声が聞こえた。そうだ、それから胸に激痛がしてオレは倒れたんだ。もしかして他に人がいたのか? 守衛が見回りに来たのかもしれない。そして、倒れたオレを見て救急車を呼んでくれた……)


ここが病院だという証拠が欲しくて周りを見回すが、オレの眼から見てここは中世ヨーロッパに見られる様な石造りの建物だ。

とても現代の病院だとは思えない。


正直な話、情報がほしいのだが起き上がる事も寝返りを打つだけの体力すら無い。

どれだけの間、意識が無かったのか……どうやらまともに動けない程、筋肉が衰えている様だ。


そんな混乱中のオレに、栗毛の女性は優しく話しかけてきた。


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(は? 何語? 英語じゃないよな。かと言って中国語でもない。まあ、英語も中国語も話せないから関係ないんだけどな)


相変わらず女性は、オレを抱き上げ笑いながら話しかけてくる。


(ちょっと待て! オレ、173cmあるんだぞ。抱き上げるって、この人いくつあるんだ?2m以上……2.5m……)


辺りを見回しても椅子や机は、女性が使うにはちょうど良いサイズに見える。

『巨人』まさか……現実とは思えない。思考が驚く程に回るが、解答に辿り着く気配は無い。


(と、取り敢えず降ろしてくれ)


抱かれている腕の中から降りようとするが、思う様に体が動かない。


(くそ、どれだけ衰えたんだ……オレは)


ふと自分の手を見ると そこにはプニプニの手があった


(え?)


手をニギニギしてみる


(動く、な……)


もっかいニギニギ


(やっぱり動く……)


もっかいニギニギ


(…………)


プニプニの手がかわいらしく動く。


(待て待て待て! まだ慌てるような時間じゃない! 落ち着け! オレ!)


一度、自分の状況を整理する。


(オレは会社で残業をしていて変な声が聞こえたと思ったら胸が痛くなって倒れた。ここまでは良いな……そして気づいたら巨人の栗毛の女性に抱かれている……ここまでも良い……自分の手を見たらプニプニ……今ここ)


なんとか必死に状況を飲み込もうとする。


(……)


(ちょっと待ってくれ。全然良くねえよ! 胸が痛くて倒れたってヤバイだろ! 死んじゃうじゃん! 巨人の栗毛の女性って何だよ! しかも抱っこ! 自分の手もプニプニ! まるで赤ちゃんじゃん!!)


赤ちゃん! 自分で思った言葉だが正にぴったりな言葉だった。


(!!赤ちゃん?!)


自分の手を何度か動かしてみる。


(これって……夢か? もしかして……)


腕を振り回す! 実際はちょこちょこ振ってるぐらいだが、自分の中では思いっきり振り回す!

女性のボタンに手が当たった。


(痛っ! 痛い……夢じゃない?)


オレは自分の手から視線を切り、栗毛の女性を見つめてみた。女性はオレを愛おし気に見つめ、嬉しそうに笑っている。


(本当に転生したのか? もしかして、この栗毛の女性はカーチャン? 若い上に美人だ。20歳ぐらい?)


『転生』この言葉を考えれば、自分の今の状況が驚く程に理解できてしまう。


(冷静に考えてみると……あの胸の痛みでオレは死んだのかもしれん。嘘みたいな話だけど転生したって事か?)


本当に少しだけ冷静になって考えてみる。


(いやーーーやべぇわーーーオレ転生しちゃったわーーー)


状況を理解したとしても解決できる訳ではない。この世の無情さを痛感した瞬間である。


(どうーすんだよ。これ……どうすりゃいいんだよ……)



心は34歳のオッサンだがやはり乳児の体のせいなのだろう。取り留めない事を考えていると、急に睡魔が襲ってきた。

大きな欠伸をすると栗毛女性(まだカーチャンとは決まってない)が、優しくベッドに寝かせてくれる。


(あかん……眠くて目が開けてられん)


後は起きてから考えるかとばかりに寝る準備に入った所で。ふと隣に違和感を覚えた。

眠気に堪えながら隣を見ると、そこには何故か赤ちゃんが寝ている……


(鏡? いや、違う。赤ちゃん。本物の赤ちゃんだ。一緒に寝てるって事はオレの兄弟なのか? 分からん……)


思考しようと試みるが睡魔には勝てず、意識はまどろみの中に消えていった。




1ヶ月後---------




いろいろと状況を飲み込むのに、1ヶ月の時間がかかった。

先ず、やはりオレは転生したようだ。恐らくはあの胸の痛みで死んだのだと思う。きっと心筋梗塞か何かだろう。


気になるのは、あの声だ。心に直接響くような感じ。言葉ではなかったが〖願いのままに〗確かに聞こえた。

いや、言葉じゃなかったけど聞こえたんだ。


あの声の主は神様だったんだろうか……分からない。

きっと「異世界に転生したい」ってオレが零した愚痴を聞いて。転生させてくれたんだとは思う……


色々と思う所はあるが、神様の考える事を想像しても埒が明かない。

現実に絶望まではしていなかったけど閉塞感を覚えていたのは事実だし、この状況に心が躍ってるのも事実だ。


両親には申し訳ない気持ちはあるが、連絡の取りようがないのだから今さらだろう。

切り替えていこうと思う。


そして隣に寝てた赤ちゃんだが、きっと双子だったのだろう。オレの兄弟のようだ。

いつも同じベッドで寝ているので、オムツの交換の時に見たらしっかり付いてたから兄弟だ!



後は、この家には沢山の人がいるようだ。未だに初めて見る人がいたりする。そしてオレの両親は、この家の中でもかなり上の立場だのようだ。

母親? と一緒にメイド? がついて来てオレと弟? の世話をしている。


やっぱりと思ったのだが、ここは日本ではないらしい。

母? やメイド? 父? の顔が西洋人っぽい顔つきで言葉も理解できない。服装も中世の貴族っぽいものを着ているのだ。


文化レベルも電気は無く、カンテラの様な物(中に火ではなく光る石が入っている)を使っている。

光る石の事もそうだがハッキリとここが日本ではないと感じる事があった。


あれは何日か前の事だが、その日もいつもの様に母乳を飲んで下をぶっぱなした後、オムツを替えてもらい昼寝をする時の事だ。

オレはメイドに抱っこされてオパーイに顔をうずめるのが日課になっていた。


ベッドに寝かせようとするメイドと、顔をうずめたいオレとの熱いバトル! 

離したくないのに0歳児の力では簡単に引き離されてしまう!


オレは力のかぎり引っ付いた! もう本気で引っ付いた!

その時ポキッと音がしたと思ったら、右手の指が変な方向をむいている。一瞬の沈黙の後の激痛!! もう痛いのなんの!! オレ様ギャン泣き!!



そしたら母?がいつもの穏やかな顔から一転、鋭さを感じる表情でオレのベッドまで走り寄ってきた。

指を確認するとすかさず自分の手で包み込んだ。


分からない言葉を呟いた瞬間、オレの右手の指が光り痛みが引いていく……指が治っていた……確かに折れていたはずの指が治っていたのだ。

何を言ってるか分からないと思うが……



最初、何が起こったか理解不能だったがピンときた。

これってたぶん魔法だ。オレはどうやら魔法がある世界に転生したようだ。


魔法……

魔法かぁ……

夢がひろがりんぐ!


ちなみにメイドは母?に説教されて涙目になってた。ごめんなさい、あなたのオパーイが悪いのです!(テヘペロ)






8か月が経ち、やっと言葉を理解できる様になってきた。

言葉がわかると情報の量がケタ違いに多くなる。


どうやらここはフォスターク王国のブルーリング男爵領らしい。

領主バルザ、その1人息子のヨシュアと嫁のラフィーナ、そしてオレ アルドと双子の弟エルファスの5人がブルーリング男爵家だ。


家名のブルーリングは文字通りの意味で、眉唾物だがご先祖様が精霊の王から力を秘めた青い指輪を貰った事で王様から賜った家名なのだとか。

今でも家宝として青い指輪が屋敷のどこかにあるらしいが、オレは見た事がない。


どこにあるか分からないが火事や盗難に遭うとマズイので、地下のどこかが怪しい。

いつか見つけて、どんな力があるか調べてやろうと思っている。






オレの家族であるブルーリング家を紹介をしよう。

領主である爺さんは多忙なのか、ほとんど見かけた事は無い。


どうも普段は王都に住んでいて、年に何度か帰ってくる程度のようだ。

婆さんはオレの父であるヨシュアを生んですぐに流行り病で鬼籍に入った。享年20歳の若さだったとか。


跡継ぎが1人だけと言う事で、爺さんは周りから再婚を熱望されたが頑なに首を振らなかったらしい。

一途な人だと思ったが、どうやら真相は妻がいると遊べないと悟ったらしく、独身貴族よろしく夜な夜な屋敷を抜け出していた、とはメイド達の談だ。


ただし婆さんの月命日には、毎月 形見のネックレスを持って教会に通っているらしいので、人の心は単純ではないという事だろう。

爺さんと婆さんはそんな感じだ。



パパンとママンは何と言うか……ズバリ仲良しだ。いつも暇さえあれば、イチャイチャしてる。この前も家族で夕食を食べている席で……


「はいアル、アーンして。 次はエルよ。アーン。最後はア・ナ・タ、 はい、アーーーーーーン」


とかやってやがる。34歳独身の前でイジメか!って叫びそうになった。

しかし、考えてみれば母と言っても21歳、父も24歳の若さだ。日本で言えば大学生か新入社員ぐらいだろう。そう思えば多少は微笑ましく……


ハァ……まぁ、この2人も、いつもこんな感じではなく〆る時はちゃんと〆る。

ハイハイをマスターしてからは、屋敷の中を動き回るのが最近のマイブームだ。パパンの書斎を覗いたり、メイドの花園を覗いたりして過ごしている。


ちなみに書斎で仕事をするパパンは格好良い。

全体的に線が細く顔は上の下、糸目なのが玉にキズだが『ザ・文官!』って感じが、女心をくすぐるのだろう。


書類を持ち、執事達に指示をだしている姿は息子のオレから見てもデキル男を感じさせる。

そして実際にモテル! オレは知っている。メイドの何人かはパパンにアプローチしてるのを!


頭を下げる時に胸元を広げておいて谷間を強調したり、さりげなくオパーイを当てたり、潤んだ瞳で見つめたり……etc




そしてママンの逆鱗に触れる……




ママンの怒りは恐ろしい。普段のやさしげな瞳から肉食獣のような冷たい眼に変わる。

そこからは寝室にパパンを連れて行って数時間出てこない。


そして出てくる時はいつもパパンはやつれてフラフラになり、ママンはツヤツヤになって出てくるのだ。

何が行われているのか34歳のオレはまったく、これっぽっちも分からない。


こうしてママンの怒りは鎮められる。

ちなみにメイドは特に罰とかは何も無い。どうやらそれも含めてのプレイみt……ゲホゲホ



普段のママンは意外かもしれないが魔法師団の一員だ。

元々は平民の出で、10歳で魔法使いに弟子入りし、17歳になる頃には魔法使いの片手間に冒険者で活動していた。


そして領内の魔物討伐での働きで、魔法師団に引き抜かれた所をパパンに見初められたと言う訳だ。

そこからは電撃入籍、出産と、あっという間に今の状態になったらしい。


今でも魔法師団に席はあるが領主の奥方を現場に連れていくわけにも行かず、実際には魔法師団の下部組織 魔法研究室で魔法の研究を行っている。

本人も元々そちらの方が合っているようで楽しんでいるようだ。


そして最後に弟のエルファスちゃん。

一言で言うと“ちょーーーーかわいい”父親ゆずりのおめめ(糸目)、ぷにぷにっとしたほっぺ、まだ歯が揃ってないお口、笑った顔、拗ねた顔、泣いてる顔まで あらかわいい! もうね、天使かと!!


お兄ちゃんがなんでもしてあげる!

この生き物はヤバイ!萌え死ぬ!

隣でお昼寝してる寝顔を見ていると……


(あーー癒されるわぁ)


一通り萌え散らかした後、ゆっくりと眠気がやってきた

そろそろ寝るかと寝返りをうち、寝やすい体勢を捜し終えた頃、たわいない考えが浮かんでくる。


(男爵位とは言え正真正銘の貴族かぁ。でも継げるのはオレかエルのどちらか1人だけなんだよなぁ)


何もない虚空を見つめながら、しばし考える。


(よし、決めた! オレは将来ブルーリング家を出る。正直 貴族とか興味ないし、堅苦しいの苦手だしな。この世界では15歳が成人らしいから、それまでは世話になるとして……どうせなら、この世界を見て回りたいなぁ)


15歳までは世話になってそこから家を出ようと思う。


(金はどうやって稼ぐんだろう? 魔法で食っていけるのか? 異世界でもやっぱり金とか……世知辛いねぇ)






フォスターク王国建国より続く由緒だけはある男爵家、お家に関わる大事を0歳児が勝手に決めた瞬間であった。





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