第264話初夜
264.初夜
お披露目パーティも終わり、客が次々に帰っていく中、なんとルイスもエルと一緒に帰ろうとしているではないか!
(ルイス君、君には重大な任務を与えてあった筈だ。キッチリ全てをゲロってからしか、帰すわけがなかろう……)
オレは心の声に準じるままにルイスへ声をかけた。
「あー、ルイス君、そろそろ空間蹴りの魔道具の延長時期じゃないかね?丁度良い、今から見てあげよう」
「お?あー、もう、そんな時期か。3ヶ月なんて直ぐだな」
「そうそう。じゃあ、僕の部屋で処置をしようじゃないか」
「んー、流石に今日は悪いから後日で良いや……ぷっ」
ルイスの野郎、笑いを堪えてやがる……分かっててオレの誘いを断っているのか!
「る、ルイス、気にしないでくれ。直ぐに済むから、な?良いよな?な?」
「まぁ、アルドがそこまで言うならしょうがないかぁ」
こうしてニヤニヤと笑っているルイスを連れて、まだ殆ど物が無いオレの部屋へと移動した。
「ルイス、オリビアは何て言ってた?」
部屋の扉を閉めたと同時に口を開くオレを見て、ルイスは笑いを堪えながら話し出した。
「まぁ、待て。順番に話してやるから」
思わず正座して待ちそうになる衝動を抑え、小さく頷いて椅子に座る。
「先ずは初夜だが、それは今日じゃない」
ムンクの叫びのような顔のオレを見てルイスはとうとう大笑いを始めやがった。
「ぷはっ、何だ、その顔は!ひっひっひ……腹いてぇ……」
ルイスよ……その痛みが無くなるほどの拳を撃ち込んでほしいのか?意識が無ければ痛みは感じないからな……
オレから殺気が出ていたのか、ルイスは直ぐに笑いを堪えて向き直った。
「すまなかった。笑うつもりは無かったんだ……ぷっ。でも、お前が悪いんだぞ。そんな顔するから……ぷぷっ」
「……」
「悪かったって。本当にスマン、謝る!」
「分かった……で、他には何て言ってた?」
「住めるようになってから、って言ってたな。まぁ、この状態じゃ仕方ない……まさか、立ってやる訳にもいかないだろ」
そう言ってルイス、オレの部屋を見回した。
確かにベッドも無いこの状態ては、立ってやるしかないのは事実である……強引に立ってなんて暴挙をしでかしたら10年……いや、一生攻められ続けるに違いない。
「そりゃ、そうだよな……」
「そう落ち込むなって。要はベッドと毛布があれば最低限は事足りるわけだろ?」
「それはそうだけど、そんな状態じゃ嫌だろ?」
「うーん、“おあずけ“を食らってるのはお前だけじゃないみたいだぞ」
「どういう事だ?」
「同衾したいのは、お前だけじゃないって事だよ」
「それって……」
「お前の嫁さん達もガマンしてるってこった。察してやれよ。鈍すぎるのも考え物だぞ」
「……」
「早いところ家具やら最低限の用意をして、早々に引っ越すんだな」
ルイスに思いっきり言われてしまった……こうなったら直ぐにでもギーグに家具を作ってもらわなければ!
ゴールが見えれば、我慢も努力も出来ると言う物だ!
「ルイス、助かった。早速、ギーグと話をしてくる!」
「それは良いが、友人の結婚パーティの日程は決まったのかよ。昨日、ネロに会ったけど気にしてたぞ」
「そっちは本当の夫婦になってからだ」
「それもそうか。色々済ませてからの方が、落ちつけるってものだな」
オレが嬉しそうに頷くと、ルイスは小さく呆れた笑いを浮かべながら帰っていった。
そういえば魔道具の延長処理をしていない……忘れてたのはご愛嬌だ。
ギーグ達に頼むとありがたい事に、次の日から早速、家の中の家具を作り初めてくれた。
基本的にこの世界には家具の既製品なんて物は無い。
今まで使っていた家具を持ってくるか、中古の家具を買ってくるか、をしない限りは新しく作ってもらうしかないのだ。
家具と言ってもベッドや棚、机や椅子、果てはトイレの便座なんて物まである。
トイレ関係はタブの手配で終わっているが、他はまだまだ足りない物だらけだ。
ギーグに聞いてみた所、全ての家具が出来上がるには1週間の時間が必要だと言われてしまった。
実はギーグからすると、普通、家と家具はセットで作る筈なのに、何故家だけの発注で家具を頼まれないのか不思議だったそうだ。
これはオレの前世の記憶が関係している。日本では備え付けのクローゼット等は別として、普通は家を建ててから家具を後で購入するのが一般的だ。
今回は完全に、日本の常識をこっちに当てはめてしまった、オレのミスである。
そして一週間が経った日、待望の家具がやっと完成し、引っ越しをする事となった。
既に食器や最低限の物は結婚パーティーの時に揃えてある。
後は個人の着替えや生活雑貨を運べば引っ越しは完了し、待ちに待った桃色の世界が待っている、と言うわけだ。
オレだけでなく、アシェラ達も何処か浮ついた雰囲気の中、朝から引っ越しをして、時間はそろそろ夕方になろうと言う頃合い。
「長かったな……」
家を建て始めて、だいぶ経つ。色街未遂事件も今となってはいい思い出だ……決して残念だ、なんて思っていない!
改めて新居を見ながら、そんな心からの声が不意に零れてしまった。
「うん……」
そんな一人言に返す言葉がある……アシェラだ。
さっきまで作業着を着て、自分の荷物の引っ越しをしていたのに、今は青を基調とした町娘の格好で、寄り添うように隣に立っている。
この服は確か、アシェラのお気に入りだった筈だ。
「引っ越しは終わったのか?」
「うん……き、今日からここに住める……」
恥ずかしそうに話し、上目遣いでオレを見上げてくるアシェラは、目が離せないほと可愛らしい。
ゆっくりと顔を近づけていくと、察してくれたのか、目を閉じてオレを迎えてくれる……”愛おしい”心の底からそう思えた。
キスを終えて、アシェラの顔を見ると頬が染まり、いつもの3倍可愛く見える。
ガマンの限界が近い事を感じながらも辺りを見回すと、さっきまで忙しそうに引っ越しをしていたオリビアやライラの気配がない。
いつもなら抜け駆けは許さない、とばかりに邪魔をしてくるのに……オレが訝し気にしていると、アシェラが口を開く。
「オリビアとライラは帰った……こ、今夜は2人っきり……」
「お、おう……」
恐らくは順番になるだろうと当たりは付けていたが、こうなったか。
そりゃ、アシェラ達も2時間縛りで交代とか嫌だろうから、当然の結果なのだとは思うが……
実際にその状況になってみると、順番は当然の如くアシェラからのようだ。こうなると明日はオリビア、ラストがライラのような気がする。
そんな事を考えていると、アシェラは途端に不機嫌な顔になって抗議の声を上げてきた。
「アルド、今はボクだけを見て……お願い……」
「……そうだよな、ごめん……アシェラ、とっても奇麗だ。愛してる、絶対に死ぬまで離さない」
そうしてアシェラと何度目かも分からないキスをしてから、夕飯を摂った。
この日のアシェラは何故か分からないが、仕草の一つ一つ1つが可愛らしく、姿を絶えず目で追ってしまう……
見過ぎてはダメだ、と思えば思うほど見てしまう。
それはアシェラも同じらしく、事ある度に目が合って、お互いに赤くなり、下を見て小さくなるのだった。
大した経験値があるわけでは無いが、男女の仲なら日本での経験が多少なりともある。
ここはオレがリードして、アシェラの緊張をほぐさねば!と思うのだが、若い体に引っ張られているのだろうか、気の利いた言葉の一つすら出ては来ず、時は刻一刻と過ぎていく……
そんな時間を過ごしながら夕飯を終え、2人で食器を片付けた後の事。
「あ、アシェラ、風呂は……ど、どうする?」
「アルドが先に入って。ぼ、ボクは後で良い……」
一緒に入るかを聞いたつもりだったのだが、改めて聞き直す勇気などオレにあるはずも無かった。
「分かった……じゃあ、風呂から出たら、自室で休んでるから……」
「うん……」
この新居の風呂も考えてみれば今日、初めて使うのだ。大人でも窮屈ながら足を延ばせる程度の浴槽に浸かり、考えるのは夜の事……オレのリビドーが下半身に集中してパオーーンになってしまう。
欲望全開の中、ふとアシェラの気持ちはどうなんだろう、と思い至ってしまった……嬉しいのか、楽しみなのか、それとも……怖いのか。
(ダメだ。アシェラはオレなんかよりずっと緊張して、逃げ出したいほどに混乱しているかもしれない)
改めて考えてみると、アシェラはまだ少女と言える年頃の女の子で、本来はまだまだ守られるべき存在である事を思いだした。
(もし、アシェラが拒絶の意思を少しでも示したら絶対に止める事を誓う。それがオレのアシェラへの想いの強さだ……)
こうしてオレは、何とも独りよがりな決意を固めていたのだが……
当のアシェラからすれば、子供の頃からの想い人と結婚が出来、既に障害など何も無い状態である。
ここで怖じ気づくようなら、使徒の嫁などという貧乏クジを引くわけが無いのだ。
今はただ純粋にアルドとの時間を楽しみ、幸せを噛みしめていたのだった。
アルドが風呂から出て1時間後-------------------
アシェラの部屋からオレの部屋へやってこれる、直通の扉がゆっくりと開いていく……
部屋の灯りは魔道具では無く、オレのライトの魔法を天井に留めてある状態だ。
これは自分の意思で、好きに明かりを点けたり消したり出来るので、ムードを壊さないためのオレなりの配慮である。
少し暗いライトの魔法に照らし出されたアシェラは、青色の可愛らしいパジャマを着ており、恥ずかしそうに立っていた。
「アシェラ……」
オレは直ぐにでも行為に及ぶのかと漲っていたが、アシェラは少し違ったようだ。
「アルド……少し話をしても良い?」
寸前でお預けを食らったような気がしてしまったが、心の中でオレはオレ自身を渾身にチカラで殴りつけた。
「ああ、こっちに座ってくれ」
「うん……」
アシェラをベッドに座らせて、オレは椅子に座り直す。
ここで隣に座らないのがオレらしいのか、少しだけ呆れた顔をしてアシェラは口を開いた。
「アルドと初めて会った時を、今でも覚えてる……」
「あー、誘拐されたからな。オレもあれは忘れられないよ」
「違う、誘拐の前。ヨシュア様に連れられてきたアルドと、初めて会ったときの事……」
「……覚えてるよ。ハルヴァの横でオレと父様を不安そうに見てた」
「そっか。ボクは不安そうな顔だったんだ……」
「オレにはそう見えたけど、違ったのか?」
「ううん。アルドの言う通り、ボクは不安だったんだと思う」
「まぁ、父様もいたし、しょうがない」
アシェラは小さく首を振ってから話し出した。
「ボクが不安だったのはアルド。あの頃のボクにはヨシュア様の身分なんて分からなかったから。それより年の近い子と、どう接して良いか分からなかった」
「近所の子供と遊んだりしなかったのか?」
「あの頃のボクは朝起きると、お父さんと一緒に騎士団の詰め所に行って、1日中1人でいるだけだったから……たまに話すのは様子を見にきてくれた、騎士の人ぐらいだった」
「そうか……」
「だから、アルドが話しかけてくれた時はとっても嬉しかった……誘拐事件が解決した時にはもう、ボクはアルドの事が好きになってたと思う」
「そうだったのか……」
「あの頃から、ボクの中にはアルドしかいなかった。カシューの時も迎えに来てくれて、前よりもっと好きになった」
「ありがとう。オレもカシューの時と、使徒になった時、お前を失うかも、と考えただけで、世界から色が消えたみたいだった」
「アルド、顔を見せて……」
「アシェラ、愛してる」
「ボクも……」
2人はお互いを抱きしめ合いながら、ゆっくりとベッドへと倒れ込んでいくのだった。
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