第339話告白

340.告白






「ん……おはよう……」

「もう少し寝てて良いんだぞ。お前は結局 殆ど朝まで夜番をしてたんだからな」


「いや、いい。起きる。伯爵に隙を見せたくない……」

「ハァ……ルイス、一言だけ言わせてくれ。お前が全部背負う必要なんか無いんだ。半分ずつって言ってた夜番も殆どお前がやって……それじゃあ、どっかで潰れるぞ」


「オレはお前をブルーリングに絶対に返すため、ここにいる。雑務は任せとけば良いんだよ」

「分かったよ。ただ無理だけはしないでくれ。頼む」


眠そうな目で肩を竦めるルイスと一緒に部屋を後にするのだった。






伯爵に誘われて、最後に朝食だけは頂く事になった。

正直 毒の疑いを払拭出来ない以上、断りたい所ではあるのだが、強く乞われてしまい断り切れなかったのだ。


「君達と面識が出来た事を嬉しく思うよ。遠慮せずに食べてくれ」

「こちらこそ閣下とお近づきになれて光栄です。更に図々しく朝食まで頂いて、本当に申し訳ありません」


「何を言う。君達ほどの武の者は、この国では貴重だ。是非ともこれからも友誼を結びたい物だよ」

「ありがとうございます。我等はフォスタークに帰りますが、何かあればサンドラに知らせて頂ければ駆けつけますので」


ルイスの言葉を聞くと、伯爵はそれが聞きたかったととばかりに上機嫌になる。

どうやらオレ達を取り込む事は諦めて、何かあった場合に伝手だけは確保したかったようだ。


そこからはお互い当たり障り無い会話を続けていき、1時間ほど経った所でお開きとなった。





玄関に馬車がつけられオレ達をカナリスの街の門まで送ってくれるのだとか。

馬車を運転するのは当然の如く、ダカートの風の連中である。


昨日以来のパーガスが、軽くウィンクしてきやがった。


「それとこれは少ないがグレートフェンリルの通貨だ。失礼かとも思ったが、フォスタークまでは長い。何かの役に立つ事もあるだろう。必要無いかもしれないが受け取ってくれ」

「何から何まで本当にありがとうございます。このご恩はいつか必ずお返しします」


伯爵は満足そうに頷いて一歩下がった。

どんどん借りが増えていく……これを返す時には利子がどれほどの物になっているのか。考えるだけでも恐ろしい。


しかし今のオレ達には、金が必要なのも確かなのだ。

ルイスの後にオレも礼を言って領主館を後にしたのだった。






カナリスの街の門までの道中、パーガスが話しかけてくる。


「これでお別れかぁ。短い間だったが、色々と楽しかったぜ。ラヴィの姉ちゃんにもよろしく言っといてくれ。交流戦は笑わせてもらったってな」

「皆さんにはいろいろとお世話になりました。ブルーリングに来る事があれば訪ねてください。領主館に言えば、取り次いでもらえるはずですから」


「フォスタークかぁ。まぁ無いだろうけどな。もし行く時は寄らせてもらう。その時は頼むわ」

「はい」


ダカートの風のメンバーにはいろいろと世話になった。今持ってる証でマナスポットを解放する旅では、このカナリスにも戻ってくるはずだ。その時には是非、顔を出させてもらおうと思う。

そんな馬車での移動も終わりが訪れ、直に門へ到着した。


「じゃあな、お前等なら大抵の事は問題無いだろうけど気をつけてな」

「ドラゴンスレイヤーと戦った事は、私の自慢にさせてもらうわ。ありがとね、アルド君」

「頂点の強さと言う物を体験させてもらった。礼を言う」

「オレは特に何も言う事は無い。ただ、この数日間 楽しませてもらった」

「皆さん、ありがとうございました。また会いましょう」


こうしてオレはルイスと2人、ザージバル領にある、国境の街ワルカへと向かったのである。






ルイスとの旅は非常に順調だった。少々の悪路や谷などの障害物は、お互いに空を駆ける事が出来る以上、全く問題にはならない。

この感覚はエルやアシェラと行動をしている感覚に近い物がある。


そんな順調な旅路で昼食を摂っている時、ルイスが真剣な顔で話しかけてきた。


「アルド、カズイさん達には何も言ってないんだろ? このまま隠し続けるつもりなのか?」


これはオレも思っていた事だ。オレは自分が使徒である事を知られて、カズイ達に迷惑をかけたくなかった……

いや、違う。正直に言おう。オレは今までの先が見えない旅で、カズイ達に拒絶されたり恐れられたりして1人きりになるのが怖かったのだ。


恐らくカズイ達なら驚きつつも受け入れてくれる。そうは思っても、いざ話そうとするとどうしても言葉が出て来なかった。

しかし、我ながら情けないとは思うが、今なら話せそうな気がするのだ。


きっと、ティリシアに着いてフォスタークまでの算段が付いた事と、ルイスに会えた事でそう思えるようになったのだろうが、自分の事とは言え その打算的な心に呆れてくる。

カズイ達には、改めてこれまでの感謝と大事な事を隠していた謝罪を伝えないと……でないとオレはあの人達と一緒に笑えない気がするのだ。


「ワルカに着いたら話そうと思う。オレのフォスタークでの身分、どれほどのチカラを持っているのか、それに……使徒である事も」

「そうか。それが良いだろうな」


「ああ、それであの人達がどう判断するかは、任せるしかない……かな」


ルイスはそれ以上は何も言わなかった。まるで大丈夫だと言いたげに、小さく笑みを浮かべながら干し肉を齧り続けるだけだった。






それからもワルカまでの道のりは驚くほど順調であった。街には極力 立ち寄らず、野宿をしながら最速で目指したのも大きかったのだろう。

もう直ぐワルカに到着すると思われる頃、とうとうカズイ達一行に追いつく事が出来たのだった。


「アルド、早かったね。大丈夫だった?」

「ええ、何とか追いつけました。カナリス伯爵とはちゃんと話が出来て、グレートフェンリルのお金まで貸してもらえましたよ。何も問題ありません」


「そう、良かった。じゃあ、後はフォスータクに向かうだけだね」

「はい。ここからの旅は、ルイスに案内してもらえるので順調なはずです」


「おいおい、オレに任せっきりにするつもりなのか? 一応は道は覚えてるつもりだけど、オレ達も通訳頼みでここまで来たんだぜ。あんまり当てにするなよ」

「そうなのか。お前が魔族語を話せるのは知ってたけど、通訳ってエルフの国と獣人族の国の両方か?」


「エルフ語は入って直ぐに通訳を付けて貰ったから問題無かったが……獣人語は最初の街で、魔族語との通訳を見つたんだ。それで、そいつを雇って一緒に旅をしたから、実は路銀がちょっと厳しい」

「マジか。もしかしてカナリス伯爵にはかなり助けてもらった事になるのか?」


「ああ、そうなるな。国境の通行税の上に旅の路銀。正直 かなり助かった」

「敵対してたらと思うとゾッとするな。追手をかけられて更に金欠とか……もう盗賊まっしぐらじゃないか」


「違いない」


こうしてカズイと合流してザージバルの国境の街ワルカで1晩を過ごす事になった。

宿屋の部屋で一息ついてからの夕食の時間、ルイスと話していた件を話すべく、オレはカズイ、ラヴィ、メロウへと口を開いた。


3人はオレの只ならぬ雰囲気を察知し、真剣に話を聞いてくれるようだ。


「カズイさん、ラヴィさん、メロウさん、大事な話があるんです。夕食の後、僕達の部屋で聞いてくれませんか?」

「どうしたの、アルド。そんな真剣な顔で」


「今まで皆さんが不思議に思ってた事を話そうと思います。空間蹴りの事、僕のフォスタークでの身分、ハクさんが僕に対して何故あんなに下手に出ていたのか、全部をお話します」

「……分かったよ」


そこからの食事は必要最低限の会話だけで、誰からもいつものような軽口は飛んでこなかった。

夕食も終わり、男性陣の部屋でカズイ、ラヴィ、メロウの3人と向かい合って座っている。ルイスとリーザス師匠は部屋の隅に立ち、部外者を装っていた。


これはオレとカズイ達の話であり、遠慮してくれているのだろう。


「何から話した物か……先ずは僕のフォスタークでの身分から話します。実は僕は…………」


そこからは、自分がフォスターク王国ブルーリング家の嫡男として生まれ、15歳でファオンを返し平民になった事、ルイスとは学園からの腐れ縁で共に修行をした事、空間蹴りだけじゃなくオンリーワンの様々な技術を使える事、仲間と共にではあるが竜種を2回 倒した事があるドラゴンスレイヤーである事、そして……使徒である事を丁寧に話していった。


「ま、待って。使徒ってジェイル様と同じって事なの?」

「はい。エルフの始祖ジェイル様と同じ立場です。ドライアドからジェイル様は、僕なんかよりとても優しくて頼りになるとは聞いてますが、同じ使命を負っています」


「ど、ドライアド様と話した事があるの?」

「これは秘密……今 話した全部が秘密なんですが、実はドライアドはブル-リングの街で普通の少女として歩き回ってます……」


「ど、ドライアド様が……あ、歩き回ってるの?」

「はい。そこはまた後で個別に話しましょう。最後に何故 僕がアルジャナに飛ばされたかを話します。これは僕もそこにいるルイスから聞いた話で、ルイスが僕を探しに来てくれた理由にも繋がる事です。あの日 僕は友人に結婚した事を報告するパーティの準備をしていたんです。その時 黒いモヤが現れて………………」


魔族の精霊グリムに突然 訳も分からず襲われて、気が付いたらスライムの丘に飛ばされていた事、ルイスから聞いた話ではグリムから逆恨みされた事、当のグリムは使徒であるオレを傷つけた事で消えてしまった事を話していく。


「待て、アルド!じゃあ、グリム様は死んでしまったのか? 魔族に精霊様の加護は無くなってしまったと言うのか?」

「落ち着いてください、ラヴィさん。上位精霊は死ねない……いえ、死んでも直ぐ精霊王に生き返らせてもらうそうです。前の存在とは違っているそうですが……」


「それはどう言う事なんだ? 私には意味が分からん」

「僕にも正確な事は分かりません。ルイスから聞いた話になりますが、既に新しいグリムは生まれているはずだと」


「詳しい事は直接ルイスに聞いてもらえると助かります。話を戻しますね。使徒の使命の話です。この世界にはマナスポットと呼ばれる………………」


最後に使徒の使命と世界の危機を説明していった。勿論 新しい種族やブルーリングの独立、全体を通してかなり話していない事はあるが、これ以上は流石に難しい。

こうしてオレの話が終わった頃には夜は更け、夜中と呼ばれる時間になっている。


「今まで黙っていてすみませんでした。途中で何度も言おうと思ったんです……でも言えなかった。本当にすみませんでした」


オレが真剣に頭を下げる中、カズイの少し戸惑った声が響く。


「ぼ、僕達はどうすれば良いのかな? このまま着いていっても良いの?」

「そうしてくれると助かります……でもカズイさんは僕が怖く無いんですか?」


「怖い……うーん、ビックリはしたけど怖くは無いかな。だってアルドはアルドでしょ?」

「……はい。僕はアルドで、いきなり使徒の使命を押し付けられただけの人族です」


「押し付けられたんだ。そりゃ、なりたくてなったわけじゃないよね」

「はい」


「だったら僕は許されるなら、このまま同行させてほしい!僕はドライアド様に会ってみたい!」

「わ、私は絶対に付いて行くぞ!アルドとリーザス師匠の弟子なんだから当たり前だ!」

「私も行く。こんな面白そうな事は他にない。アルジャナに帰れたらリースに自慢してやるぞ」


三者三様の答えだが、この3人らしい答えだった。


「ありがとうございます……皆さん」


こうしてカズイ達への隠し事は無くなった。ずっと背負っていた物を降ろす事が出来て、心が随分 軽くなった気がする。

ここからの旅はお金はある。道も分かる。言葉もカズイ達は人族以外の言葉は問題が無い。後は本当にブルーリングを目指して進むだけだ。


「そろそろ寝るぞ。明日に差し支える」


リーザス師匠の言葉が部屋に響いて、それぞれがベッドに潜り込んでいくのであった。




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