第126話使徒 part2
126.使徒 part2
眼を覚ました時に入ってきた光景……あぁ。綺麗な指だったのに……その指を腕ごと口に咥えて咀嚼している物がいる……
許せるだろうか?嫌、許せない……許せる訳がないだろうがあああああああ!!!
オレは跳ね起きて腰の短剣を二刀抜き、ゴブリンキングと思われる敵に真っ直ぐ跳んだ。
敵は手に持った大剣で切り付けてきたが未熟ながら”バーニア”で平行移動して躱す。
敵の懐に入り込んだオレはそのままゴブリンキングの右眼に右の短剣を左耳へ左の短剣を突き入れた。
ゴブリンキングは即死し、崩れ落ちたがオレの腹の虫は収まらない。ウィンドバレット(魔物用)を8個纏わせてから原型が無くなるまで撃ち込んだ。
視線を上げるとゴブリンキングらしき個体が周りに3匹死んでいた。アシェラと母さんが倒したのだろう。
オレが倒した個体をいれると4匹か……しかし未だにキングが3匹。
その後ろにはエンペラーと思わしき個体が控えている。
オレがどれに突っ込もうか思案していると声をかけられた。
「アルド。ボクは大丈夫だから。無理だと思ったら逃げて」
横目で見ると恐らく母さんは魔力枯渇寸前、アシェラも同様。
オレが逃げたら間違いなく、この2人は死ぬだろう。
「アシェラ。止めてくれ。それ以上言われると自分が情けなくて死にたくなる……」
「……」
「その腕、オレが絶対に治すから……少しだけ待っててくれ」
「うん……」
オレが1歩前に踏み出そうとすると隣に立つ者が。
「遅いぞ。エル」
「すみません。兄さま」
「まずは雑魚を掃除したい。エンペラーの足を止められるか?」
「任せてください」
「行くぞ!」
「はい!」
オレが先頭でエルが後ろだ。一番前のキングに魔力盾&リアクティブアーマーのバッシュを食らわせる。
即死では無いが立っている事は出来ないダメージを入れた……1匹
まさか盾が爆発するとは思わなかったのだろう。残り2匹は驚いた顔で棒立ちだ。
オレはウィンドバレット(魔物用)を8個纏い右のキングへ吶喊する。
驚いて大剣を振って来るがオレも魔力武器(大剣)で鍔迫り合いへ持って行く。
お互いのチカラが拮抗した所で配置してあったウィンドバレット8個を同時に撃ち込んだ……2匹
原型を留めないキングを最後のキングが凝視している……
オレは敢えて短剣二刀を”ダラリ”と下げゆっくりと最後のキングへと歩いていく。
明らかに怯えて周りを見るがあるのは同族たるゴブリンキングの死体ばかり。
逃げるか。向かって来るか。どっちにしても殺してやる……
オレの殺気に怯えたのだろうかゴブリンキングは逃げ出した。
まだまだ練度は低いが空間蹴りからの”バーニア”発動。一瞬でキングに追いつき右手の短剣で首を薙ぎ。左手の短剣で左肩から鎖骨の隙間を縫って心臓を一突き。
キングは逃げる勢いのまま崩れ落ちる。
すぐさまエルに向き直るとリアクティブアーマーで反撃した所の様だ。オレはウィンドバレットを3個、最初の息があるキングへ打ち込むとエルとエンペラーとの戦いへ参戦する。
時は少し戻り、エルファスが眼を覚ます頃。
回りの音が五月蠅い。僕はゆっくりと覚醒していく。
気が付いた時には兄さまがゴブリンキングの1匹に吶喊している所だった。
眼と耳に短剣を突き立て即死した敵に尚もウィンドバレットを撃ち込んでいる。
兄さまがあそこまで感情を出すなんて……っと思った瞬間、アシェラ姉の左腕が無いのに気がついた。
あ、、、さっきのキング何か咥えていた……まさか……まさかっっ!!!!!
その時にはエンペラーへの恐怖は怒りへと変わっていた。
アシェラ姉と兄さまが何かを話していたが僕が聞いて良い事では無いだろう。
兄さまは、まずキングを掃除すると言う。それなら僕はエンペラーの相手だ。
普段の兄さまなら”倒してしまってもいいぞ”と言うだろうが今日は倒せたとしても僕が倒してはいけない。
こいつらは兄さまが殺したいはずだから……
僕は兄さまが走り出した後ろを小さくなって走る。キングの群れを兄さまの背中に隠れて抜ける事に成功した。
目の前にはエンペラーだ。まずはリアクティブアーマー(威力マシマシ)を食らってもらう。
兄さまからは自分も吹っ飛ぶと聞いたがチカラの逃がし方を工夫すればいけるんじゃないかと思っている。
流石に盾の扱いには僕に一日の長があるはずだ。
エンペラーはこちらを伺うだけで向かって来る様子が無い。
埒が明かないのでこちらから向かう。
攻撃されれば流石に迎撃してくる様で大剣を振って来る。一度目の振り下ろしは躱す。
続いて大剣を薙いできた。
右手の片手剣を大剣の根本に当てて振り抜けない様に邪魔をする。そのままエンペラーに左手の盾で”バッシュ”
”ドゴン”と腹に響く音がして僕は2~3メード後ろに吹き飛ばされた。
土煙が舞って視界が一時的に無くなり、警戒しながら土煙が晴れるのを待つ。
時間にして10秒弱だろうか……そこには胸に火傷を負い右手をダラリと下げたエンペラーの姿があった。
エルの元に向かうとエンペラーは胸に火傷を負い右手も使えない様だ。
エルはと言うと特に怪我らしい怪我も無く真っ直ぐに立っている。
「エル、どうだ?」
「膂力と魔力は流石に強いですが駆け引きも勝負勘も全然ですね。きっと自分より弱い敵としか戦った事が無いと思います」
「そうか……アシェラ達が心配だ。油断しないで最速で倒すぞ」
「分かりました」
そこからはオレとエルの波状攻撃を受けてエンペラーは防戦一方だった。
しかし流石はお伽話の魔物である。
エルの騙し討ちに近いリアクティブアーマーはまともに受けたがオレの攻撃もエルの攻撃も紙一重で躱すか捌かれてしまう。
おまけに魔力を纏っている物だから攻撃が当たっても有効打に成り難い。
「流石。エンペラーしぶとい……」
「そうですね……」
しかしエンペラーは押し返すチカラも無く徐々に傷が増えていく。
オレもエルもそろそろ限界か?と思った所でエンペラーは思わぬ行動に出た。
今、戦っている場所は城壁の上だ。エンペラーは大剣を放り投げ自らの拳で足元の城壁を殴りつけた。
エンペラーとしても賭けだったのだろう。しかし、見事に勝った様だ。
崩れていく城壁の中でエンペラーは確かに笑った。土埃が舞い何も見えない。
オレは局所ソナーを使うと100メード程先を走り抜けるエンペラーを感じる。
追うべきか追わざるべきか……指輪が光ったと思ったらアオが現れた。
「早く”主”を追ってよ。逃げられちゃうじゃないか」
アオはそう主張するが母さんとアシェラを見ると、とても放っておける状態では無い。
「アオ。アシェラと母さんを置いて行けない」
「ボクもです。ごめん。アオ」
「使徒が2人なんて聞いた事ないのに2人共、”主”を追わないなんて……人は不思議な生き物だ」
オレとエルはフラフラの母さんと片腕のアシェラを抱いて空間蹴りで屋敷へ戻る。
腕の中のアシェラは今にも折れそうなくらい儚い…
「アシェラ……ごめん。守れなくてごめん……」
オレは眼から大粒の涙を流しながらアシェラへの謝罪ばかりを口にする。
「アルドはちゃんと守ってくれた……」
そう言って笑うアシェラを見てまた泣いた。
直に屋敷へ到着する。
すぐにメイドへ体を清めて着替えを用意するように言いつけた。
きっと2人共、魔力枯渇寸前で恐らく眠るのが一番なのだ。
今は昼だから起きるのは恐らく夕方か……
出来れば一緒に食事を摂りたい。ローランドにその辺りを話してアシェラ達と一緒に起こして貰うように頼む。
身を清めオレも魔力を使い過ぎたので寝ておこう。と自室へ向かうと部屋の前にはハルヴァが立っていた。
正直、何と言って良いか分からない。それでも謝罪せねば………
オレはハルヴァの前まで歩きゆっくりと膝を付く。
そして手を床に置いて額を床に擦り付けた。
「すみませんでした……」
腕は治るから良い。とかそんな事では無い。
あの瞬間、アシェラも母さんも死にかけたのだ。
オレが後1分起きるのが遅かったら……エンペラーが舐めて後ろに下がらなかったら……
きっとほんの少し何かが違ったらアシェラも母さんも死んでいた。
オレが亀の様に縮こまって謝罪するのをハルヴァは何も言わずに黙って見ている。
何か言わなければと思った時にハルヴァがポツリポツリと話し出した。
「生まれたばかりの時は小さくて……あまり泣かなかった。医者からは長生き出来ないかも。とも言われました」
最初、ハルヴァが何を話し出したのか分からなかったがアシェラの事だろう。
「それでもルーシェと2人、一生懸命、育てたんです……アシェラが6歳の時、ルーシェが病に臥せってからはあの子に不便ばかりかけました。7歳の時にラフィーナ様の弟子に成れてからは見違える様に明るくなりました………私はきっと父親としては不出来なのでしょう……あの子の意思を無視しているのも分かっています…………それでも、アルド様……婚約を解消して頂きたい。私はあの子の死ぬ姿を見たくない……」
ハルヴァは身動きも言葉を発する事も出来ないオレを一瞥してゆっくり去っていく。
”使徒””精霊””ゴブリンエンペラー””ブルーリングの危機”これに”婚約破棄”が加わった。
オレは自分の中で何かが決壊していくのを感じていた……
取り敢えずは睡眠薬を飲んででも眠らなければ……薬を飲んで無理矢理 眠ったオレの頬には涙の後がしっかりと残っていた。
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