第56話ライラの大冒険 弐
56.ライラの大冒険 弐
ライラが旅に出て2年が経過していた。
この2年の旅で若返りの霊薬を捜し、各地の遺跡を巡っている。
つい先日、やっと1本ではあるが念願の霊薬を手に入れる事ができた。
副作用や動けなくなる事を考え野営では使う事をためらっているが、街に着いたら直ぐに使うつもりだ。
足早に街に戻り、特に問題も無く宿に到着する。
(さて宿に着いたわけだけど早速、使ってみたいわねぇ)
念の為、枕元に水、簡単な食料、着替え等を用意する。
しばらく霊薬を見ていた。副作用で老化するかもしれない…少し考えた後に覚悟を決めて口の中に放り込む。
10秒…20秒…偽物を掴まされたか?っと疑問を持った瞬間に体中が熱くなってくる。
(これは、念の為にベッドに横になって…)
熱さは嫌な感じでは無く、むしろ心地良い。
ベッドに横になっているといつの間にか眠っていた。
窓が開いていた様で、太陽の光で眼が覚めた。
ベッドに横になりながら自分の手を見てみるとどうも張りが違う気がする。
気のせいかも知れない。確認する為に起き上がり、手鏡を取り出す。
若い。世間一般では年増の部類に入るだろう。しかし、薬を飲む前とは明らかに違う。
そこには30歳前後の美しい淑女が映っていた。
ライラは小躍りしたい気持ちだった。心配していた副作用で老いる事は無さそうだ。
これで後2本。いや小娘の分を入れて3本確保すれば上手くいく。そう心の中で歓喜していた。
こうなると霊薬を手に入れた場所、それ自体がヒントになるはずである。
この霊薬はエルフに縁のある遺跡で手にいれた。
具体的には墓地である。
エルフは一般的に土葬で死者を送る。流石のライラも墓を掘り死者を冒涜してはいない。
しかし、地位のあるエルフは土葬では無く石棺に入れられ墓地遺跡に埋葬されるのだ。
日本で言う古墳の様な物と言ったら判りやすいだろうか。
そこには石棺があり、横には死者が万が一に蘇った時、困らない様にと衣類、各種秘薬、貴金属等が陳列されていた。
その内の1つに若返りの霊薬があったのだ。
なぜ若返りの霊薬と判断できたのか?それは古代エルフ語で書かれていたからだ。
ライラは古代エルフ語に明るくはない。しかし”若返りの霊薬”その単語だけは頭に叩き込んであった。
結果、なんとか霊薬を捜しあてる事に成功する。
自分で試してみて、今回の霊薬は本物だった。
こうなるとエルフの墓地を重点的に探すのが効率的なのだが…
しかし、墓地を荒らすと言うのは、末裔や墓守からすれば許せる行為では無い。
よほどの恩を売るか、気づかれない様に入るしか無いのだ。
「そうなるとエルフの墓地の位置なわけだが…」
地図を見てもエルフの墓地が書いてあるはずが無い。
しかし、エルフが住んでいなければ、エルフの墓地は絶対に無いのだ。
エルフの住んでいると言われる場所に印をつける。
「順番に回るしか無いけど…強硬策で手に入れても次が警戒されるか…強硬策で手に入れるのは最後ね。最低、後1本は友好的に手に入れないと…」
そう呟いて一番近いと思われる集落に当たりを付ける。
若返りの霊薬を飲んで3日。ライラはあちこちで男に言い寄られていた。
元々、見目が麗しかった為にこういった事は多かったが、最近は随分と静かになっていたのだ。
しかし10歳ほど若返り、30歳始めの見た目になった事により、再び男達の眼に止まる事になった。
「鬱陶しいのよ!消えて」
ライラの声が響いた。
今はエルフの集落に近い街までの護衛依頼を受けている。
なぜ護衛?実は魔法師団を辞めて、冒険者になったのだ。
ランクもこの2年でCまで上がっている。もう少しすればBにも上がれるだろう。
護衛依頼はソロでは受けられない。移動のロスを無くす為に、臨時にパーティを組んだのだ。
男の戦士が2人と女の回復魔法使いが1人、そこに魔法使いのライラが入って4人でバランスの良いパーティができる。
問題ないと思って護衛依頼を受けたまでは良かったが、戦士の1人がライラを気に入ってしまったのだ。
何かある事に”大丈夫か?”と声を掛けてくる。ライラも魔法師団の小隊長までになった猛者である。
最初は我慢していたがいい加減、鬱陶しくなってきて冒頭の大声に戻るわけであった。
「私には心に決めた人がいるんだ。判ったら私の周りをウロチョロするんじゃないよ!」
30歳でこれなら20歳に戻るのは…いっそ2本集まるまで飲むのを止めるか。
ライラは本気でそんな事を考えていた。
2日後には予定通りにエルフの集落に近い街に到着した。
「じゃあね。またどこかで会ったらよろしく」
臨時で組んだパーティに、最後に夕飯でもと誘われたが興味なしだ。
その日は宿に泊まり、次の日には集落を捜して1人で森に入る。ソロでの森の探索は非常に神経を使う。
動いている時はまだいいのだ。
問題は休憩をどう取るか…人である以上、生理現象や睡眠、食事がどうしても必要になる。
それらの問題をライラは木に登る事で解決した。
どうやって木に登るか…空間蹴りである。アルドの戦闘を見てラフィーナとアシェラに指導を乞い、2年をかけてやっと完成させたのだ。
勿論アルドやエルファス、アシェラには遠く劣るのだが高所への移動と高所からの移動は問題無く出来るようになった。
全く気配無く木に登る物は虫か蛇ぐらいであった。
こうしてライラは木に登り、体を木に結び付け休む。
慣れると思ったより快適で、今では座布団の様な物まで持ち込んでいた。
朝になり鳥の声に起こされる。
「そろそろエルフの集落を見つけたいわねぇ」
これがフラグだったのか…木の下をゴブリンの集団に追われるエルフの男の子を見つけた。
ゴブリンの数と後続の敵はいないか確認をすると、当たり前の様に木から飛び降りる。
アルドの戦闘のようには行かないだろう。しかし飛び降りる勢いで攻撃ぐらいは出来る…はず…
ゴブリンの1匹を魔力の纏った足で踏み潰す。そして、空間蹴りで速度を落として着地した。
確かにゴブリンは倒せた。しかし、返り血でドロドロになってしまう。そこには半泣きのライラがいた。
アルドは元々魔力を纏って、返り血が直接 体に付かない様に魔力を調整している。
ライラはそんな技術は知らない。知っていたとしてもそこまで魔力操作が得意では無かった。ある意味、返り血で汚れるのは仕方なかったのである。
泣きたくなる思考は切り替えて、周りを確認する。残りはゴブリンが4匹。上位種はいない。
雑魚だ。
瞬時に身体強化をし、距離を取る。
ライラはラフィーナと同じ無詠唱の流派だ。
実戦でこそ違いがハッキリと判る。
風の魔法ウィンドカッターを杖より連続で射出する。
ゴブリンは大した抵抗も出来ずに切り刻まれて行く。
1分もしない内に4匹のゴブリン全てを倒す事に成功した。
ライラはエルフの男の子に向き声を掛ける。
「もう大丈夫よ」
ライラの答えに男の子は
「jf」pkghp@l「d」
エルフ語だった。
ライラはエルフ語が話せない…。
呆然とするライラを男の子が手を握って引っ張ってくる。
どうやらどこかに連れて行きたいようだ。
きっとエルフの集落だろうと当たりを付ける。
集落に行けば人族語を話せる人もいるだろう。と、黙って付いて行く事にした。
男の子はやはり集落にやってきた。
集落の入口には門番が立っておりその門番はライラを訝しそうに見つめる。
男の子が門番に何事か話すと少しだけ空気が和らいだ。
手を引かれ門をくぐる。
ライラは手を引かれるままに男の子に付いて行く。
集落は森と一体化していた。見た目よりずっと大きく、規模を把握するのに時間がかかってしまった。
(ここは集落の規模じゃない郷だわ。エルフの隠れ郷。ここなら…)
連れて行かれながらも郷の様子をつぶさに観察していく。
ライラは結局、一番奥にある家に連れて行かれる。
そこには村長なのだろう。一際、威厳が溢れたエルフが座っていた。
ライラは流石にこの場の空気に、飲まれるのを感じている。
ゴクリっと喉を鳴らしてから話し始めた。
「私の名はライラ。故あって旅をしている。エルフとは争うつもりは無い」
一息に話した。場に沈黙が降りる。
(……)
(何か失敗したのか?分からん)
時間にして1分程して村長が口を開いた。
「b:gk」djk、」msl」
エルフ語だった。
一瞬、思考が飛んだがすぐに思い至る。
(どうやら、ここには人族語が話せる者がいないようだ。私も若返りの霊薬…エルフの秘薬を求めるならエルフ語が必須だろう。この郷で言葉を習ってみるのも悪くない…)
そこからはお互いに身振り手振りで意思の疎通を図る。
傍から見ると遊んでいるようだ。
さき程までのシリアスさんが息をしていない。
こうしてライラは言葉を覚えるためにエルフの隠れ郷に留まるのであった。
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