○side:F ハリッサ大陸にて
スカーレット様達が居なくなって、3週間が経ちました。朝、デアが昇るよりも早い時間。まだ
「あ、おはよう~、リアさん」
廊下に出た私に沿う声をかけてくれたのは、召喚者のサクラ様です。
「おはようございます、サクラ様。早いですね?」
「ん~、ちょっとね。最近、あんまり寝れなくて……」
そう言って、寝癖の付いた茶色の髪を手で直しているサクラ様。彼女の目元には薄っすらとですが、クマがありました。
――これは……ご奉仕の、機会?
自分の中に“何か”が沸き上がったような気がします。
「リアさんこそ、早いね。というより、今、ひぃちゃんの部屋から出てこなかった?」
「はい。スカーレット様の残り香を嗅いでいました」
「そっか。……ん? そっか?」
なんかおかしくない? と、首をひねっているサクラ様。
「そんなことよりも、サクラ様」
「そんなこと、なのかなぁ……って、何々?! どうしたの、リアさん?!」
リアはサクラ様の腕を引っ張って、彼女が今来た道を引き返します。どうやらサクラ様はお疲れのようです。ここ数日でも1度だけ、リアはサクラ様と一緒に眠ったこともありました。ですがその時も確かに、悪夢にうなされていたような気がします。
――リアが、サクラ様を癒してあげます。
リアの行動に驚いてはいたものの、特段抵抗はしないサクラ様。まだ少し寝ぼけまなこの彼女を、リアは寝室まで誘導します。そして、
「え、ちょっ?!」
慌てるサクラ様を、リアは優しくベッドの上に押し倒しました。
「り、リアさん? そういうの、わたしは良いって言うか、なんて言うか……わぁっ?!」
優しくリアを引きはがそうとするサクラ様を、リアは優しく抱きしめてあげます。いつだったか、スカーレット様が、言っていました。『リアさんと一緒だと、なぜかぐっすり眠れるのよね』と。自分では分かりませんが、リアが一緒に居ればきっと、サクラ様もぐっすりです。
「リアさん、ほんとにまずいって! わたしまだ、ひぃちゃんみたいに耐性無くて……」
最初こそやや激し目に抵抗していたサクラ様ですが、次第にリアを押し返す力も弱くなっていきます。〈ステータス〉という力を使うと、リアを簡単に引き
――ですが、これくらいなら。
ぐっすりを届けるくらいなら、サクラ様も許してくれるみたいです。リアはそのまま、自分の胸にサクラ様の頭を押し付けます。
「く、苦しい……」
「リアと一緒に、二度寝です」
「嬉しい。嬉しいよ? でも、今は別に、眠くなくて……。あれ……?」
近くにあった布団を引っ張って、2人一緒に
「すぅ、すぅ……」
リアの望み通り、サクラ様はぐっすりと眠りに落ちました。念のためにお顔を確認すると、大丈夫そうです。悪夢にうなされていたりはしません。
「ご奉仕、完了です」
今、リアが出来るご奉仕はここまでです。身体へのご奉仕は、サクラ様が起きてからですね。いつもリアを気にかけてくれて、守ってくれているサクラ様。リアも、もっとご奉仕で返さなくてはいけません。
――次は、
食事は全ての源になると、メイドさんが言っていました。動物さん達だって、お腹がすくともやもやだと言っていましたし、食事が気分・気持ちに関わることは間違いないはずです。満足してもらえるご飯を作るためにも、リアはお手伝いさん達と一緒にご飯を作らなければなりません。
サクラ様を起こさないようにそうっと布団を抜け出して、部屋を出ようとしたリアはふと。ベッドのそばに積まれていたたくさんの本を見つけます。眠くなるまでにサクラ様が読んでいたのかもしれません。もしくは、眠れないから読んでいたのかもしれません。いずれにしても。
――サクラ様が求めている物が、見つかるかも……?
リアはサクラ様へのより良いご奉仕を求めて、本の題名にさっと目を通します。
「『フォルテンシアの歴史』、『死滅神について』、『グウィの創世記』……」
邸宅の地下にある書斎から持ち出した本です。リアの中にあるフェイ様の記憶にも、その内容はありますが……。どうやらサクラ様は、フォルテンシアの成り立ちや歴史・文化について調べているようでした。
リアも、フォルテンシア様については今一度知りたいと思っていました。なぜスカーレット様が、尽くそうとするのか。私の中にあるフェイ様の記憶でも、そうです。どうして彼らは……この星に生きる人々はフォルテンシア様のために尽くすんですか。フェイ様ですら、疑問に思ったことが無いようです。
――リアの知らない世界……。それこそ〈ステータス〉を持てば、理解できるんでしょうか……?
そう考えて、やっぱりやめます。フェイ様も〈ステータス〉を持っていました。ですが、フォルテンシア様が誰なのかは知らない様子です。
「じゃあやっぱり〈ステータス〉を持たない方が良い……? 分かりません……」
と、リアが脳内にあるフェイ様の記憶の断片を掘り返していると、机の上に数枚の紙が置かれていることに気付きます。サクラ様の字なので、勉強したことを自分なりにまとめた物のようです。当然そこには、サクラ様自身が分かりやすいように付記もされています。
特段目を引くのはいくつかの項目から線を引いた「異世界」という単語と、「私、死んだ?」という文字です。が、自分の死を疑う付記については大きくバツがされていて「夢」とだけ書かれています。
――サクラ様はこの世界を死後の世界と考えた……?
でも、否定する何かがある。あるいは、夢の中に答えを探しているようです。別の紙にはスキルとステータスの単語から線が引かれ「ゲーム?」という単語が書かれています。でも、それにもバッテンが書かれていました。理由として「全身の感覚をどうこうするゲームの技術は日本に無い……はず」だそうです。加えて「ひぃちゃん」……スカーレット様の存在が理由としてあげられていますね。「AIの技術もここまでではない……はず」と書かれていました。意味は、分かりません。
どれも確信には至っていないみたいですが、サクラ様が寝不足の頭でフォルテンシア様について調べていることは分かりました。
――じゃあ、リアに出来ることは何でしょうか……?
フォルテンシアについて、死滅神についての記憶は、フェイ様のおかげである程度あります。それに、スカーレット様と出会ってからたくさん勉強もしました。
ですが、今のところリアにフォルテンシア様について調べることの役に立ちそうな記憶はありません。ご奉仕が、出来ません。……だったら。
「せめて、考えることのお手伝いは、出来るはずです」
よく眠って、よく食べて。そうしてサクラ様がたくさん考えられる状況を作ってあげられれば、この世界について、もっとたくさんのことを
いつだったか、スカーレット様が言っていました。
『サクラさんは頭が良いの!』
メイドさんだって褒めていました。
『サクラ様は
と。リアが大好きな人たちが認めるサクラ様です。きっと、フォルテンシア様について解き明かしてくれるはず。そのお手伝いなると信じて、リアは温かくて栄養たっぷりの朝ご飯を作りに、厨房へと向かうのでした。
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