○これが死滅神の神殿なのね
冒険者として働くようになって、5日目の朝。宿代が3,300
そうして少し生活が安定してきたこともあって、私達はウルセウに来た目的――死滅神の神殿へ赴き、“顔見世”をすることにした。
「い、いよいよね」
「はい。こちら、ご用意させて頂いたドレスです。ぜひ、お召しになってください。髪もお手入れしますね」
手渡された服と、いつもとは違う靴を履く。長い黒髪は、メイドさんが編み込んで後頭部にまとめてくれた。それから彼女の案内のもと、鳥かごに入れたポトトも連れて死滅神を
石畳の道を歩くたびに、コツコツと音が鳴る。今日の私は死滅神が司る色だという黒のワンピースに、肘まである手袋。かかとの高い、風変わりな靴を履いていた。髪色も相まって、全身真っ黒ね。
「色んな人に見られて、少しだけ恥ずかしいわ……」
「当然です♪ 可愛らしいお嬢様が可愛い格好をして歩いている。それだけでもう、世の男性は興奮するでしょう。
『クルルク クルルクク!』
「そう言ってもらえるのは嬉しいけれど、間違いなく好奇の目なのよね……」
スベスベとした服の生地。レースと呼ばれる意匠が細部に凝らされていて、ひと目で高級品だと分かる。確かに、傍から見れば従者を連れたお金持ちのご令嬢なのでしょうけど、実際は日収5~6,000nの貧乏娘なのよね……。
ウルセウ南西にある宿から北寄りの中央にある城を目指して歩くこと15分ほど。
「うぅ……。足が痛いわ」
「すみませんが、そちらはもう少しだけ我慢してください。ほら、見えてきました。あちらが王都ウルセウにおける死滅神殿。またの名を“終末の鐘”です」
そう言ってメイドさんが示したのは、全てが白い石で造られた純白の建物だった。横幅は30mくらい、高さは15mくらいある。四角い箱に三角形の屋根を乗せたような見た目をした神殿の入り口には4本の柱が立っていて、壁、柱、階段、入り口の大きな扉に至るまで、美しい彫刻で飾られていた。
大通り沿いに居を構えるこの白亜の神殿こそ、死滅神を崇める人々の憩いの場だった。
「
建物を見上げたメイドさんが感慨深げにつぶやく。
芸術品のようなこの建物を、すでに私は知っていた。というのも、冒険者として依頼を受けながらウルセウを奔走していれば、自然と目に入る建物だから。一目惚れだったのは言うまでも無いわね。神殿であることは分かっていたけれど、てっきり他の4大神――創造神・破壊神・生誕神のどれかだと思っていた。
「まさかこの建物が死滅神の神殿だったなんて……」
「造りこそ少しずつ違いますが、4大神様の神殿は皆、このような建物になっています。4大神の中に貴賎は無い、ということでしょう」
それだけ、人々の想いが詰まった場所でもあるということ。一層気が引き締まる思いだわ。
メイドさんに手を引かれながら階段を上って、開かれた神殿の門戸をくぐる。
正面、少し高くなったところが祭壇でしょう。入り口からそこに向かって一直線に黒い絨毯が敷かれた道があって、その左右には木製で横長の椅子が並んでいる。高い天井からは透明な鉱石と魔石灯を無数に使って作られた巨大な照明が3つ垂れ下がってるのだけど、さらに目を引くのはその奥。祭壇の背後に祀られている大きな黒い鐘だった。
「大きな鐘……。それこそ、元の大きさのポトトと同じくらい? でもどうして……」
「命の危機に瀕した時、鐘の音を聞いた。そんな言い伝えが各所に残っていることから、いつしか祀られるようになったとご主人様が教えて下さいました」
そうして私達が話していると、神殿にいた人たちがこちらを見ていることに気付いた。そうよね、入り口で立ち止まっていては邪魔だものね。
と、1人の老人が正面からやって来る。頭に丸い耳が生えた
「お待ちしておりました、メイド様。そちらの方が?」
「はい。……お嬢様、この方は神殿を預かるホーヘンさんです。彼に〈鑑定〉を行なってもらってもいいでしょうか?」
メイドさんの確認にうなずく。邪魔にならないようにポトトをメイドさんに預けて、私は赤い瞳でおじいさん……ホーヘンさんの目を見る。彼の目は細すぎて、私からは見えないけれど。
「では失礼いたします。――〈鑑定〉」
名前:スカーレット
種族:魔法生物 lv.5 職業:死滅神
体力:141/165(+15) スキルポイント:58/58(+6)
筋力:17(+2) 敏捷:19(+2) 器用:33(+4)
知力:22(+3) 魔力:32(+5) 幸運:4(+1)
スキル:〈ステータス〉〈即死〉〈調理〉〈魅了〉
状態:〈怪我/微小〉
「お嬢様には〈
「まさか。死滅神様を
ステータスの確認を終えたらしいホーヘンさんが私から距離を取る。そして地面に膝をつくと――。
「お待ちしておりました死滅神様。我々一同、あなたのお越しを心待ちにしておりました」
胸に手を当てて、顔を伏せる。ふと見れば、他の信者さんたちも集まって、彼にならように膝をついてくれる。
これが信仰。言い換えれば、彼らからの期待。そしてこれまでの死滅神たちが積み上げてきた信頼でもあるのよね。そして、同じ死滅神である私は彼らが寄せてくれるその想い全てに応えなければならないはず。
想いを預かるものとして、緊張も、混乱も。彼らに“弱さ”を見せるわけにはいかない。表情と声を慎重に取り繕いながら、己の決意を示す。
「私も。あなた達に会えて嬉しいわ。あなた達からの想いに応えられるよう、これからも頑張っていくつもり。だから期待していてくれると嬉しいわ」
「「
これでひとまず格好はついたかしら。噛んでしまったり声が裏返ったりしなくて良かったわ。……いや、もう、本当にね。
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