○噛ませって、誰のこと?
赤竜の接近に対して、真っ先に動いたのはサクラさんだった。新調した全長1mくらいの少し大きめの弓に矢を
「ふっ!」
サクラさんが息を吐く音と共に矢が放たれる。スキルの恩恵を受けた矢が青い軌跡を残して、赤竜へと突き進んでいく。それに対して赤竜は一度滞空して、翼を振るった風圧で矢の勢いを殺す。結果、矢は固い鱗に当たって弾かれてしまった。
「あちゃ、ダメだった。……え、じゃあ、どうしよ?!」
自分の攻撃が全く通用しないと分かって慌てるサクラさん。そんな彼女に対して、ティティエさんが必死に手を動かして何かを伝えようとしている。あの動きは……羽ね。
「サクラさん、赤竜の羽を狙って欲しいってことだと思うわ」
「了解! う~ん……普通に射ったら弾かれるし――」
と、翼をはばたかせて滞空していた赤竜が口元に炎を集めていく。竜たちが持つ強力なスキル〈ブレス〉を使う前兆だった。狙いは、自分を攻撃してきたサクラさん。
「させません」
前回赤竜を倒した時同様、メイドさんが移動のスキルを使って空を飛んでいる赤竜の背後に回る。そして、羽根の付け根に対して翡翠色のナイフを振り下ろす、寸前で。赤竜が身をよじってメイドさんの姿勢を崩させる。結果、力が入らなかったメイドさんナイフは弾かれてしまった。
おかげで〈ブレス〉は中断されたけれど、事態は好転していない。
「赤竜からは見えていなかったはずなのに……。野生の勘ってやつかしら」
私は鳥車の影から様子を伺いつつ、戦況を見守る。……いつかは私も彼女達と肩を並べられるのかしら。いいえ、なるのよ
上空から振り落とされる寸前、メイドさんは移動スキルで着地する。と、ティティエさんがサクラさんの所に歩み寄って、手をつないで何かを話している。
「え、矢を、ですか?」
サクラさんの問いに、透き通る水色の髪を揺らして頷くティティエさん。そう言えばティティエさん、武器を持っていないのよね。どうやって戦うのか疑問だったのだけど、弓を使うのかしら。
サクラさんが矢筒から引き抜いた1本の矢を引き抜いて、ティティエさんに渡す。まじまじと矢を見たティティエさんが、ゆっくりと上体を後ろに倒して、
「まさか――」
思わず漏れた私の言葉と共に、ティティエさんが上空で体勢を立て直す赤竜へ向けて矢を
先ほど同様に翼をはばたかせて対応しようとした赤竜の風圧を簡単に突破して、皮膜に大きな穴をあけた。〈飛行〉のスキルが無くなって、赤竜が地面に落ちる。上手く行ったと飛び跳ねて喜ぶティティエさんとは対照的に、
「わたしの弓の意味……」
ステータスに任せた力技を前に項垂れるサクラさん。……安心して、サクラさん。多分ティティエさんが異常なだけで、あなたのスキルも弓の腕もすごいはずよ。
なんて同情の目をサクラさんに向けているうちに、気付けばティティエさんが落下した赤竜に歩み寄っていた。青い尻尾を揺らしながらトテトテと余裕の歩きを見せた後、
「んっ!!!」
赤竜の頭に向けて小さな拳を打ち下ろす。それだけで、赤竜の頭はつぶれて動かなくなった。おおよそすべてを1人でやってしまったティティエさんを見ていて、私は思い出した。
「そう言えば、ティティエさん、赤竜が美味しいって言っていたわね……」
それはつまり、単独で赤竜を討伐したことがあることと同じなんじゃないかしら。ずっと一人旅だったわけだし、ね。一応確認しておくと赤竜は、
『B
アイリスさんがそう説明するぐらいの生物だったはず。B級は狩猟系依頼達成実績が100以上もある戦闘の専門家でもあるわ。大抵はどの人もレベル40を超えていて、ステータスも高い。安全策として人数は多めにしているのでしょうけど、そんな人々が束になって当たるのが赤竜のはず。実際、赤竜の襲来だけでウルセウは大混乱だったわけだし。
そんな赤竜をいとも簡単に倒してしまうティティエさん。護衛として、頼もしい限りだわ。だけど、成人したてのティティエさんですらこの強さ。もっと成長した
「赤竜は、美味しい……」
改めて口にすると、ゴクリと私の喉が鳴る。現金なもので、脅威が去った途端に食欲がわいてくるのは私だけ? 気付けば私は、ナイフを〈収納〉しようとしているメイドさんに聞いていた。
「メイドさんって、赤竜を料理できる?」
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