○大きい方が良いのでしょう?
ナグウェ大陸0番地。ほぼ真ん丸な形をしているナグウェ大陸の中央にある、最も大きくて人口の多い番地だ。0番地自体もきれいな円形をしていて、前に少しだけ話に出た中央議会だったり、4大神の神殿だったりがある。他の国で言うところの首都に当たる場所だった。
当然、ナグウェ大陸の中で最も栄えている場所でもある。召喚者とその子孫が多く住む“勇者領”ナグウェ大陸の雰囲気を満喫するのには十分でしょう。というわけで……。
「わぁ~……! ここが、ナグウェ!」
転移陣を使って再びナグウェ大陸にやって来た私たち。神殿を出て目を輝かせたのは、自身も召喚者であるサクラさんだった。
そう、今回のナグウェ大陸への遠征には、サクラさんとリアさん、2人を連れてきている。その理由は、今回のお仕事は少し時間がかかりそうだったから。サクラさんとリアさんにはこれまでの旅と同じで、のんびりとナグウェ大陸を観光してもらう予定だった。
――まぁ、サクラさんについてはもう1つ、理由があるのだけど。
私たちはいつも通り、まずは4人と1匹で泊まれる宿を探す必要がある。そのために神殿を出たサクラさんの第一声が、先ほどのものだった。
「ふふっ! サクラさん、嬉しそうね!」
「うん! なんだろ、全体的に日本人に馴染みある“和”があって、懐かしい感じ……わっ、人力車もある! 京都だ」
明らかに興奮気味なサクラさん。気に入って貰えたようで良かったわ。だってサクラさんにナグウェ大陸の雰囲気を知ってもらうことが、さっき言ったもう1つの理由につながるから。
神殿の前にたむろしていても仕方ないから、私たちは歩みを進めることにする。ナグウェ大陸にある町全体の特徴として、木造の建物が多い。それは、ナグウェ大陸には山が多いからだ。はっきりとした四季。
「サクラさんが住んでいたニホンって、こんな感じなの?」
ゆったり歩く私たちの前に出て、足取り軽く町並みを見ているサクラさんに聞いてみる。私の問いかけに、サクラさんは
「ううん。どっちかって言うと、昔の日本って感じ。教科書で見ただけだけど、多分、江戸時代くらいじゃないかな?」
「えど……?」
「そう。確か、300年くらい前だったはず」
300年前と言うと、ちょうど初めての召喚者が来たくらいだったはず。
「ということは、その頃からほとんど町の形が変わっていないということ?」
私の半歩後ろを歩くメイドさんに聞いてみる。今日は黒と白の長袖くるぶし丈のワンピース
そんなメイドさんが私の問いに「はい」と頷く。
「もちろん、利便性を求める中で細かなところは大きく変化してきたでしょう。ですが、景観であったり、良い風習だったりは受け継がれているようですね。……サクラ様、きちんと前を向いて歩いてください」
「は~い」
私に説明しながらも、サクラさんを注意したメイドさん。変わらない文化という点では、イーラと似ているけれど、ナグウェ大陸は時代に合わせて変化をしながら、良い点を残してきたということね。
丸い形をした0番地の北方にあった死滅神の神殿から、5人で連れ立って南下しつつ、中心部を目指す。中心に近すぎると1泊の値段が高くなるから、距離と値段とを考えながら宿を探さないと。なんて考えていたら、服の裾が控えめにクイッと引っ張られた。
「どうしたの、リアさん?」
振り返った私のそばには、髪を短くしたリアさんが居る。袖のない服に胸元の緩い服。股下数センチのパンツ。今日も私たちの中では一番薄着な彼女。道行く男性たちがチラチラと見てくるのは、何も私たちが死滅神の
そんなリアさんはさっきまでポトトと仲良く歩いていた気がするけれど……。
「って、ポトトはどうしたの?」
リアさんの隣に居たはずのポトトの姿がない。そのことを指摘した私に、リアさんは、
「はい。ポトト様は、あちらのガルル様に挑発されてケンカ中です」
自身の右後方をきれいな紫色の瞳で示しながら言った。……え、ケンカ?!
私も慌てて見てみれば、体高60㎝くらいの黄色と白の毛並みをしたガルルとポトトが
『クルールッルル クルゥルル!』
『ガルッ ガルルル ガル』
と、何やら言い合っている。幸いなのは、お互いに手を出していないことかしら。
「えぇっと……。2人は何を言い合っているの?」
「はい。スカーレット様に魅力が無いと言ったガルル様に、ポトト様がスカーレット様にも良いところがあると言っています」
私に、魅力が、無い……?
「具体的にどの辺が、とか、ガルルは言っているの?」
「はい。
乳……。いえ、まぁ、ね。メイドさんやリアさんと並ぶと、そりゃあ小並感は出るけれど。これでもなくはない方だと思うわ? 少なくとも、自分では揉める程度はあるのだし。サクラさんにも
『B寄りのCだと思う。……大丈夫、多分きっと成長するよ、恐らく』
だとかそんな評価を受けたし。そもそも、ホムンクルスは子孫を残せないから、胸の大きさなんて些末なことだし。……それはそれとして、馬鹿にされたままでは死滅神の名が廃る。
「胸だけで判断するなんて、ガルルのくせに生意気ね。いいわ、そのケンカ買ってやろうじゃない!」
「と、そうして口論に加わろうとする方がみっともないのでおやめください、お嬢様」
ガルルの所に向かおうとした私の首根っこをひっつかんで、メイドさんが止めてくる。
「放して、メイドさん! あなたには私の気持ちなんて分からないわ!」
私の思う理想的な身体をしているメイドさんには、分からないでしょう。お風呂で髪を洗ってもらう時に感じる柔らかい圧。私の場合、意図して擦り付けないと届かないのに、メイドさんとリアさんは意図して離れないとふよふよと後頭部に当たるんだもの。その度に、思わざるを得ない。
――あれ、もしかして私って、小さいの?
ってね!
「人が密かに気にしていることを馬鹿にされたのよ?! 一言文句を言ってやらないと! ぐぬぬぬっ……」
メイドさんを振り払おうとするけれど、悲しいかな。『筋力』の差はどうしようもなくて、私の足は地面を滑るだけだ。
「
「やっぱり大きい方が良いんじゃない! ……って、その言葉。本当にそんな深い意味があるの? メイドさんが美化しているだけじゃない?」
「
本当かしら。メイドさんをとっておきにしていたイチマツゴウに始まり、なんやかんやでリアさんを手元に置いていたオオサカシュンまで。男の人ってみんな、大きい方が好きなんじゃない? シンジさんも、ただ単に自分の好みを言っただけじゃないかしら。
半眼を向ける私に、メイドさんは手袋をしていないきれいな指を立てて言い聞かせてくる。
「お嬢様は周囲の評価など気にせず、
「……言い方が引っかかるわ。黙らせるんじゃなくて、対話をしてね?」
「善処します♪ ですが、どうしても分かり合えない場合は、仕方ないですよね?」
言葉尻軽く微笑んだメイドさんに、もう一度だけ。私はきちんと相手と対話をするように言い聞かせた。……まぁでも。どうしたって分かり合えない相手が居るというのは、事実でしょう。それこそ――
「――フォルテンシアの敵とかね」
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