○ポトトさえいればいい
その日、私はメイドさんとポトトと一緒にリリフォンにある冒険者ギルド支部を尋ねていた。大きさは、ウルセウで通っていた喫茶店『ひだまり』と同じくらい。だけど、リリフォンの建物の外壁はびっくりするぐらい分厚いから、外観だと1回り大きく見えると思うわ。
アイリスさんみたいにつきっきりで支援してくれる職員さんがいない今回。冒険者としての経験も浅いから私は念のために、ご意見番としてメイドさんを連れてきている。話をしていたらポトトが
「ようこそ、冒険者ギルドへ!」
眼鏡をかけた背の高い
「動物の狩猟、魔物退治、素材の採取……外の依頼が多いわね」
リリフォンの外に出て、北にある森『フェイリエントの森』での依頼がほとんどだった。他にも商人さんの護衛なんかがあるけれど、数日かけて別の町に行くことになってしまう。今日明日のお金に困っている私としては、今、受けるべき仕事では無いでしょう。
依頼書に書かれている動物や魔物の名前と私の知識、報酬を見比べながら、適当なものをいくつか見繕う。そんな私の姿を、メイドさんはニコニコしながら黙って見ていた。
「やっぱり、この『トビウサギの狩猟』が良いかしら」
30分ほど吟味した後、私の手元には狩猟系の依頼書が残っていた。
内容は、文字通りトビウサギの狩猟。数は最低10体。状態にもよるけれど、皮と肉の買い取り金額。そこにギルドからの報酬500nを追加した金額が報酬みたいね。
「トビウサギ。確か白くて小さい兎よね?」
「はい。大きさは……今のポトトより一回りほど大きいぐらいなので、30㎝ほどでしょうか。足を伸ばすと50㎝ほど。臆病な性格の動物ですね」
足元にいるポトトを見下ろして、トビウサギについて教えてくれるメイドさん。ポトトの方は、他の冒険者さんたちを見回していた。
メイドさんに報酬がどれくらいになりそうかを聞いたら、肉と皮で1匹800nぐらいじゃないかということ。
「傷をつけずに殺すことが出来るお嬢様であれば1,000nもあり得るでしょう」
「そう。うまくいけば、最低でも8,000nということね」
〈即死〉がこんなところで役に立つなんて。やっぱりどんなものも見方を変えればお金になるということかしら。
トビウサギはただの動物。比較的森の浅い場所にいるから、メイドさんたちの手を煩わせるほどじゃない。そう思って1人で依頼を受けることを伝える。
「……かしこまりました。大丈夫だと思いますが、こちらをお持ちください」
ほんの少しだけ間をおいて、私の単独行動を許してくれた。その際、小さな翡翠色の石を渡される。手のひらに簡単に収まってしまう大きさの、ペンダントだった。
「きれいな石。これは?」
「お嬢様に“何か”があった時、
言いながら、メイドさんがペンダントを首にかけてくれる。お風呂で使った
「分かったわ。訂正しておくけれど、私は赤竜を怖がってない」
「そうですか? 泣いていらっしゃったようにみえましたが」
「気のせいね。……ん? 待って。この石、何かがあったって知らせるだけで、メイドさんが来てくれるわけじゃないの?」
先のメイドさんの言葉を思い返して引っかかった点を聞いてみる。そんな私の質問に、メイドさんはそれはもういい笑顔を見せる。その顔を見て、やってしまったと思ったけれどもう遅い。
「駆けつけてほしいのですか? 全く、お嬢様は甘えた様ですね♪」
案の定、からかわれてしまった。
「なっ……! べ、別にいいわ。自分の身くらい自分で守るもの。……だけど、やっぱり少し不安だから、ポトトにはついて来てほしいわ。無理はするべきじゃないでしょ?」
メイドさんほどの戦力は余剰だけれど、用心棒としてポトトは連れて行きたい。一応、町の外に出るんだもの。不要な意地は良くないはず。
そう思って
『ルルル!』
ポトトが羽を広げて応えてくれる。
「『嫌よ!』だそうですが?」
「そんなわけないでしょ? ってこのやり取り、どこかでしたわね」
そんなこんなで私とポトト。2人で
「え、ポトトは冒険者になれないの?!」
「すみません、動物に冒険者カードを発行することはできません……」
衝撃の事実が発覚したけれど、予定そのものに変更はない。1時間かけてリリフォン中央のタワーに行って、関所を出た。……ほんと、
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