○魔族も人と変わらない
魔族。それは、知性を持ちながら、フォルテンシアの各国が批准している『大陸間条約』に名を連ねていない人型生物の総称だ。ざっくりとした認識だと、人族以外の知的生命体を魔族と呼んでいいと思う。魔物である私たちホムンクルスを始め、
だけど、これまでの旅の中で私たちが彼らに会う機会は全くなかった。その理由は、彼らの大半が暮らしている場所が、フォルテンシア北西部にあるタントヘ大陸と呼ばれる場所だからだ。
魔族だからと言って、彼らが知性の低い凶暴な
「だけど、魔族は多くの人族にとって
「はい。特に今、魔族と呼ばれている種族は『人』という形から逸脱したものが多いのです。そのため、どうしても動物などと混合されて認識されることが多いですね」
そもそも私も人ではないし、私は魔族の人たちを普通に人と呼ぶけれど。中には同じにするなと声高に叫ぶ人も居る。思い出すのは、人間至上主義の人が多かったリリフォンでのあれこれね。
ホムンクルスである私がこれまで比較的温かい態度で接してもらえたのも、姿形がほぼ完全な人間族だからに他ならない。ホムンクルスだと露見していれば、もっと避けられたり、ともすれば攻撃されたりすることもあったでしょうね。
そうした事情もあって、自然と魔族の人々は1か所に集まるようになった。それが、ナグウェ大陸だったということね。人族が排斥したというよりは、魔族が自主的に避難したと見るべき移動だと、メイドさんは語っていた。
「で、ユリュさんは魔族の1つ、
「あぅ……。ご、ごめんなさい」
頭を庇うようにして、背中を丸めてしまったユリュさん。彼女はここ1年で新たに生まれた“死滅神の従者”らしかった。
「ふふっ、安心して、ユリュさん? 私もメイドさんも、ホムンクルスなの。あなたと同じ、魔族だわ?」
「ふぇ? そ、そうなのですか?」
私が自分と同じ側――
「そうよ。良ければお顔をよく見せてくれないかしら?」
「は、はい……」
もじもじと、赤面しながらも私が視線を向けることを良しとしてくれたユリュさんの厚意に甘えることにしましょう。
ヒレ族は、魚のような身体的特徴を持つ
ユリュさんは、白いフリフリが付いたスカートに、コットン素材の無地の白シャツを着ている。一般的に、男性がピタッとしたスカートのような1本足のズボン(?)、女性がふわっとしたスカートをはくことが多いらしい。上の服は人族のそれと同じものを着るそうよ。
スカートからのぞくユリュさんの尾びれの鱗は髪色と同じで、黒に近い紺色。角族のティティエさんの鱗と比べると、ユリュさんの鱗は丸みを帯びたものだった。
ヒレ族の特徴は他にもある。まずは、手ね。
「ユリュさん。少し手を見せてくれる?」
私のお願いに、ユリュさんは素直に小さな手を差し出してくる。指は人間族と同じで5本なのだけど、指と指の間に鱗と同じ色の皮膜がある。海中を移動するときに、尾びれの補助として使うことが多いそうだ。
あと私が個人的に可愛いと思うのは、耳ね。人間族に似た丸い耳の先にヒレのようなものがついていて、時折、ユリュさんの意思に合わせてぴくぴくと動く。水中で拾った音をより大きくするための器官だと、メイドさんが得意満面に語っていた。
「〈収音〉のスキルの象徴的器官ですね。噂によれば、2㎞先の針が落ちる音すらも聞こえるとか」
「そうなのね」
「んっ、ふぅっ……しっ、死滅神様っ、くすぐったいです」
夢中になってついユリュさんの耳を触ってしまったけれど、どうやらかなり敏感な部位みたいだった。
最後に瞳ね。普段は魚食を中心とした生活をしているヒレ族。これまで見てきたように、海の中で行動するのに特化した身体的特徴を持つ。目も例外では無くて、中心に行くほど水色を帯びる、紺色の瞳。私がのぞき込んだ時の瞳孔は小さいのだけど、この瞳孔の収縮が人間族よりもはるかに優れているらしい。おかげで暗い海の底がよく見えたり、人よりも遠くのものが見えたりするらしかった。
「ユリュさんの目も、鱗も、とってもきれいね!」
ティティエさんもそうだったけれど、鱗を持つ人たちは鱗の手入れに誇りを持っていることが多いと聞いた。汚れ1つないユリュさんの尾びれも、きちんと手入れが行き届いていることが分かる。彼女の努力も褒めるべきだと思って、私が言ってみると、
「わわ、初対面で、ですか……っ?! でもでも……。はい! あ、ありがとう、ございますっ。こ、これからよろしくお願いしますね、死滅神様!」
案の定、ユリュさんは嬉しそうに皮膜のある手で顔覆った。耳がパタパタ動いて、可愛いわ。
私はベッドに居るし、尾びれが若干しなっているから分かりにくいけれど、身長は100㎝くらいじゃない? 身体の凹凸は、サクラさんくらいかしら。あとで聞いたメイドさんの推測では、人間族換算で10代の若者ではないかということ。大人のヒレ族の女性が大体120㎝くらいらしいから、まだ成長途中だろうとのことだった。
「ええ。こちらこそよろしくね、ユリュさん」
「はいっ!」
結構人見知りなのかと思っていたけれど、急に距離感が近くなった気もする。最初は侮蔑されるかもと警戒していたけれど、同じ魔族だと分かったから……かしら? まぁ、良いでしょう。
とにかく、これで現在の“死滅神”の名を冠する人々が集まったということになる。嘘つきのメイドに、変態の聖女。女性と賭け事に狂う衛兵さんに、今もなお「きゃー!」と顔を真っ赤にして身をくねらせている魔族の少女。
「頼りになる人たち……なのかしら?」
うーん。最近は私自身もひょっとして常識人じゃないんじゃないかと思い始めているし、果たして死滅神陣営はこれで大丈夫なのかしら。
「では、そろそろメイド様の身体検査も……」
「必要ありません」
「あ、ルカの手を縛る手つきが滑らか……。はっ! 緊縛ですね?! でも残念! メイド様の縄を解くすべを編み出したのです!」
「なっ?! シュクルカの癖に……っ! あ、こら、やめなさい!」
「んほぁ! メイド様、2年前よりも6㎝くらい大きくなっていませんかぁっ?! まだ成長したとは……ふんぎゃっ」
「やめろと。言っているのです」
メイドさんとシュクルカさんがいつものやり取りをしている横で、
「ユリュちゃんか。これからよろしく――」
「(ササッ)近寄らないでください。あなたからはダメ人間の香りがします」
「……さっきまで、俺の背中に隠れてたってこと、分かってるんだろうな?」
「はい? 死滅神様以外は眼中に無かったので、気付きませんでした。……匂いが移っているかもしれませんね。後で海藻で身体を洗わないと……」
「……結婚すらしていないのに娘に嫌われる父親の気分を味わってるんだろうな、俺は」
ユリュさんに歩み寄りを見せたカーファさんが、
よく言えば個性豊か、悪く言えばてんでバラバラな死滅神の関係者のみんな。だけど、
「えぇっと……。とりあえずみんな、よろしくね!」
私の言葉にはみんな揃ってきちんと頷いてくれるんだもの。きっと、恐らく、多分、大丈夫なはずだわ。……根拠は無いけれど!
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