●ちょっと休憩
○side:M 本心にて①
マルード大陸から帰還したその日の夜は、
何度注意しても、どれだけ見張っていても、必ずと言って良い程、余計なものを買ってくるお嬢様。つい先日はウーラで、
『見て、メイドさん! これ、素敵だと思わない?!』
と、興奮した様子で作りの荒い木製の人形らしきものを買ってきました。お嬢様の芸術方面における感性が独特なことは絵を見ても分かっていたのですが、それにしたってあの人形はあり得ません。店主に質問したところでは、先日、生誕神様によって生み落とされたばかりの“職人”が作った処女作だというではありませんか。
ふと、ベッドの上で横になりながら目をやった棚。窓から差し込むナールの光に照らされた人形は不気味で、少しだけ……ほんの少しだけ、
「ねぇ、メイドさん! 聞いてるの?!」
少し詰めれば3人同時に眠ることもできる大きなベッドの上。隣にいらっしゃるお嬢様が、可愛らしく頬を膨らませています。布団の中で握られた手からは、彼女らしい、高い体温が伝わって来るようでした。
「……はい、どうされましたか、お嬢様?」
今日はどんな話をするのか。ご主人様譲りのその
こんな時、
――いつからだったでしょうか……?
出会った頃。
それゆえに、
――本当に、いつからだったでしょう……?
思い返してみても、
確かに、リアは大切な家族であり、
つまり、ご主人様を取り戻すことができるのです。
だというのに、もし、お嬢様かリアかを選ばなければならなくなった時。今の
――だからこそ、
そう、思ってしまうようになったのは、なぜでしょうか? お嬢様と過ごしたたった1年が、ご主人様と過ごした20年に勝る。そんなことがあっていいはずが、無いのに。
――だというのに、
“死滅神の従者”という
いずれにしても、お嬢様との鮮やかな日々を重ねるごとに、悲しいくらい、ご主人様との記憶が色あせていくのです。どれだけ大切だと思っていても。手放したくないと思っていても。
「その……。大丈夫?」
恐る恐る、という言葉がふさわしい声色と表情で、お嬢様が尋ねてきます。上目遣いと、揺れる瞳。出どころ不明の自信に満ち溢れている普段の表情とは、正反対です。彼女のその表情は、聞いても良いのか。踏み込んでも良いのか。そんなことを考えている時に見せる顔でした。
それでもお嬢様は、勇気をもって聞いてきます。嫌われる可能性がある。相手を傷つけ、ともすれば自分も傷つく可能性がある。そう分かっていながら、なおも踏み込んでくるのです。いつも、何度でも。燃え盛る炎のような赤い瞳で、
「……何のことでしょうか?」
「マユズミヒロトのこと。もしかしてだけど、メイドさん。目標を、見失っているんじゃないかって……」
そして、悔しいことに。お嬢様のその予想は、おおよそ当たっているのです。
――本当に、無駄に鋭い時がありますね、このお方は。
これまでは、ご主人様を殺害した
これから、
「……全て、お嬢様のせいです」
そう。全ては、自分も相手も燃やして、燃やして、燃やし尽くして。今にも消えてしまいそうな
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