○side:M 本心にて②
「……全て、お嬢様のせいです」
名前を呼ばれてほっとするその声が、少女の声に変わったのも。不安になった時に握りたくなる手が小さく、柔らかな手に変わったのも。笑顔と聞いて思い浮かべるものが
――お嬢様が、ご主人様を奪っていく。
お嬢様との日常が、ご主人様との日々を消していきます。
そして、本当に情けないことに、
『メイドさん!』
と、
――
あれだけ大切だと言っていた過去をあっさりと捨てて、新しく手に入れた現在を大切にしてしまう。本当にどうしようもない侍女なのです。
「そ、そうよね。私が、不甲斐ないばっかりに……。ごめんなさい」
そう言って、うつむいてしまうお嬢様。いい気味です。
――なんて。そんなはずが、ありません。
お嬢様が……
あなたのせいでない。
「でも。私が、なるから」
「私が、あなたの生きる意味になってみせるから」
そう、誓いを立てるように、言うのです。
彼女のことです。この言葉を発するまでに、きっとたくさん悩み、幾度も
――本当に、強くなりましたね、レティ?
子供っぽく
自衛のためにナイフ
「私に、あなたの時間を、もう少しだけ頂戴?」
びくびくと、怒られることを恐れる子供のように、お嬢様は
――そんなこと、言われなくても。
死滅神という重圧を日々背負い、人々の悪感情を一身に受けながら、それでも笑えるように努力をする。そんな、誰よりも頑張り屋なあなたを、どうして
あの
「私じゃ、ダメ……?」
そう聞いてくるあなたに、
「ダメです♪」
とは言え、お嬢様からすれば、精一杯の勇気を否定されたことになるのです。当然、彼女の目には一瞬で涙が浮かびました。
「そんな……?! じゃ、じゃあもう、私には仕えてくれないの……? し、死なないでっ」
「い、行かせないわ! 自害もさせない。私がもうちょっと頼りになるまで……。あなたの生きる意味になれるまで、絶対に離さないから!」
お嬢様の素直過ぎる言葉が心を攻撃してくることです。
――もうそろそろ、
ちょうど生誕神様にお会いした直後で、気持ちの高ぶりだってあるのです。
「お嬢様? このままだと
「良いわ! それであなたの気が済むなら、こんな身体、好きにして! だから……。だから……」
行かないで。そう泣きついてくるお嬢様。従者として、これ以上の幸せはありません。そして、弱い
……まぁ、それはそれとして。さすがの
お嬢様の合意も頂けましたし、あとは美味しく
「……
「ぐすっ……。え、ええ、どんと来なさい! だけど、約束して。もうちょっとだけで良いの。私の側にいて?」
可愛らしい顔を涙と鼻水で汚して、それでもなお可愛らしくおねだりをしてくるお嬢様。……本当に。本当に、この方は。人を
「ちょっとだけ、で、よろしいのですか?」
「あ、うぅ……。出来ればずっと。私の隣で、支えてくれると、その……。嬉しいわ?」
ふぅ……。「ずっと」のお言葉、頂きました。もう、よろしいですよね? 美味しく頂いても、よろしいですよね? 正直に申し上げて、もうほとんど話の内容など入って来ていないのです。
「かしこまりました。それでは、お嬢様。頂きま――」
「すぅ、すぅ……」
はい、来ました。いつもいつも
――それに、お嬢様が眠っているからこそ言える言葉もあるわけで。
気持ち良さそうに寝息を立て始めたお嬢様のお腹に顔を埋めて、
「心より愛しております、スカーレットお嬢様」
「んへぇ……。あ、んっ」
そのまま、だらしのない声で返事をするお嬢様の身体を、ほんの少しだけ拝借させてもらうのでした。
※明日は期間限定でクリスマス限定EP(2話予定)を公開予定です。期間終了後は「近況ノート」のサポーター様限定の記事に転記する予定です。ご覧になって頂けるのはオンタイムで追ってくださっている読者様限定になってしまうかと思いますが、よろしくお願いします。
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