○3人……2体と1匹ね
料理の完成を待つ間、草の上にメイドさんが敷いてくれた厚めの布に腰を下ろす。草が良いクッションになって、歩き詰めで披露した足腰を癒してくれる。と、火を恐れて離れていたポトトが私に頬ずりしてきた。
『クルッ、クルルルー!』
「『助けてくれてありがとう!』です、お嬢様」
先ほど調理されかけたことを言っているのだろう。でも、このポトトには窮地を救われて……無いわね。むしろ攻撃されたり、メイドさんの詰問の時は死んだふりをしたりしていたし、踏みつけられたりもした。
「……どうして私、助けたのかしら」
考えてみると助ける義理も無い気もする。けれど、一緒に窮地を脱した1
「いいの。あなたには2度も攻撃されたけれど。そのせいで、少し回復した今も体力が15しかないけれど。いいの」
『ルルルゥ♪』
すり寄って来るポトトの首筋を撫でながら、皮肉を込めて言ってみる。これぐらいは許してほしい。さすがに人が話す共通語は理解できないようで、ポトトは嬉しそうにされるがままになっていた。
「そう言えば。私の
私がなすべきことは分かった。けれど、これからの身の振り方についてはまだまだ不透明で不安が残る。記憶が無いからか、それとも職業のせいか。殺すべき人を殺すことに拒否感は無いけれど、かといって進んで人を殺したくもない。
これからどうやって生きて行こうか。その手掛かりとして、メイドさんの“ご主人様”――つまり前任の死滅神について知りたかった。
私の問いかけに少しだけ目を伏せたメイドさん。その表情を見て、私は己の配慮の無さを悟る。これまでの言動ですっかり忘れてしまっていたが、彼女も傷心中なのだ。その傷に土足で踏み込んでしまうようなことをしてしまった。
「ご、ごめんなさい。配慮が足りなかったわ。忘れて?」
「いいえ、気になさらないでください。それよりも、お嬢様の身の振り方ですが――」
そこから彼女は変わらない笑顔で答えてくれる。それが本心からなのか、それとも作り物なのか。出会ってから数時間、加えて知力も低い私には分からない。それがなぜだか無性に、悔しかった。
「
「そうね。今、例えば遠く離れた場所の人を殺せと言われても、1年以上かかってしまうこともあるでしょう」
世界が、ひいてはフォルテンシアに生きる人々が死んでほしいと願う人物を殺すことが私の役割。私の到着が遅れることはつまり、人々の苦しみが長引くと共に犠牲者が増えるということ。先ほど殺したイチマツゴウのような人間が、のうのうと
「ですがご主人様が無策で死んでしまったとは思えません。きわめて自由度が高い成長度を持つ魔法生物であるレティが職業を継いだことも、偶然ではないでしょう」
そこで不意に言葉を止めたメイドさんは、何かを考え始める。
「メイドさん?」
「……思えば、ご主人様はあの場所で
そよ風に髪をプラチナブロンドの髪を揺らしながら俯いているメイドさん。気のせいだろうか。少しずつその瞳には、森で彼女が見せた狂気のようなものがにじみ始める。その様が少し怖くなって、私が声をかけようと、
「メイドさ――」
「あは♪」
したところで。彼女は何かを閃いたように顔を上げた。
「そう、そうです。だからレティだったんですね?
それはもう嬉しそうに。イチマツゴウが目の前に現れた時と同じような顔で、彼女は笑う。それから不意に立ち上がった。
「お嬢様」
「な、何かしら、メイドさん?」
言いようのない不安に駆られて返事を返す。そんな私を見下ろした彼女の顔には逆光のせいで暗い影が出来ている。そんな暗闇でもくすむことのない
「――ご飯が出来ました♪」
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