○もう1人の姉妹
これ以上メイドさんに暴走されても困るし、今日は久しぶりにメイドさんと眠ることにした。贈り物のストールも、ほとんど出来ているしね。
ウルセウでそうしていたように、私とメイドさん、2人が同じベッドに入る。2人用ベッドでは無いから少し窮屈だけど、メイドさんの体温を全身で感じられて、むしろこれで良い気もした。
「メイドさんて、意外と寂しがり屋なのね」
「あら、それはお嬢様の方では?」
軽口をたたきながら、1つの布団の中で互いの体温を感じ合う。久しぶりに近くで嗅ぐメイドさんのお日様のような匂い。やっぱり落ち着くわ。
アイリスさんやサクラさんと出会って、こうしてメイドさんと話す機会が減っていたことを実感する。彼女をもう少し理解したくて、彼女が着ているすべすべの寝間着にすり寄る。
「一応聞いておくと、もう隠し事は無い?」
「んふ♪ どうでしょうか?」
さてはまだまだ何かを隠しているわね、このメイド。だけど、これでいい気もする。彼女と私は友人で主従だけど、互いに利用し合う関係なのだから。
寝ころんだままメイドさんのきれいな瞳を見て、かねてより言っていることをもう一度言う。
「別に隠し事は良いけれど、大切なことはちゃんと言ってね。あなたの言う、“出来る限り”で良いから」
「善処します♪」
また、これ。近づきたいのに、近づかせてくれない。そのことにため息をついて、目を閉じようとした時。
「……レティは『文天商会』を覚えていますか?」
メイドさんがそう、口を開いた。
「文天商会……。ウルセウで悪いことをしていたとかで捕まった人たちよね。新聞で読んだわ」
文天商会。人身売買や商売敵の暗殺、麻薬の売買なんかをして成り上がった新興商会だったはず。だけど、私たちがウルセウを発つ数日前に悪行が露見して、取り潰されたと聞いていた。
「はい。実は彼らの取引帳簿を見たことがあるのですが、盗まれた物の中に『完成体』という名目の商品がありました」
「……なぜメイドさんがいち商会の帳簿を知っているのかは置いておいて、完成体?」
私の問いにメイドさんが頷く。
「
一体何の話かと思っていたら、私の出自についてだった。これまで聞けば答えてくれることはあったけれど、こうしてメイドさんが自分の考えを自分から話してくれる機会は滅多に無い。彼女なりに歩み寄ろうとしてくれている……のかしら?
「レティと出会った森には、あなたを造ることが出来る施設が無い。あなたと初めて会った時、
「そう、だったかしら……?」
「はぁ……レティはこれだから……」
メイドさんは嘲るように笑うけれど、仕方なくない? あなたに殺されそうになっていたあの時の会話を一言一句覚えることなんて、出来るはずないじゃない。
「……それが何なのよ。完成体と関係があるってこと?」
ムッとしつつも、要点を聞いていく。
「はい。あの時、レティは間違いなく
「……だからあの森から一番近い、商業都市のウルセウを目指したのね?」
物が集まれば人が。人が集まれば情報が集まる。私についての情報を集めようと、メイドさんは最初から動いてくれていたのね。
私の問いに少し驚いたような顔をしたメイドさんが頷く。
「レティや
「はっ?! ということは、私が造られた場所にもう1人のホムンクルスが居る可能性があるってことね?!」
閃いた! と声量が上がってしまう私に、メイドさんは首を振る。
「いいえ。そもそもレティが商品として出回っていた時点で、そのもう1体のホムンクルスが無事であるとは考えられません」
「あ、そうよね……。私だけ運び出して、もう1人の子には触れないなんて変な話だし……」
シュンとする私の頭をメイドさんが優しくなでてくれる。
「
この反応を見る限り、目ぼしい情報は無かったみたいだった。
「……もしかすると、その子はもう目覚めていて、1人寂しい思いをしているかもしれないのかしら」
フォルテンシアのどこかに居るもう1人のホムンクルスの安否が気になる。私は目覚めてすぐ、ポトトに会って、メイドさんに会って。たくさんの人たちに出会ってきた。だけど、場合によっては……。
「ひょっとすると、奴隷のような扱いを受けているかもしれませんね?」
「奴隷……」
先日ディフェールルで思い知った奴隷が辿る
もう手遅れになっているかもしれないと考えると、胸が苦しくなる。そうでなくても、冷たい生活をしている可能性がある。
「もしそうなら、助けてあげたいわ。だって私の……私たちの姉妹とも言える存在でしょう?」
同じ
「んふ♪
「それに?」
「――そのホムンクルスがご主人様の記憶を持っている可能性も、ありますものね?」
「……そうね」
やっぱりまだご主人様を追っているらしいメイドさん。放っておけばどこかへ行って、無茶をして、帰って来なくなるような。そんな気がして、私は思わずメイドさんの身体を抱き締めて、捕まえる。
「レティ?」
「勝手にいなくなったら、許さないから。今はあなたの主人が私ってこと、忘れないで」
「……善処します」
いつかこの人に認めてもらえるような主人になる。覚悟と共にメイドさんという抱き枕をぎゅっと抱き締めながら、私は目を閉じる。日付が変わって、明日はもうクリスマス。一生懸命編み上げた贈り物、喜んでくれると良いな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます