○どうして尋問されているの?

 きたるクリスマス。サクラさん曰く、本来は「何かすごい人の誕生日!」らしい。それが形を変えて恋人たちの日になったり、大切な人と過ごす日になったりしたそうだった。

 そんなクリスマスの一大イベントが『プレゼント交換会』なのだとサクラさんは意気揚々と語っていた。もとはサンタクロースなる髭を生やしたおじさんが子供の居る家に押し入って、その子が欲しいものを置いていく、という逸話らしい。


「だけど、大人になると来てくれなくなるから、友人同士でプレゼント……贈り物を交換する、だったかしら」


 見返りもなく贈り物を置いていくなんて、サンタクロースさんは善良な市民なのでしょうね。それともチキュウにある数少ない職業ジョブなのかも。


「つまり、サンタクロースが来なくなったらチキュウでは“大人”認定ってことかしら?」


 時刻は朝ご飯を終えて、今日も1日が始まる、という時。益体も無いことを考えながら、私は薄暗い寝室で手にしたストールを見つめる。

 白を基調に、風を通さないように出来るだけ縫い目を細かく、デコボコで模様をつけてみた。他にも、私がメイドさんの色だと思っている黄色と黄緑色を「差し色」として編み込んだ。

 自分でも納得できる出来栄え。あとは、


「これをメイドさんに渡すだけ……」


 そう、渡すだけなの。フォルテンシアにとって、今日は何でもない日。だから絶対に驚いてくれるはずなのだけど、


「……喜んでくれる、かしら?」


 正直、メイドさんなら同じものでももっと質の高いものを自作できるはず。いつも同じ格好で寒いんじゃないか。そう思って作ったけれど、それこそ必要なら自分で作りそうなもの。……このストール、必要ないんじゃないかしら。そう考えると、一気に自信が無くなって来る。あ、よく見れば少しだけ糸がほつれているような。

 と、寝室の扉が控えめにノックされた。メイドさんだったら大変だから、ストールを素早く畳んで、枕の下に隠す。


「だ、誰?」

「んふ♪ お嬢様だけのメイドです。そろそろ書斎に向かいませんか?」


 私の言葉に扉を少し開けて答えたのはメイドさん。……危なかった。だけど、渡すのなら今なんじゃないかしら。勇気を、勇気を振り絞るのよ、スカーレット


「お嬢様? どうかなされましたか?」

「……そ、そうね。今行くわ」


 贈り物なんていつでも渡せるもの。別に今じゃなくてもいいわよね? もう少しだけ、心の準備をする時間が欲しい。誰にともなく言い訳をして、私は何も持たずに寝室を出た。


 ――そして、気付けば夜になっていた。


「ふぅ……そろそろ剣術の方も身に付いてきましたね、サクラちゃん?」

「ほんとですか?! やったぁ~! 聞いた、ポトトちゃん?」


 玄関の扉が開いて、感心したようなアイリスさんの声と、喜色一杯のサクラさんの声が聞こえてくる。どうやらサクラさんの修行編? も上手く行っているみたい。


「ふっふっふっ。ここからわたしの覚醒編が始まる……はず」

「サクラさんとアイリスさんはお風呂に入って来てね。その間に私とメイドさんで夕食の準備をしておくわ」


 汗をかいているだろう2人にお風呂を勧めつつ、私はメイドさんとご飯の支度を整えようとする。だけど、きょとんとした顔で私とメイドさんを交互に見たサクラさんがとある提案をしてきた。


「そうだ、久しぶりにひぃちゃんも一緒に入ろうよ! からだ洗いっこしよ?」

「え、だけど――」

「いいから、いいから。メイドさん、ご飯の支度、お願いしていいですか?」


 サクラさんの言葉にメイドさんが肯定の言葉を返したところで、私は少し強引にお風呂まで連行されてしまった。そしてサクラさんとアイリスさんの2人に身ぐるみをはがされると風呂場に引き込まれ、椅子に座らされ、髪と体を洗われ、湯船に放り込まれた。

 そして、湯気が立ち上るお湯の中。左右をサクラさんとアイリスさんに挟まれる。2人とも、笑顔が怖いわ。


「……で? なんでひぃちゃんはストール、渡してないの?」


 尋問官Aことサクラさんが、私に詰め寄る。


「だ、だって。喜んでくれるか分からなくて……」

「つまり、スカーレットちゃんは怖いんですね? 贈り物を喜んでもらえないんじゃないか、と」


 尋問官B、アイリスさんがいとも簡単に私の心のうちを読み取る。


「そ、それに。フォルテンシアにはクリスマスなんて関係ないじゃない? だから、もう少しきちんと……例えば糸のほつれとか、模様とかも直したいし。あ、大きさも調整したいわ。急ごしらえだから、甘いところもたくさんあって……」


 そうよ。別に今、今日じゃなくてもいいじゃない。ストールも、もっと完璧な物にできるはず。


「やっぱり、今日渡すのは諦めましょう! そうね、来週! 来週にすれば――」

「逃げちゃダメだよ、ひぃちゃん」


 私の言葉を遮って、サクラさんがそんなことを言う。見れば、その顔は少しだけ、怒っているようにも見えた。


「べ、別に、逃げてるわけじゃないわ。むしろメイドさんを思うなら、もっとちゃんとしたものを送るべきじゃない?」

「そうだけど! そうなんだけど、そういうことを言いたいんじゃなくって……ブクブク」


 自分でも何が言いたいのか分からないみたいで、サクラさんは湯船に顔を沈めてしまう。私の方もサクラさんが言っていることが分からなくて、困ってしまう。

 と、そんな私たちに助け舟を出してくれたのはアイリスさんだった。

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