○死滅神の従者

「いくらお嬢様が裸族であったとしても、場は弁えてください」

「裸族……? それってどこでも裸で過ごす変わった趣味の人のこ、と……って――ッッッ!」


 メイドさんの言葉でようやく私は現状を思い出す。そう、イチマツゴウによって私が着ていた服は破られてしまっていた。つまり、全裸なのだ。

 その事実を思い出し、声にならない悲鳴を上げる。反射的にその場に縮こまった私は、全身を隠したまま彼女を見上げた。


「は、早く言ってよ!」

「そうして羞恥するお嬢様を見たかったので♪ それに死滅神たるお嬢様の従者たるわたくしがレティを害することが出来るはずもありません」


 私を立ち上がらせたメイドさんは優しく、手早く服を着つけてくれる。それらは洗い立てのように温かく、お日様のようなにおいがした。


「……試したの?」

「んふ♪ 化かし合いもたしなみです、レティ?」


 末永くよろしくお願いします。私の着付けを終え、そう言って笑ったメイドさんの笑顔はどこまでも眩しい。それは、出会った時に見せていた無感情な瞳や表情とは比べ物にならない。

 そう言えば彼女も“ご主人様”を失って傷心中だと言っていた。職業はフォルテンシアに生まれた人々にとって睡眠・食事・繫殖に並ぶ4大欲求でもある。仕える主を失った彼女は傷つき、“生き方”すらも失って途方に暮れていたんじゃないかしら。

 そう思うと、私を主人にしたいという彼女の提案を無下にするのも可哀想になってくる。


「……分かったわ。あなたの提案を受け入れる。よろしくね、メイドさん」

「感謝します、レティお嬢様♪」


 判明した職業のおかげで、フォルテンシアにおいて私がなすべきことが明確になった。

 死滅神。それはこの世界で死神様しにがみさまと恐れられ、同時に、感謝される職業。その内容は、死を適切な場所へ運ぶこと。それを行なうことで私は経験値を得て、レベルを上げることが出来る。


「それでは、不束者ですがよろしくお願い――」

「――でも。無用な殺しは無しよ。それはフォルテンシアにとって有害なこと。私があなたを殺すことになってしまうから。そんなの嫌だもの」


 思えば、彼女は別に私を助けてくれたわけでは無い。むしろ、男にかれる私を傍観していたし、出会った時は殺されそうにもなった。

 でも、結局は殺されなかったし、こうして私と対話してくれている。自分で言うのもおかしいけれど、記憶が無い不審者であるところの私と。

 だからかしら。彼女のその掴みどころのない性格もあって、彼女を憎むことが出来ない。きっと前の“ご主人様”も相当に苦労したんだと思うわ。

 ひとまず、私がメイドさんに親しみを覚えてしまっている事実がある以上。


「たとえメイドさんが私の……死滅神の従者だったとしても。あなたには、あまり無用に人を殺してほしくない。それは私が負うべき責務だもの」


 赤いらしい私の瞳でもって、メイドさんを見つめる。一瞬だけ驚いたような顔を見せた彼女だったけれど、すぐに黄緑のワンピースの裾をつまんで丁寧なお辞儀を見せた。背中からこぼれた白金色の髪が、その所作をより美しく見せる。


「かしこまりました。可能な限り、ですが、レティお嬢様の意思に従います♪」

「本当に分かってくれたのかしら……?」


 一抹の不安を残すけれど、こうして私はメイドさんという頼れる友人? 従者? を得た。ついでに、メイドさんの殺気に当てられて気絶していた頼りないポトトも。彼女をメイドさんが引きずる形で、ひとまず。

 私達は食事と寝床を求めて近くの町を目指すことにする。


「最寄りの町で泊まると言うけれど、どんな所なの?」

「そうですね。一言で申し上げますと“いさかいの町”です♪」

「……それ、本当に泊まっても大丈夫?」

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