●ちょっと寄り道 (ポルタ→ウルセウ)
○〈収納〉スキルで運べば良くない?
鳥車に揺られながら北方にある王都ウルセウを目指して、のどかな街道をゆく。
そう言えば、メイドさんの助言を受けながらようやく自分で服を買った。今着ているのはそのうちの1つ。肩口のない白いシャツに、はっきりとした折り目の入った黒のひざ丈スカート。メイドさんの勧めで、スカートと同じ黒いケープと、私の瞳と同じ色だという赤色のネクタイをしている。ケープの裏地も赤色という、メイドさんのこだわりが見えたわ。
「メイドさん、ふと思ったのだけど」
「はい、どうされましたか?」
手綱を握りながら荷台に積まれた荷物を見やる。そこには食料や衣料が入った木箱が積まれていた。
「メイドさんが持っていそうな〈収納〉のスキルで
「なるほど。そう考えてもおかしくありませんね」
私の気付きにそう返したメイドさん。今日も彼女は黄緑色のワンピースに白い前掛けとカチューシャ。柔らかさを印象付ける肩のふくらみはパフという作りなのだと、服を選んでいる時に聞いた。
そんな彼女の言い方に含みがあるように思えた私は、目を向けて続きを促す。
「確かに
「そうよね。私だって欲しいもの」
スキルはその利便性や希少さでS,A,B,C,D,Eと固有の7種類に分けられている。それを決めているのは主に冒険者たちを管轄するギルドと呼ばれる組織だったはず。ダンジョンや魔物の討伐が主な役割の冒険者たちが決めるから、戦闘向きのスキルが優遇されがち。そんな中でも〈収納〉は最高評価を受けているみたい。なぜかしら……っと、それより今はメイドさんの話ね。
「後は需要と供給の関係です。他者が欲しがるスキルを持っている人材の
「どうなるの?」
「奴隷です。もしくは〈模倣〉や〈強奪〉と言った
厄介ごとを引き込んでしまう。それを避けるために、極力〈収納〉を持っていることを知られたくないと、メイドさんは語った。旅をするにはたくさんの荷物が必要。でもその荷物を表面的に持っていないとなると、私、もしくはメイドさんが〈収納〉を持っていると勘ぐる輩が出てくる。
「そうなると、
主人の私に危害が及ぶ可能性を少しでも減らす。そのために、メイドさんは〈収納〉を使わないみたい。こういう思いやりをされてしまうと、彼女が
「フォルテンシアの人々がステータスを秘匿する傾向にあるのもそのせいです」
「そういうことだったのね。てっきり面倒くさいのかと思ったわ。もしくは容量に限りがあるのかとも」
「大きさや無生物だけという制限はありますが、基本的に〈収納〉出来る量には制限がありません。出し入れに多少スキルポイントを使いますが、今の
だから安心してください。そう言って翡翠の瞳を細めて笑う彼女の笑顔はやっぱり頼もしい。頼れる彼女の美しい瞳とプラチナブロンドの髪に見惚れていると、ポトトが忘れないでと言わんばかりに鳴く。
『クルルッ!』
「そうねポトト、あなたも頼りにしているわ」
頼りになる2人を見て、やっぱり私は運が良いのだと思い知らされた。
他愛ないやり取りをしながら差に進むこと少し。街道に落ちていた小石を踏んで、鳥車が跳ねる。
「そう言えば、メイドさん。もう1つ聞きたい……というよりは言いたいことがあって」
「なんでしょうか、お嬢様」
「その……お、お尻が痛いわ」
左右を草原に、遠くに森と山が見える街道。確かに鳥車が進む分には問題ないのだけど、揺れがすごい。安い鳥車を選んだこともあるのでしょうけど、想像以上に衝撃が来る。事実、私の体力はこの1時間ほどで20も減っている。あと半日もあれば、私は鳥車の上で
「メイドさんは大丈夫なの?」
「はい、こうなると分かっていましたので、ほら」
そう言って腰を浮かした彼女の形のいいお尻の下には、薄い白色のクッションが敷かれていた。ちょくちょく思うけれど、メイドさんは体験させてから学ばせる方針なのかしら。
「お嬢様もお使いになられますか?」
そう言って最初から私の分も準備している当たり、気が利かない人では無いことも分かっているわけだけど、じゃあ最初から言って欲しいと思うのは私の甘えなのかしら。
「……そうね。さすがに鳥車の揺れで死んでしまうのは、格好がつかないもの」
「かしこまりました。その前に、ちょうどドドの木もありますので少し休憩もしましょう」
ここは余計な意地を張らずにメイドさんに従うことにした。格好がつかないのは、今さらかもしれないけれどね。
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