○そもそも、ステータスってなんなの?
リリフォンまで残す9日間の航路。昼食を終えた私はメイドさんと一緒に知識の再確認をしていた。もし抜けている知識があればメイドさんに聞いて、知っている範囲で埋めてもらう。つまるところ、お勉強をすることになった。
何を今さら、と思うけれど、振り返って見るとお金を稼ぐために働いてばかりだった。当然、宿の部屋に戻る頃にはくたくたで、メイドさんとその日の出来事を話して眠る。そんな日々が続いていた。だけど今は、自由に使うことが出来る時間がたっぷりある。今のうちに、基本的な知識を再確認しておこうという話になった。
まずはやっぱりステータスから、かしら。『行く末はまずステータスから』だものね。
名前:スカーレット
種族:魔法生物 lv.9 職業:死滅神
体力:223/225(+15) スキルポイント:79/82(+6)
筋力:29(+2) 敏捷:31(+2) 器用:51(+4)
知力:38(+3) 魔力:60(+5) 幸運:9(+1)
スキル:〈ステータス〉〈即死〉〈調理〉〈魅了〉〈交渉〉
日々、冒険者として奔走したこと。そして、死滅神としての役目を果たしたこともあって、大きくレベルが上がっている。魔力の伸びが顕著なのは、やっぱり料理で魔法を使うようになったからかしら。それか、いくつかスキルを使うようになったからだと思うわ。〈交渉〉のスキルは文字通り交渉の場面で、知力に少しだけ数値が上乗せされるみたい。
私の正面にメイドさん。左わきにサイドテーブル、右わきの板張りの地面にポトトを座らせてお勉強開始ね。今日も白金色の髪がきれいなメイドさんから紙とペンを受け取って、ベッド横にあるサイドテーブルの上で書き込みをしながら知識を整理していく。
「ステータスは、その生物の成長度合いを数値化したもの、で合っているかしら?」
「はい、おっしゃる通りです。押さえておきたいのは、身体能力を表しているものでは無いということですね」
メイドさんが言った2つの違いがよくわからなくて顔に疑問符を浮かべてしまう。もちろんメイドさんが補足してくれた。
「例えば、
「ええそうね。私もよく覚えているわ」
「例えば、人間族の新生児も、ステータスに記載される数値はおよそ“5”と言われています。つまり、レティと同じですね。ですが森で会ったレティは2本の足で立ち、会話し、思考し、計算すらもしていました」
そこまで言われてようやく、メイドさんが言っていた“身体能力を表したものではない”ということが分かった。その生物本来が持つ能力それ自体は、表示されていないみたい。
だから、メイドさんはあの時の私が目覚めたて……、ホムンクルスとして“生まれたて”だったと判断したわけね。
「ついでに、になりますが。ステータスに記載される前の生まれ持った身体能力は、誰も知りませんし見ることもできません。外来者どもは『隠しステータス』、なんて呼びます♪」
「メイドさんの召喚者嫌いは置いておくとして、なるほど。表記上のステータスが全てというわけでは無いのね……」
メイドさんの話によると、他にも、言語が大きくかかわっているとか。
各種表記、ステータスの名前についても、あくまでも当人が理解可能な言語で表されているらしいわ。例えば、今の私がポトトのステータスを見たとしても私がポトトの言語を理解していないから、読めないということ。
「少し、残念ね。あなたのこと、もう少し分かると思ったのだけど……」
言いながら床に座るポトトを見たら、そのつぶらな瞳と目が合った。……今日もポトトは可愛いわ。あれ、手が勝手に――
「〈ステータス〉のスキルを自覚できない年齢……自我が形成されていない子供や生き物のステータスも、誰も知らないのですが――レティ、聞いていますか?」
「ええ、もちろん」
「……なるほど。では膝の上に置いたポトトは勉強の邪魔になるので置いてくださいね」
いつの間にか、私の膝の上にはポトトがいる。……えっ、無意識に拾い上げてしまっていたの?!
ポトトをもと居た場所に戻しながら、私はこれまでの話をまとめる。
「つまり、あくまでもステータスは“自我と言語を獲得してからの成長度合い”を表したもの。もっと言うのなら、
「んふ♪ その通りです」
気を取り直して、私はステータスを書いた紙に目を配る。
「そう言えば、『魔力』って何なの?」
「そちらは、
メイドさんが言った『魔素』はスキルの仕組みを現象として発現させている物質ね。また、あらゆる出来事を記録している媒体だとも言われているのだとメイドさんが教えてくれた。
これがあるから私たちは〈ステータス〉の恩恵を受けて最低限、身体能力が向上するわけだし、スキルも魔法も発動する。フォルテンシアに満ちている、一番の働き者ということね。
「じゃあ次はスキルについて――」
「
そう言って柔らかな表情で言ってくれるメイドさん。少し考えた私は、彼女のきれいな翡翠の瞳を見返した後、首を振る。
「うーん……。いいえ、もう少しだけダメかしら?」
知識の詰込みは悪いことなのかもしれないけれど、このやる気も無駄にはしたくない。そう思ってもう一度ペンをに握った私の耳が、
「残念です……。今日のお菓子はウルセウで買っておいたアールのケーキだったのですが」
メイドさんのつぶやきを拾った。アールのケーキ。そう聞いて真っ先に私が思い浮かべたのはアイリスさんおすすめのお店。
「まさか、『ひだまり』のアールケーキ?!」
「はい、どうやらお嬢様のお気に入りのようでしたので♪」
まさか、もうしばらくは食べられないと思っていたあのケーキをもう一度、しかも船で食べられるなんて!
「こ、コホン。そうね、メイドさんの言う通りだわ。休憩にしましょう?」
「お嬢様……本当に、残念です♪」
本当はもう少し勉強したかったけれど、メイドさんの言うとこにも一理あるはずよね。そう。だから私は、冷静かつ的確な判断が出来た。お菓子でつられるような、幼稚なホムンクルスではないはずよ。それにしてもメイドさんが言った残念の意味が、さっきと違うように聞こえるのは気のせい?
〈収納〉から茶器とお盆を取り出して、小さな客室でも丁寧に紅茶を淹れていくメイドさん。今日の紅茶は甘酸っぱい匂いがする。それを嗅いでいると頭がスッキリしていくのが分かって、どうやら脳が疲れていたらしいことが分かった。
「頂きます!」
お昼寝をするポトトと、優雅に紅茶を楽しむメイドさんと3人で食べるケーキ。同じ味なのはわかっているけれど、アイリスさんと食べる時とはまた違った味わいがあるような気がした。
大体こんな感じでリリフォンまでの残りの9日間。旅客船ヴィエティでは、運動しながら合間合間に勉強会を挟む日々が続いた。
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