●ちょっと寄り道 (ウルセウ→リリフォン)

○ポトトの進化が止まらないわ!

 私達が乗っているのは木造船『ヴィエティ』。鯨の名前を取った乗客定員500名ほどの旅客船ね。地下2階、地上3階からなる船内は、地下部分で宿泊を、地上部分で食事や休息を取ることが出来る。

 動力部の魔石機関を調整するために途中、一度寄港するけれど、ウルセウからリリフォンまでの10日の航海をこの船の中で過ごす予定だった。ついでに言うと、運賃は片道50,000エヌ。私の手元に残ったのは37,000n。1日3,700nで食費をやり繰りしないといけない。リリフォンに着く頃には、果たしていくら残っているのかしら……。


 ほんの少し波の揺れを感じる程度の船の客室。ウルセウで利用していた宿『止まり木』よりもさらに一回り小さな客室。そこは、向かい合わせに置かれたベッドと小さなサイドテーブルが1つと言う簡素な造りになっていた。小さな小窓からは、デアの光にきらめく白鯨海はくげいかいが見える。

 サイドテーブルにちょこんと座るポトト、ベッドに腰掛ける私とメイドさんで三角形が出来ていた。

 その日ごとに、私とメイドさん、それぞれが何をしていたのかは食事などの折につけて情報交換してきた。けれど、あの日――赤竜が現れた日については上手く情報交換できていなかった。船の甲板でそのことを思い出した私は、メイドさんに聞いてみたのだった。


「それではお嬢様、わたくしとポトトがウルセウで何をしていたか。赤竜はどうなったのか。お答えいたします」


 そう切り出したメイドさんが最初に明かしたのは、赤竜のその後について。


「捕縛された赤竜は解体され、各種素材を売却したお金をシュクルカとわたくしで分配いたしました。全部で80,000n。お望みであれば、お嬢様にお渡しします。これはシュクルカも同意済みです」


 解体。つまり、殺されてしまったということね。人間の都合で呼び出されて、殺されてしまう。なんだか赤竜がかわいそうに思えるわね。


「そう……。報酬については要らないわ。私は何もしていないから。2人が自由に使って?」

「んふ♪ かしこまりました。シュクルカにはまたいつか会った時に、伝えておきます」

「『いつか』って……」


 果たしてシュクルカさんにお金が届くのはいつになるのかしら。それはそれとして、さすが竜だけあって素材だけで80,000n。私が2週間、ウルセウで働いて稼いだお金とほとんど変わらない額を、たった1頭の討伐で稼ぐことが出来るなんて。『竜あるところに宝あり』なんて言うけれど、案外、竜自身がお宝なのかも。

 それを考えると、冒険者の花形が魔物や危険生物の討伐であることがよくわかるわね。


「さて。次にポトトと何をしていたかですが、話しても良いですよね、ポトト?」

『クルルゥッ!』


 来たわね。どうしてあの日、ポトトがいなかったのか。そして、メイドさんが窮地に遅れてやってきた理由がわかる時が――。


「――以上です。どうですか、お分かりいただけたでしょうか?」

「……ぅえ?」


 ベッドの上で姿勢を整え、聞く態勢を整えている間に、説明が終わっていたみたい。……で、え? 結局、どういうこと?


「だから、こういうことです。ですね、ポトト?」

『クルッ!』


 私の知らないところで2人が通じ合っているみたいに、メイドさんとポトトが話している。〈言語理解〉も〈意思疎通〉も無い私じゃ仕方ないのだけれど、置き去りされたみたいで少しだけ、モヤモヤする。不安とも違う、やるせない気持ち。


「もったいぶらないで、教えてくれてもいいじゃない……」

『クルッ?! クルルクククル クルールック』

「もしかして、励ましてくれているの? ありがとう、ポトト」

『クルル クルル♪』


 お礼を言った私に、どこか誇らしげな態度を見せるポトト。良かった。ポトトと私、通じ合っているみたいで――。


「あっ!」

「ようやく、お気づきになられましたか?」

「そういうことなの、ポトト?!」

『クルッ♪』


 これでようやくわかった。そう、ポトトが私の言っていることを理解している! そう言えば、いつも強調しているように聞こえたメイドさんからポトトへの指示が、いつからか普通の声色になっていた。


「つまり、ポトトは〈言語理解〉を覚えたのね?!」

『クルルークッ!』


 やっぱり、うちの子は天才だったみたい!


「ポトトに指示を出そうとするたびにスキルを使うのも手間でした。それに、お嬢様の話を聞きたいポトトがうるさいもので」

「ということは、メイドさんとポトトは……」

「はい♪ “レベル上げ”をしておりました。正しくは、ポトトの、ですが。わたくしのレベルはそうそう上がりません」


 そこからメイドさんが説明してくれた話によれば、〈鑑定〉と〈言語理解〉を併用して見たポトトの職業ジョブは“運び屋”らしい。何かを運ぶ、旅をすることでレベルが上がるみたい。だから日中は、鳥車の引手として港から店へ荷運びをしたり、街道に出て人を運んだりしていたみたい。そこにメイドさんが付き添っていた、と。


「スキルは基本的に種族による獲得と、職業による獲得があります。〈言語理解〉は職業由来のスキルですね。どこに何を運ぶのか。相手の意見を聞くための、運び屋らしいスキルかと」


 私の知らないところで、私と同じように何かを運んでいた。離れていてもつながっていたみたいで、少し嬉しくなる。それに、あるべきところに死を“運ぶ”私の職業と相性は抜群なんじゃないかしら。


「やっぱり、あなたを選んで良かったわ、ポトト!」

『クルッ!』




※クルルク クルールルクク!

クルル:―

ルルル:クルル lv.11  クゥクルゥル:クルルク

クルルゥク:546/550(+25)  クルルクルゥル:57/70(+5)

クゥルク:194(+15)  クゥクク:88(+5)  ククル:43(+3)

クルク:17(+1)  ルルク:0(+0)  クゥルゥ:11(+1)

ルルル:〈クルールル〉〈クゥルク〉〈クルル〉〈クゥク〉〈クルルゥ〉〈クゥルルルル〉

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