○睡眠は大事って話よね
木の家……サクラさんが言うところのログハウスを見つけた翌日。私とリアさんは、寝室にあった大きなベッドの上で目覚めた。天日干ししたフカフカの布団と、優しく体を受け止めてくれるベッド。2週間ぶりのしっかりとした睡眠だ。
「スカーレット様。起きてください」
「んむぅ……。あと、2時間んん……」
眠気に弱い私は、どうしても布団が恋しくなる。しかも、私を起こしているのはリアさんだ。彼女が私のお願いを聞捨てるはずも無く……。
「分かりました。ではリアも、ご一緒します」
再び布団に戻ってきたリアさんに抱き着いたまま、私は久しぶりに二度寝をするのだった。
そうして迎えた朝、では無くて昼。私はガバァッと布団から起き上がって、一目散に居間へと向かう。そして窓から見えるデアの位置を確認して……。
「うぅ……っ。寝過ごしたわ」
悠長に眠ってしまっていたことを後悔する。別に落ち込むようなことではないのでしょうけど、のんびりとしている余裕はない。確かに、この家を借りる形で安全な寝床は確保できた。でも昨日も思ったように、状況が大きく前進したわけじゃない。未だに、地上に帰る手段は見つかっていないもの。
「えぇと、まずは朝食ね。この時間だとお昼ご飯かしら。
昨日確認したところだと、外に薪が積んであった。薪割り用の斧は錆びて使えなくなっていたのが残念だけど、私たちには緋色のナイフがある。木を切って、薪置き場に積んでおくこともしないと。
料理、洗濯、木こり、魔石採掘、塩採集……。その後に、この家のきちんとした探索。やることは山積みだけど、1つ1つをやっていくしか道はない。
「『最初は皆、レベル1』よね! 頑張りましょう!」
袖をまくって、私は塩漬け肉を水で洗った後、朝食作りを始めるのだった。
起きるのが遅くなったこともあって、時刻はもうすぐ夕暮れ。
今日は、主に生活拠点をログハウスに移す作業で潰れてしまった。保存していた木の実やキノコ、肉の運搬。木の
途中、島の中心にあった紫色の巨大な〈飛行〉の魔石を緋色のナイフでほんの一部〈切断〉して、持ち帰る。そうして持ち帰った紫色の魔石をログハウスの裏手にある魔石庫に入れると、
「よし、魔石灯が点いたわ! 熱石も……大丈夫、使えそう!」
ログハウス内の魔法道具類が一斉に動き出す。何より嬉しいのは『冷蔵庫』があることね。熱石とは逆で〈冷却〉のスキルを持つ魔石を使用した保存庫のことよ。メイドさんがプリンを作ったり、ジィエルで食べた氷菓子の
「狩りの時間を減らせるから、魔法の練習と探索にもっと時間を割けるはず」
昨日は魔石を採りに行けなくて水浴びになってしまったけれど、今日からは湯浴みもできるはず。そうなると、気になってくるのは服の汚れだ。確かにこれまでも流し台を流用した桶で洗って、乾くまでほぼ全裸のまま簡易暖炉のそばで凍える、なんてことをしていた。
「でも、昨日見た感じだと……」
私が向かったのは、
「日記には『彼』なんて書いてあったから、この家の持ち主は男性。つまりこの家にあるものは紳士服かと思ったけど……」
色、形、装飾。それぞれ違うのは「あえて」かしら? 何か意図してのもの? 案外、単純に好みが色々あったなんてことなのかも。ともかく、手近な物を手に取って試着してみれば、少し小さいけれど着れないことは無い。リアさんも、少し胸元が厳しいだけで着られそう。
「私でも小さいってことは、この服を作った人はかなり小さい人……短身族だったのかもね」
衣装棚を調べる流れのまま、今度は寝室にあった衣装棚を調べてみる。すると、今度は紳士服が出てきた。それも、私があまり見たことがない形のものだ。
――なんとなく、サクラさんが宝物にしている制服に似ているかも……?
こうして見つけた男女の服の存在が示すのは、この家には恐らく2人以上の人が住んでいただろうと言うことね。ベッドが1つしかないから、
「日記の内容と照らし合わせると、恐らく小屋の持ち主がこの家に移り住んだ。もしくは、こちらに“遊びに”来るようになった」
つまり、行き来できた可能性があるのは、浮遊島を遊び場と表現していた女性の方。じゃあ、この家はやっぱり男性の方が持ち主だったと考えるのが自然かしら……?
久しぶりにしっかりと睡眠できたからか、ここ2週間で一番考えることが出来ている気がする。
「生活感から見ても、男性はここに住んでいたと見るべきよね。逆に言えば、生活をするしかない状況だったと考えられないかしら?」
メイドさんが言っていたように、長期的な生活を見据えたときには手間をかけてでも必ず農耕が必要になる。逆にログハウスの目の前に畑という農耕設備があったと言うことは、長期的な生活を見なければならなかったと考えても良いんじゃない? 男性がここに住む“しかない”状況だった。つまり、地上に下りられない状態だった。
「じゃあやっぱり、どこかに必ず地上に行く道があるはず」
だってこの家にはもう、地上に下りられなかったはずの男性が居ないのだから。死んでしまったから、というのが、最悪の想定になるけれど。
「他にも何か……。何か考えられない? 致命的なことを見落としている気もするわ……」
私1人の考えだ。ひょっとすると曲解だったり、無理な解釈だったりがあるかもしれない。だけど、こうして希望を持っていないと、何をするにもやる気が出ない。前向きになる理由なんて、いくつあっても良いと思う。
「とにかく、諦めちゃダメよ、
その後は2週間ぶりのお風呂に入って、しっかりと髪のフケや油を流してすっきりした。リアさんが作った夕飯を頂いて、歯を拭いて、また少し家の中の探索をして、見つけた研究資料みたいなものを読んでいたら、眠く、なって……。
「お休みな、さい……すやぁ」
「はい、お休みなさい、スカーレット様」
ひとまず今日は、小屋とこの家の持ち主の関係性が分かったところで、私はリアさんと一緒に、温かい布団で眠るのだった。
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