○〈即死〉スキルが成長したわ!

 ディフェールルを発って丸1日。ここから、目的地である前死滅神の別荘までは3日。途中、一度、山頂の村で、飛空艇の動力源となる魔石の補給を行なうことになっていた。

 刺繍をあしらった長袖の白いシャツに肩ひもの付いた深い茶色のスカート。足全体を覆う黒の肌着に長い丈の皮靴ブーツといういでたちで、私は飛空艇『ミュゼア』の談話室へと続く扉を開いた。


 暖色系の魔石灯が灯る談話室。調理場と食べる所、くつろぐところが間仕切りなしであるような間取り。サクラさんに言わせると、キッチン併設型のリビングダイニング、だそうよ。呪文みたいね。


「おはよう、みんな」

「おはよう、ひぃちゃん!」


 最初に私のあいさつに気付いてくれたのは、暖炉の前のソファで紅茶を飲むサクラさんだった。ちょうどサクラさんのことを考えていたし、『妖精のいたずら』ね。彼女は厚くてモコモコした薄い茶色の編み込み服セーターに、白の長ズボンをはいていた。

 どうやら私よりも先に起きて、ご飯を済ませてしまったみたい。ソファの前に置かれた背の低い机には、勉強道具が並んでいて、文字が並んだ紙を眺めるポトトが居る。今は小さい姿になって、鳥かごに入っていた。


「ポトトも、おはよう。昨日よりは元気そうね」

『ルゥッ! ルゥ ルルル!』


 羽を広げて元気一杯に鳴いている。良かった、空には慣れたみたい。彼女ポトトのことだから、空にいることを忘れているのかも。飛空艇はほとんど揺れないしね。


「ちゃんと1人で起きれて偉いね!」

「む。サクラさん、それは私を舐め過ぎよ。それぐらいできるわ。子供じゃないんだから」

「そうだね、ひぃちゃんは子供じゃないもんね~」


 きちんと分かってもらえたところで、私は良い匂いのする調理場へと向かう。王族が使うものだからでしょうけど、調理に使う魔法道具が驚くほど充実している。ここで料理するのは楽しそうね。


「お嬢様、おはようございます」

「おはよう、メイドさん。昨日はありがとう、おかげでぐっすり眠れたわ」

「んふ♪ わたくしの方も、楽しませて頂きました。こちら、朝食です」


 食べる所……ダイニングが見えるように設計されている調理場から、メイドさんが朝ごはんを渡してくれる。パンにさっぱりとした甘みが特徴のピーラの実を使った黄色いスープ、サラダという献立だった。

 受け取った朝ごはんを持って椅子に着く。胸に手を当てて、


「頂きます」


 命を頂くことへの感謝を述べて食べ始める。途中、紅茶を運んで来てくれたメイドさんに聞いてみる。


「メイドさん、アイリスさんはどこ?」

「アイリス様でしたら、少し前に船員の方とお話をしに行かれました」

「そう、残念ね……。明日からはもう少し早く起きられるよう、頑張るわ」


 ついでに今は9時を少し回ったところ。朝食をとるには、少しだけ遅いかもしれなかった。私の許可を得て、メイドさんが食事に同席する。


「そう言えば、昨日ステータスを見ていたのだけど、〈即死〉の成長速度が遅い気がするの」


 レベルとともに、スキルは成長する。実は昨日、レベルが上がったことで〈即死〉の効果範囲が“1㎝以内の対象”になった。つまり、直接肌に触れなくても〈即死〉が使えるということ。例えば、服の上からとかね。

 だけど、本来これぐらいの変化ならもう少し早くスキルが成長していてもおかしくなかったんじゃないか。そう思って、私はメイドさんに聞いてみた。

 それに対して考え込むように紅茶を一服したメイドさん。カップを受け皿ソーサーに置いた彼女が口を開く。


わたくしが造られたのは、ご主人様がレベル100を超えた後でした。なので、レベルが低いうちのことについては分かりませんが……」


 そう前置きしつつも、もとより強力なスキルであるがゆえに不思議では無いというのがメイドさんの見解だった。〈即死〉は死滅神しか持ちえないスキル。ゆえに情報が少ないのでしょうし、同名のスキルでも、人によってどのように成長するのかも変わる。


「ご主人様は、目視出来れば〈即死〉を発動させることが出来ました。ご主人様のさらに前任者……お嬢様の先々代は、おおよその顔と名前を知ることが出来れば使用できたとも聞いています」

「そ、そうなのね……」


 スキルが成長する余地があるのは嬉しいけれど、今でようやく1㎝の私。もちろん目視は必須要件。まだまだ先は長そうね。

 だけど、私の〈即死〉がどんな風に成長するのか、少しだけ楽しみだわ。

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