○召喚者と出会った
サクラさんの来歴を要約するとこうなる。年は17歳、ニホンでジョシコウセイをしていた。
「トイレに入ったら、いつの間にかここに居た。それから狼に襲われて、ポトトに助けてもらった。で合っているかしら……ですか?」
「あはは、敬語、ヘンだよスカーレットちゃん。それともそう言うキャラなのかな?」
むっ、こっちが必死に敬語を使っているのに、笑うなんて失礼ね。顔に出ていたみたいで「ごめんね」と謝ったサクラさんが真ん丸の茶色い瞳を向けてくる。
「逆にこっちが聞くと、ここはフォルテンシアってところのリリフォンってとこにある、何とかって森で合ってる?」
「ええ。フェイリエントの森ね。……って、そうよ! とりあえずリリフォンに戻りましょう、ポトト」
そう。今は森の中。悠長に話をしていたら、動物たちを無用に刺激しかねない。……のだけど。
「そう言えば方向が分からないんだったわ……」
『ルルゥ……』
この反応を見る限り、ポトトも道を見失っているみたい。辺りに生えている樹皮の白いサザラの木の違いなんて分からないし、どうしようかしら。だけど、1人の時よりは大分、落ち着いた。
先ほどからの言動を見る限り、どうやらサクラさんは召喚者でしょうね。どうしてこんな所に召喚されたのかは知らないけれど、今はそんなことどうでもいい。チキュウからの召喚者は皆、強力な固有スキルを持っているはず。例えば、思い出したくはないけれど、イチマツゴウの〈支配〉とかね。
「サクラさんは何かスキルを使えないの? 出来れば町に戻りたいのだけど」
「スキル? 何それ?」
「ひとまず、こう、力を込めて『〈ステータス〉』と唱えてみて」
実践してみせたら私のステータスが浮かんでしまった。スキルポイントの無駄遣いになるから良くないのでしょうけど、仕方ないわね。
私のマネをして、サクラさんもいきみながら唱える。
「す、〈ステータス〉! ――うわっ、なんか頭の中に文字と数字が……」
上手くいったみたい。
「一番下に、何か模様で囲まれた文字が無い? 1つは〈ステータス〉があるはずだけど……」
「えっと、これかな? 〈
〈空間把握〉。聞いたことはないけれど、字面からして現状を打開する力になるんじゃないかしら。
「サクラさん。良かったらステータスの時と同じで〈空間把握〉を使ってみてくれない?」
「えっ、うん。いいけど……〈空間把握〉!」
一瞬、サクラさんの深い茶色の髪が舞い上がる。同時に、私の黒髪も目に見えない風のようなものを受けて大きく揺れた。
「わっ、なにこれ……。頭の中に、模型みたいな立体地図ができてくみたい! あ、でも頭イッタ~……」
不思議な感覚を楽しむように、声を弾ませたサクラさん。でもすぐに頭を抱えてうずくまってしまった。愛らしい見た目をしているし、どこか人好みしそうな人ね。目鼻立ちがくっきりしていないのも、どこか親近感があるわ。……って、また脱線してしまった。
ごくりと唾を飲み込んで、苦しんでいるサクラさんには悪いけれど聞いてみる。
「近くに四角い建物群は無い? そこがリリフォンなんだけど……」
もしその答えが「いいえ」だったら、もう、一か八かでリリフォンを目指すしかない。
「建物……、は、あっちの方にあるみたい」
うずくまったまま、一方を指さしたサクラさん。良かった、これでひとまずリリフォンに帰ることが出来そう。『
「そう。教えてくれてありがとう。良ければ森を出るまで一緒に居ない? 森で女の子1人だと、危ないと思うわ」
ようやく頭痛が収まったのか、立ち上がったサクラさんを見て聞いてみる。
「うん、ワタシからもお願いしたい! よろしくね、スカーレットちゃんとシマエナガちゃんじゃなくて……ポトトちゃん?」
『クルッ!』
「ポトトちゃんは狼を蹴散らしてくれたこともありがとうね! わ~、モフモフだ~……」
お礼を言ってポトトに抱き着いたサクラさんが、柔らかい羽毛を堪能している。毎日私がブラッシングしてあげているもの、当然ね。……それにしても、少し堪能し過ぎじゃない? 仲良さそうなポトトとサクラさんを見ていると、なんだかモヤモヤする。
「オホン。メイドさんが心配している……かもしれないし、早く行きましょう」
放っておくといつまでもポトトを堪能していそうなサクラさんを引きはがして、私たち3人は町へ帰る。
ここから、メイドさんとの熾烈な戦いが待っている、と言うのは冗談だけど。召喚者嫌いのメイドさんになんて言われるのか、想像もできないわね。
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