○召喚者たちは“外来者”

 筋骨隆々の身体で大剣を軽々と扱う男。対するこちらは『メイド』と名乗った少女と私『スカーレット』の女2人、そして、またしても死んだふりをする頼りないポトト1匹。そのうち、戦力と言って良いのは黄緑のワンピースに前掛けという奇妙な格好をしたメイドさんだけ。どう見ても絶体絶命だった。……ところで、どうでもいいけれど、メイドって名前じゃなくて役職じゃなかった?


「……ひょっとして、あなたは外来者ですか?」


 丁寧な口調ながら、好戦的な笑みを男に向けるメイドさん。外来者と言った時には、侮蔑ぶべつが込められているような気がした。


「……外来者? ああ、こっちでは俺達みたいな転移者とか転生者をたまにそう呼ぶ奴がいるんだったか」


 メイドさんの問いかけに男は短く切られた黒髪をかいている。厳つい風貌はどこか野性的で、短パンに肩口の広い服を着ている。はだけた胸元には分厚い胸板と、金色のネックレスが覗いていた。

 召喚の儀によって転移、あるいは転生する形でチキュウと呼ばれる場所から来た人々を、フォルテンシアに住む人々は『召喚者』と呼ぶ。多くは魔王や国難への対処のために召喚されることが多いわ。古くから彼ら彼女らによって多くの国々が救われ、多くの知識がフォルテンシアには持ち込まれてきた。


「答えてください。フォルテンシアを乱す害虫ですか? と、そうお聞きしました♪」


 メイドさん、悪意も敵意も隠す気がないわね。


「害虫ってお前……。ああ、なるほど、生態系を乱すから外来生物……外来者ってわけか」


 見た目に反して頭は回るみたい。男はどこか納得した様子で割れたあごを触っている。彼から目を離さないようにしながら、私は己の知識が合っていることをメイドさんに確認しておく。


「ごくまれにいる召喚者の、フォルテンシアを顧みない行動。それらに苦労するこちら側の住民がいつしかつけた蔑称が外来者……で合っているかしら」

「正解です、スカーレット。訂正するなら『ごくまれに』ではなく『よく居る』です♪」


 言葉の端々から伝わってくるメイドさんの召喚者嫌い。彼女の言う“ご主人様”と何か関係があるのでしょうけど……。


「それにしてもお前ら2人とも、作りモンみてぇだな。俺好みの女だ。1人はメイドで、もう1人は鳥を連れた奴隷ってとこか?」


 品定めをするような不躾な目線を、メイドさんと私に向けてくる男。背筋がゾワリと震え、嫌悪感が湧き上がる。嫌な視線ね。


「俺のものになれよ? ウルに行ってみたんだが、いい奴がいなくてよぉ」

「お断りね」「お断りします♪」『クルッ』


 私とメイドさんの声が重なる。ついでに男にそっぽを向いたポトトの声も重なった。この短時間で3人の女の子から嫌われるなんて、ある種この男の才能なんじゃないかしら。


「残念。でも俺は欲しいものは自分で手に入れる主義でなぁ」


 そう言ってこちらに大剣を向けてくる。疑いようもない敵対の証、命の危機。それでも、この男に何かをされるのは文字通り死んでも嫌ね。せめてもの抵抗として、睨み返すことしか、今の私にはできないけれど。

 対してメイドさんは涼しい顔で笑っている。


「奴隷はともかく、メイドの方はえらく余裕そうだな? これでも俺、転移者だぜ?」

「はい、害虫であることは存じ上げております。分不相応にも、何らかの厄介なスキルをお持ちであろうことも」

「そうか……一応、忠告はしたからな?」


 戦闘を前にした緊張の場面にしては心地よい風が、足元の草花を揺らす。何か攻撃が来るのかしら。そう思って男の動きに集中していた私とメイドさん。


「そら、チェックメイトだ」


 男が言った。けれど、男は何も動いていない。戦闘時の駆け引きか何かと思っていた私は突然、背後にいたポトトによってうつぶせに押し倒され、鉤爪かぎづめのついた足で踏みつけられ、動けなくさせられる。

 どうにか首だけを動かして隣を見ればメイドさんも予想外の一撃に簡単に押し倒され、組み伏せられてしまっていた。

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