○殺せ
「ポトト……裏切ったわね?!」
『ク、クルゥ! クルゥ……』
「『ち、違うの! 体が勝手に……』だそうです♪」
ポトトを睨み付けた私に、メイドさんが笑みを湛えて通訳してくれる。ポトトの言葉を理解できるのはスキルでしょうけど、それにしても余裕そうね……。私達って今、誰がどう見ても危機的状況なんじゃないかしら。
「よくやったな鳥。動物はレベルが低くても地のステータス……特に筋力が高いのがいいよなぁ」
頭上にいるポトトのレベルは分からない。でも事実として、男の言うようにポトトに押さえつけられた私もメイドさんも自由を奪われてしまった。
「俺のスキルは〈支配〉ってやつでなぁ。俺よりレベルが低い奴の行動を一時的に奪うことが出来るってやつだ」
こちらに歩いて来た男が私達を見下ろして勝ち誇ったように解説している。そう、これが彼ら召喚者の強みである固有スキル。魔族や魔王への対抗手段としてこの力を目当てに、各国はチキュウから人々を召喚することが多いわ。けれど、もちろんスキルはフォルテンシアに住む人々にも有効。
「メイドの方は無理そうだが、奴隷なら――」
そう言って男はポトトを操り、私を蹴とばさせる。
「きゃぁ――うぅっ……!」
地面を転がった私は男の足に当たって止まった。今の一連の出来事で、私の体力は残り12。もし草のクッションが無かったら、死んでいたかもしれない。己の貧弱さを痛感させられるわ。
「鳥にメイドを押さえつけさせてる間に……っと」
大剣を地面にさした男が私のみすぼらしい服に手を伸ばす。植物製の簡易な服だ。男の筋肉の前にあまりに無力なそれは、簡単に引きちぎられてしまった。
露わになる私の裸体。少し瘦せているけれど、体つきはきちんと女としての特徴を持っている。
「卑怯者! 男なら、持っていた剣を使って正面から勝負したらどうなの?! それともその剣はただの飾りかしら?!」
「良いな、その反抗的な目。俺が持ってる剣でこれからお前と“勝負”してやるから安心しな。どっちが先に逝くかってな」
皮肉なものね。自分についての知識は無いのに、なまじその他の知識がある分、彼の言っていることが分かってしまう。本当に笑えない冗談だわ。
何を言っても意味がないみたいだし、反抗も男を興奮させるだけ。どうしてこんな風になってしまったのかしら。召喚者もチキュウにいた“人間”。みんながみんな、こんな風ではないことは知っている。それは私に残されているフォルテンシアの歴史の知識からも分かること。
けれど、少なくともこの男はメイドさんが言っていた『外来者』にぴったりだ。強力なスキルを使って、これまでも多くの女性を泣かせてきたのでしょう。
「
不摂生で表面が白くなった舌を出した男が顔を近づけてくる。抵抗したくても、彼のスキルのせいか身じろぎひとつ出来ない。
……悔しい。何もできないなんて。
他人を何とも思わないこんな奴が自由に生きているなんて。
きっといつかは人々の恨みによって殺されることになるのでしょう。手ひどくやられてしまえばいいわ。けれど、それがいつになるか分からない。そうしている間に被害者は増えてしまう。その事実がとても、とても、腹立たしい。そのやるせなさが涙となってあふれ出そうになる、瞬間だった。
――『イチマツゴウを殺せ』
ふと聞こえた声と共に、言いようのない衝動が私を襲う。まるで世界が語りかけてきているような。多くの人々の想いが私の中に集約されていく。イチマツゴウ。その名前を聞いた時に浮かんだのは、目の前の男の顔。同時にこれは……彼にいいようにされた女の子たちが見た光景。
きっと今の私と同じで、抵抗すらできなかったのでしょうね。もし彼女達――被害者の女の子たちの感情も記憶と共に流れ込んできていたら、きっと私は壊れてしまっていたでしょう。それほどに、その光景は悲惨で、
――殺せ。
そうして命と尊厳を踏みにじって来た目の前の男を世界が、フォルテンシアが殺せと私に命じてくる。それは、この
「そう……そう言うことね。これが私、スカーレットの職業……」
「あ? 壊れるのはまだ早いぞ? これからが楽しいんだからよぉ」
股間部を
それは、フォルテンシアに生きるあらゆる命を管理するために与えられた力。世界にたった4人しかいない“神”と呼ばれる職業のうち、“死滅神”と呼ばれる者にだけ与えられる、絶大な力。その効果は、触れた対象の生命活動を停止させると言うもの。そう、その力の名前は、
「――〈即死〉」
フォルテンシアに
生きてきた証、その全てを一瞬で無に帰す私の事を古くからフォルテンシアではこう呼ぶわ。――
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