●マルード大陸にて

○気持ちのいい朝ね!

※お待たせいたしました。本日よりまた、可能な限り毎日更新を続けて行こうと思います。よろしくお願いします。

――――――――――




 メイドさんとの早朝の語らいを終えた、そのすぐ後。


『クックルー!』


 元気いっぱいに鳴いたポトトが、新しい朝を告げた。毎朝、彼女が運んでくれる新しい“今日”。似たような日はあっても全く同じ日は無い。ポトトの「おはよう」の声を聴くたびに、なんだか気が引き締まる思いだわ。

 寝室に居てもやることがないし、私はさっさと部屋着に着替えて居間へと下りる。そこには、元の大きさに戻ったポトトが居た。


「おはよう、ポトト! 気持ちのいい朝ね!」

『クックルー♪ クルールッル』


 昨日は、彼女も一緒に私の誕生日を祝ってくれた。背中に乗せていたユリュさんを、得意のつつき攻撃で叩き起こして、ね。……あれ、普通に痛いのよね。無警戒に攻撃を受けたら『体力』が50くらい減ってしまう。


 ――そう言えば、出会った頃。私はポトトに殺されかけたのだっけ……。


 ポトトとしては「どうしたの? 起きてー!」くらいの攻撃だったのでしょうけれど、私の体力は余裕で半分を下回っていたように思う。おかげで、色々と行動が制限された。


「あの、いろんな意味で衝撃的な出会いから1年も経つのね」


 メイドさんとの出会いの1周年だったのだとしたら、ポトト出会って1周年でもあるわけで。


「ポトト、いつもありがとう。これからも、よろしくね?」

『ルゥッ!』


 昨日お祝いしてくれた感謝も込めて、そこからはいつも以上に丁寧に、朝の毛づくろいをしてあげる。それにしても、昨日の高揚感が残っているのか、さっきから少しぽわぽわするわね。慣れない早起きをしたものだから、まだ寝ぼけているのかも?

 どこか地に足付かない感覚のまま、まったりとポトトのお世話をすること10分。調理場の奥、厨房の方からはもう既に美味しそうな匂いが漂って来る。くぅっとなったお腹が指示する方――調理場――へと向かうと、そこには朝食が乗ったお皿が並んでいた。

 今日の献立は、パンと、小太りのスィーリエを使ったサラダ、昨日の残り物でもあるナールのスープに筒状のパスタとスッラ豆を加えたものと、ピュルーの目玉焼き(ベーコン添え)の計4種類ね。


「美味しそう……!」

「あら、お嬢様。つまみ食いはいけませんよ?」


 口の中に唾が溢れるのを感じながら湯気を立てる朝食を見ていると、メイドさんが厨房から姿を見せた。


「む、失礼な従者ね。さすがの私も、あと5分くらいは我慢できるわ?」

「なるほど。ではお嬢様が我慢できなくなる前に、よろしければサクラ様たちを起こしてきて差し上げてくださいませんか?」


 そう言って、魔法道具『オーブン』の前でパンの焼け具合を確認し始めるメイドさん。私としては、もちろん、断る理由がない。みんなで食べた方が、ご飯は美味しいものね。胸の前でこぶしを握る。


「ええ、任せて!」

「……あと、よだれも拭いてくださいね」

「はっ?! じゅるり……。それじゃあ、行ってくるわ!」


 昨日のお誕生日会でたくさん食べたからかしら。空腹でも、不思議とやる気がみなぎっている。全身の血もトクトクと脈打っていて、少し体も熱い。だけど、まだメイドさん以外にはきちんとお礼を言えていない。早くみんなを起こして「ありがとう」を言わないとね。

 浮足立っていることを自覚しながら、私は寝室がある2階へと続く階段を駆け上がる。


「んふ♪ もし誰かの寝覚めが悪いようなら、優しく接吻せっぷんでもして差し上げればきっと飛び起き――」

「そうね! 昨日のお礼も込めて、そうさせてもらうわ!」

「――……え? お嬢様?」


 メイドさんからのありがたい助言を背に、私は居間兼食の間を後にする。ふわふわする足取りで、自分の寝室へ。案の定、そこにはまだスヤスヤ眠っているサクラさん達の姿があった。


「えへへ! 誰から起こそうかしら!」


 寝起きが良い順で言うと、ユリュさん、リアさん、サクラさんの順番だ。もちろん、場合にもよるわ。例えばユリュさんは夜に起こそうとしても全く起きないし、サクラさんは翌朝に予定があったりしたらきちんと目を覚ます。

 とは言え、今日はそのどれにも当てはまらない。ちゃんと朝だし、サクラさんにも予定はない。つまり……。


「つまり?」


 うーん、考えがまとまらないわ。だけど、とりあえず、みんなを起こさないといけないことは分かる。


「……まぁ、ユリュさんからでいっか!」


 私はベッドに上がって、布団の中、丸くなって眠っているユリュさんに這い寄る。子供らしく、あどけない顔、きめ細かで張りのある肌、なのに妙に柔らかい。お口は小さくて唇の厚さも薄い。色は淡いピンク色だけど、体温が低いから少し青みがかっている。

 こんなに小さくて可愛いのに、器用に呪文を使いこなして。私よりも強いんだから、驚きよね。残念ながら彼女の愛情表現には応えてあげられないけれど、昨日祝ってくれたお礼はしないと。

 ポトトの上で気持ちよく眠っていたところを叩き起こされたらしいユリュさん。最初こそ精一杯お祝いしてくれたけれど、10分もすればまぶたを重そうにしていた。それでも懸命に、最後まで会に付き合ってくれた。


「まだ知り合って日は浅いけれど、あなたの無邪気さにはいつも救われているわ。だから……」


 私はユリュさんの小さな身体に覆いかぶさる体勢をとる。そして、紺色の髪の間にのぞいているユリュさんの小さな額に口づけた。


「ユリュさん、起きて? 朝よ?」

「あ、ぅ……」


 小さく吐息をこぼしてから、目を覚ましたユリュさん。私は彼女に覆いかぶさった姿勢のまま、紺色の瞳と至近距離で見つめ合う。耳にかけていた私の黒髪がひと房、ユリュさんの頬を撫でた。


「スカーレット、お姉ちゃん……?」

「ええ、おはよう。お寝坊なあなたには、お仕置きね」


 私はユリュさんの柔らかな頬に口づける。すると、今度こそ「はわっ?!」と叫んだユリュさんが跳び起きる。さすがの私も、彼女の行動がある程度予想できるようになった。ユリュさんが身を起こす直前に、そっと距離をとっている。おかげで、おでこをぶつけるようなことにはならなかった。


「なっ……なっ?!」


 顔を真っ赤に、耳ヒレをピンと広げて、布団を抱き寄せるユリュさん。おかげで彼女の両脇で眠っていたサクラさんとリアさんが布団からはみ出て、寒そうに身を縮こまらせていた。


「ふふ、慌てちゃって。可愛いわ、ユリュさん。昨日はありがとう。大好きよ?」

「わ、わわ、わわわ……っ。……きゅう」


 起きたはずなのに、すぐにまた眠ってしまったユリュさん。……まぁ、お礼は言えたし、あとでまた起こしましょう。


「さて……。次は、リアさんね」

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