○手がかりは……“武器”?
「「すみませんでした!!!」」
メイドさんとサクラさん。2人の、三つ指をそろえた美しい土下座が、ベッドに座る私の足元で行なわれていた。
「……まさか、1日で3人の土下座を見ることになるなんてね」
「なるほど。ユリュが土下座を出来るとは思えないので、リアも同じように暴走したのですね?」
土下座をしたまま、メイドさんがおおよそのことを察してくれる。
「なんて言うか、ね。こう、そういう匂いを嗅いじゃったら、ムラっとしたというか、なんと言うか……」
サクラさんの方は、
「あなた達も、あれかしら。昨日フィーアさんに会ってから、むずむずしていたとか?」
「あ~……。うん、言われてみれば、そうかも」
「
「あ、確かに! そっちのが正しい! わたしも『リアさん達とよろしくやってたのかな』って思ったら、なんか止まらなくなっちゃった!」
頭を上げたサクラさんが、メイドさんの方を見て笑顔を見せる。
「サクラさん。私まだ、許してないのだけど」
「はい、
再び地面と頭で「こんにちは」をしたサクラさん。……本当に、調子がいいんだから。私は、この場において唯一信頼できるポトトを膝の上に乗せながら、2人を見下ろす。
「まぁ、ね。リアさん、ユリュさんがああなった時点で、私もこうなる可能性について思い至るべきだったんだわ」
「お言葉ですが、そんなことはありません。これは
「ちょっ、確かにそうだけど! わたしを
「……(ぽっ)」
「あっ! そこで赤くなるな! ずるい! マウント、ずるい!」
「最高でした」
「感想を、語るな~!」
きゃいきゃいと。口調や表情こそケンカ腰だけど、それはもう楽しそうに話す2人。本当に反省してくれているのかしら。これでも私、結構いろいろと覚悟をしていたし、怖かったのだけど。
「はぁ~~~~~~……」
「「(びくっ)」」
私の溜息で、再び土下座の体勢をとるメイドさん達。
「まぁ、これもフィーアさんに会ったから起こってしまった、言わば事故みたいなもの。終わったことだし、良しとしましょうか」
多分、誰も悪くないのよね。フィーアさんの雰囲気にやられたみんなも、フィーアさん自身も。言ってしまえば、仕方のないことだったのだと思う。それでも悪者を作ろうとするなら、隙を
「だから、この話はここでお終い。そんなことよりも、2人には聞いて欲しいことがあるの」
土下座を止めさせて、話し合いができる体勢をとってもらう。
「実は、“異食いの穴”のことで思い出したことがあって……」
ユリュさんとリアさんが作ってくれた夕食を頂いた後。食後の紅茶を飲みながら、私が今日見た夢についてメイドさん達を交えて話し合う。ユリュさん達への説明も兼ねてもう一度、夢の内容を語り終えたとき。
「なるほど……」
そうつぶやいたのは、メイドさんだった。
「恐らくですが、ドア枠の文言、リズポン、職業衝動など、いくつかの要因がお嬢様の中で重なって、記憶のフタを開いたと言ったところでしょうか」
レベルの喪失と違って、完全に記憶が抜け落ちていたのではなく、あくまでも記憶にフタがされていただけではないかと語るメイドさん。その記憶のフタが、異食いの穴に関する情報を集め続けたことで開いたということね。
「いずれにしても、お嬢様のおかげで現状、
「私たちが、やるべきこと……?」
「はい。それは、ただひたすらに、サクラ様を強くすることです」
そこからメイドさんが話してくれた内容を要約すると、こうだ。
まず文字通り最大の壁になるのが、恐らく召喚者だけを通す透明な壁の存在。フィーアさんにリズポンを倒すことの出来る存在を生んでもらっても、その壁を突破できない可能性が高い。最悪の場合、リズポン側に寝返る可能性もある。
「だから、フィーアさんに強力な生物を生んでもらうのは、無し……?」
「はい。それに、そのような特異な生物を、魔王が居ない今、生むことができるかどうか……」
ともすればフォルテンシアを乱す存在になりかねない。そんな強力な生物を、生誕神が生み出すかも怪しいと語るメイドさん。職業衝動による待ったがかかる可能性が高いわけね。
じゃあどうするかと言うと、結局、召喚者であるサクラさんを強化することが現状の最善手になるのだとか。
「でも、待って、メイドさん。リズポンに単騎で勝とうとすると、それこそレベルが90くらいないといけないんじゃない?」
そして、レベル90と言えば300年を生きたあのギードさんと同じくらいのレベルになる。つまり、途方もない時間と労力が必要になるということ。
「そうですね……。サクラ様も、確か〈加護〉のスキルをお持ちでしたね?」
「ぅえ?! あ、うん。持ってます、持ってます」
「……ちゃんと話を聞いていますか? あなたのために、お嬢様は頑張ってくれているのですよ?」
心ここに在らず、と言った様子のサクラさんを、メイドさんが強めにたしなめる。
「そう、だよね……。わたしを、チキュウに帰すため……。うん、ごめんなさい! 話の続き、お願いします!」
自分の頬をパンと叩いて、気合を入れ直したらしいサクラさん。彼女の言葉を受け取って、メイドさんが話しを再開する。
「サクラ様には、倍率で〈ステータス〉を強化する“勇者”が持つ〈加護〉とは違う、実数値で強化する〈加護〉があります。レベルを上げれば、スキルの性能も大きく上がるでしょう」
「とは言っても、もうサクラさんは相当なレベルでしょう? ここからレベルを上げようとなると、やっぱり時間がかかるじゃない」
「はい。なので、レベルを上げるのは当然として、もう1つ。剣の扱いに習熟してもらいたいと思っています」
「剣? どうして……?」
尋ねた私と同じ疑問を、サクラさんも持ったのでしょう。彼女の茶色い瞳と目が合って、お互いに首をかしげ合う。サクラさんの固有スキルは〈弓術〉。弓を使うことにかけて、フォルテンシアでは他の追随を許さないほど、強力に成長する素養を持っている。だったら、弓の扱いを極めたり、テレアさんに強力な弓を作ってもらったりするのもありだと思う。
「というより、待って。創造神テレアさんに、リズポンを倒せる武器を作ってもらうのはどうかしら?」
人や生物がダメなら、特別な武器を作ってもらって倒してみるのはどうか。我ながら名案だと思ったのだけど……。
「打診をしてみるのは、ありかも知れませんね。ですが、やはり、フォルテンシアのためになるかと言うと」
「それも、そうね。リズポンを倒した後も、フォルテンシアの害になりかねないし……」
「はい。ですが、お嬢様のその着眼点、お見事です」
その着眼点……。つまり、生き物ではなく、武器でどうにかしようということ?
「そ、そうかしら? ふふ、そうでしょう?」
「あ、ひぃちゃんが調子に乗ってる」
ジトリとした目をサクラさんが向けてくるけれど、あのメイドさんが褒めてくれたんだもの。どうしても、気分が高揚してしまう。
「そんな優秀なお嬢様は当然、もう
「ふん、ふふーん! ……ん?」
「そうでしたか、まさか気付かれていたとは……。さすがは、
何やら私が全てを悟ったみたいな空気が出てしまっている。慌ててまだ何も分かっていないと言おうとした私の口に、だけど、私の理性が待ったをかけた。
――もしここで何も分かっていないって言ったら、またメイドさんをがっかりさせてしまう……?
多分、メイドさんのこの口ぶりだと、もうすべての手がかりは出尽くしているということ。これまで私が見聞きしてきた情報の中に、サクラさんが、リズポンを倒す手立てがあるということ。だったら、少し考える時間を貰えれば、正解にたどり着けるんじゃないかしら。
「と、当然よ。私を誰だと思っているの? 死滅神、スカーレットよ!」
「死滅神様、かっこいいです!」
ユリュさんの純粋な称賛が心に刺さるけれど、言ってしまったものは仕方がない。
「……本当に、分かっておられるのですか?」
「ひぃちゃん。余計な見栄張ると、あとで後悔するって、わたし知ってる」
メイドさんの心底驚いたという顔と、サクラさんの呆れ顔があるけれど、大丈夫。だってもう、手がかりは揃っているはずだから。
「スカーレット様。サクラ様の剣の修行。そして武器という着眼点。でも、新しい武器は作れません。あとは、リアが聞いたスカーレット様たちの旅路が手がかりになるはずです」
これまで黙って会話に耳を澄ませていたリアさんが、改めて手がかりを整理してくれた。もしかしたら、リアさんはもう、答えにたどり着いているのかも。
「ふん! 見くびってもらっては困るんだから!」
最悪、リアさんに教えてもらうことも覚悟しながら。私は、レベルの低いサクラさんが、規格外のステータスを持つ“魔王の友”リズポンと戦うすべについて、考えることにした。
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