○下着も、脱がせるわよ?
アイリスさんによる「お
「い、行きます!」
未だ震える手で握った剣を手に、突貫するサクラさんを軽くいなして、
「全然、力が入ってませんよ、サクラちゃん! そんな攻撃だと……ふぅっ!!!」
ほとんど手加減のない、強烈な斬撃をサクラさんに叩き込む。
「ふんぎゃっ?!」
途端に、情けない悲鳴を上げるサクラさん。彼女はそのまま、剣を叩きつけられた脇腹を押さえてうずくまる。
「さ、サクラさん! ポーションよ!」
「うっ……。ありがと、ひぃちゃん……」
手負いのサクラさんのもとへ、私が急いでポーションを届ける。
最初にアイリスさんを斬って以降、サクラさんはアイリスさんに一度も攻撃を当てることが出来ていない。その理由は明白で、サクラさんが力もなく、精彩を欠いた攻撃をしているから。そんな攻撃をアイリスさんがいなして、サクラさんを痛めつける。2人の間に最初の仕合で見せていた笑顔はもう無くて、アイリスさんは淡々と。サクラさんは怯えた顔で、剣をぶつけ合うようになっていた。
そんな、もはや一方的な打ち合いが、2時間以上。
「ぷはぁ……。よっし、もう一回……」
「サクラさん……」
明らかに顔色が悪いサクラさん。それでも諦めないで立ち上がろうとする。剣も、心も折れていない。『体力』だってポーションで回復している。だけど、目には見えない気力の方が限界のようだった。
「あ、れ?」
剣を支えにして立ち上がろうとしたサクラさんの膝が、カクッと折れる。そのままぺたんと庭にへたり込んでしまったサクラさんは、呆けたように目を
「……今日はここまでにしましょうね、サクラちゃん?」
「ま、まだ……。まだ……っ」
立ち上がろうとして立ち上がれない。そんな自分が情けないのかもしれないわね。アイリスさんの言葉に食い下がろうとするサクラさんの目には、薄っすらと涙が浮かんでいた。
『ルゥ……』
珍しいサクラさんの様子に、ずっと庭で鍛錬の様子を眺めていたポトトが心配そうに寄り添っている。
「『ダンジョンには十二分の準備をして挑め』。焦らないことが目的の近道になることだって多いんですよ?」
ギルド職員にぴったりな故事を言いながら、アイリスさんがサクラさんをなだめる。
「それに、ほら。リアちゃんが、頑張っているサクラちゃんのために晩ごはんも作ってくれています」
「……クンクン。ほんとだ、良い匂い」
「うふふ、でしょう? 今日はご飯をたくさん食べて、また明日、頑張りましょう」
アイリスさんの説得に、ようやくサクラさんが首を縦に振る。
「じゃあ私はリアちゃんのお手伝いをしてくるので、スカーレットちゃんはサクラちゃんとお風呂に入って来てくださいね」
「――っ! ええ、任せて!」
ようやく、私にもできることが見つかった。それが嬉しくて、思わず声が大きくなってしまう。立ち上がれないらしいサクラさんを横抱きにして、いざ! 私は邸宅内の大浴場へと歩を進める。
「ちょっ、ひぃちゃん?! この年になってお姫様抱っこは恥ずい!」
私の腕の中。顔を真っ赤にして、手足をばたつかせるサクラさん。……でも、残念ね。
「ふふんっ、実はこれ、一度やって見たかったの!」
メイドさんによくしてもらっているこの抱っこ。やっている方は一体どんな感じなのか、前々から知りたかったのよね。好奇心のまま、私は腕の中に収まっているサクラさんを見遣る。……思ったより距離が近いわね。ほんのりと、サクラさんから土と草と汗の臭いが香るくらいには近い。
サクラさんの温かさ、柔らかさ、重みも、腕からしっかりと伝わって来る。案外、抱き合っている時よりもしっかりと「サクラさん」を感じられる気がするわ。それに、なんというのかしら。
「うぅっ、ひぃちゃんの意地悪……」
さっきまでの悔しさと恥ずかしさで涙目のサクラさんの可愛い顔を見ていると、征服感のようなものが、湧き上がってくるわね。
――お姫様抱っこ……。言い得て妙ね。
お姫様を抱く王子様も、こんな気持ちなのかしら。
「抱かれ心地はどうかしら?」
「だ、抱かれ心地?! う~ん、わ、分かんない……。ただただ、恥ずかしい」
抵抗を止めて素直になったサクラさんを、脱衣所に置かれた丸椅子に座らせる。
「それじゃあ、服も脱がせてあげる――」
「これ以上はいい! 大丈夫! 自分で出来るから!」
「そう? 無理そうならすぐに言ってね、手伝うから」
一応それだけ言っておいて、私もさっさと室内着を脱ぐ。着ていたのは、Tシャツと肌触りの良い肌着、ズボン、黒い下着だけ。30秒もあれば、素っ裸になれるわ。と、脱衣所にある洗面台に映った自分の身体は、やっぱり、少しだけ貧相。
――もう少しこう、大きさがあればね……。
身長と一緒でなかなか成長してくれない2つのふくらみにため息をついて、私はお風呂場へと向かう。扉の横に常備されている身体を洗うためのタオルを取って、曇り加工がされたケリア鉱石製の引き戸を開けようとした時。
「ひ、ひぃちゃん!」
背後から、サクラさんが私を呼んだ。どうしたのかと振り返ってみれば、彼女は服どころか皮鎧も着たままの姿で、丸椅子に座っていた。
「どうしたの? 早く入りましょう?」
「う、うん。そうなんだけど……」
もじもじ、もじもじ。俯いて、ためらう素振りを見せるサクラさん。
「……まさか、本当に服が脱げないの?」
私の問いかけに、サクラさんは小さく頷いた。
「ご、ごめん。剣振り過ぎて、腕上がらない……」
その言葉を証明するように、サクラさんの腕は身体の横に垂れたまま、ピクリとも動かない。まぁ、考えてみれば。ほとんど休憩も無しに2時間近く剣を振っていたんだものね。足は当然として、腕の方もとっくに限界だったのでしょう。
「もう、仕方ないわね」
「め、面目ない……。体力には自信あったんだけどなぁ」
丸椅子の上で項垂れるサクラさんの鎧と服を引っぺがしていく。でも、これが案外難しい。鎧は留め具を外すだけだから良い――。
「クンクン。サクラさんの汗の臭いね」
「嗅ぐな! ばかひぃ!」
――わりと本気で怒られたわ。シャツも肌着も、
「深堀りは厳禁ね」
「イテテ……」
「あ、ごめんなさい」
なるべくサクラさんの筋肉痛を刺激しないようにしながら、まずは上半身だけ下着姿になってもらった。続いて下半身。服と違って、ズボンは結構簡単に脱がせることが出来て……。
「一応確認するけれど、下着も脱がせるわよ?」
「お、おうよ……」
「ふふっ、何よ、その返事!」
見たこと無いくらい顔を真っ赤にするサクラさんの下着も脱がせる。その間、サクラさんは顔を手で覆って隠していた。……同性なんだし、これまで何度もお互いに裸を見せている。いまさら恥ずかしがることでもないでしょうに。
「立てる?」
顔を隠したまま弱々しく頷いたサクラさんを連れて、私はお風呂場へと向かう。腕が上がらないということは、頭も体も洗えないということ。
「ふふんっ! 頑張ったサクラさんの身体に、精一杯ご奉仕させてもらうから!」
「言い方! ほんとに、この子は、もうっ! ……ふふ、あははっ!」
文句を垂れたり、急に笑ったり。忙しいサクラさんの青あざだらけの身体を、私は泡を使って丹念に
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