○明かされる真相

 1日ぶりにポトトが帰って来て、家族を紹介してくれた。しかも、家族と話し合った結果、両親公認で旅に同道してくれることになった。これで、晴れて彼女ポトトは自由の身。私たちも胸を張って、ポトトと一緒に居られるわね。


「朝ごはんの時間だし、折角ポトトのご家族がいるんだもの。メイドさん、なるべく良い野菜をあげられないかしら?」

「餌付け、ですね?」

「ち、が、う、わ! 死滅神として、娘さんを預かる者としてのおもてなしよ」


 死滅神として。その名前を使えば、従者であるメイドさんは手を抜けない。彼女の不手際はそのまま、主人の不手際になる。誇り高いメイドさんがそれを許すはずがない。


「……御心みこころのままに♪」


 そう言ったメイドさんが作ってくれた料理と、丁寧に下処理された野菜をポトト達と頂く。さすがはメイドさんで、ポトトのご家族もおいしそうに野菜を食べていた。それこそ、私の想定以上に。

 結果、この先ポトトが食べる分を残して、野菜はほとんど無くなってしまった。後悔は、無い。無いけれど、しばらく具のほとんど無いスープを食べることになりそう。


「それにしても、ポトトは本当にいろんな出会いを運んでくれるわね……」


 恐らく最後になるだろうたっぷり野菜の入った甘酸っぱいスープで温まりながら、一息つく。今日はティトとピーラを主としたピンク色のスープだった。


「メイドさん。眠っている私を最初に見つけたのはポトトだけど、あの時のこと、聞いたことは無いの?」


 尋ねた私を、輝く緑色の宝石のような目で見るメイドさん。口に含んでいたものを飲み込むと、そっと口を開いた。


「そう言えば、ありませんね。確かに、ポトトは他の鳥類に比べて脳が発達しています。可能性はあるかと」

「聞いてみてくれない?」


 私の頼みに頷いたメイドさんが、ポトトとその家族に聞いてくれる。……そろそろ本気で白黒ポトトの名前を考えてあげたいわね。だけど、『ポトト』以上にしっくりくる名前が無い。


「ひぃちゃん、考え事?」

「あら、サクラさん。もう大丈夫なの?」

「まぁね。ご心配をおかけしましたっ」


 両膝と指を付き、深々とお辞儀をしたサクラさん。誠心誠意謝ったりお願いしたりする時に使う、土下座ね。さっきまでポトト達全員の羽毛を堪能していた彼女。その甲斐あってか、声色も顔色も、どちらも元通りだった。ついでに、黒い羽の父ポトトがスルスル、赤白羽の母ポトトがスベスベ、白黒の娘ポトトがモフモフ、灰黒の弟ポトトがふわふわ、らしいわ。


「それで、悩みごと?」

「ええ。ポトトに名前をつけてあげようと思って」

「う~ん、いまさら感がすごい……」


 本当に、そうなのよね。むしろ最初にどうして名前をつけようと思わなかったのかしら。あ、それは私が自分のことで精一杯だったってことね。……今もあまり変わらないような気もするけれど。


「“ポトト”って響きが可愛いから、このままでもいい気もするな~」

「まぁ、そうよね。……そうなのよね。だけど、名前をつけてあげたいの」

「『名は体を表す』、だもんね」


 名前がその人を表す。確かに、サクラさんは花のような人だし、メイドさんなんてそのままだものね。メスだから女の子っぽい名前にしたいし、そのうえで『ポトト』以上に良い名前。

 うんうん唸っていると、ポトト達から事情を聴き終えたメイドさんがやって来た。随分と時間がかかっていたけれど、込み入った話でもあったのかしら。


「結論から申し上げますと、お嬢様はポトトのお母様の背中から転げ落ちたようです」

「……は?」


 もちろん、詳しく話を聞く。すると、そこからは涙なしには語れない波乱万丈の鳥生じんせいがあった。

 母ポトトの話によると、彼女はもともと、鳥車の引手ひきてとして丁寧に養殖された箱入り娘だったらしい。しかし、ある日、養殖場に賊が侵入。母ポトト以外を惨殺して、彼女には鳥車を引かせていた。


「手を抜くと仲間のように殺され、売られてしまう。彼女は一生懸命働いたようです」


 鳥車の引手として働くこと3年。卵を産むようになった彼女を、賊は大切にし始めたそう。抜けた羽は高く売れるし、卵も美味しい。基本的に定住しない賊にとっては、貴重な食料・収入源だったのでしょうね。


「そうしてある日、お母様ポトトの主人である賊がとある商会の荷馬車を襲ったのです」

「……まさかそれが?!」

「はい、恐らく、文天商会だと思われます。その襲撃の際の戦利品が“完成体”……休眠状態のお嬢様が入った箱なのだと思われます」


 持ち運びやすい金品だけを強奪した賊は、だけど、最後まで御者が守ろうとした“何か”が入った大きな箱を捨て置けなかった。人では担げないそれを母ポトトにくくり付けて、移動した。


「その帰り道。ついに、彼女は出会ってしまったのです」

「出会った? だ、誰に?」


 気づけば私もサクラさんも、メイドさんが話す母ポトトの経歴に聞き入ってしまう。コクリと唾を飲んだ私たちの前で、メイドさんはその人物の名前を口にする。


「運命のひとに」

「わ~っ! ってことは、もしかして?!」


 黒い羽を持つ父ポトトを見ながら黄色い声を上げたサクラさんに、メイドさんが深く頷く。


「はい。『賊を蹴散らすこの方が格好良かった』と、熱く語っておられました」

「ちょっと。そんな話より、私が入っていただろう箱はどうなったの?」

「ちょっと、ひぃちゃん。今盛り上がるとこっ! 一番いっちばん盛り上がるとこっ!」


 聞き入っていた理由が私とサクラさんで違ったみたいだけど、大切なのは私がどうなったのかでしょう?


「お母様も“運び屋”だった。と言うよりは、私たちと一緒に居たポトトがその職業ジョブを継承したのでしょう」


 別荘で見た親から子へ職業が遺伝しやすいという話ね。


「レベルを上げるには何かを運んでいれば良い。であれば、ちょうど背中に良い物を背負っている」

「え、そんな軽い理由で私って運ばれていたの?」


 聞いた私に、メイドさんは首を振る。どちらかと言えば、ポトトの手足では背中にある箱の紐を取ることが出来なかったからでは無いか、とのこと。レベルも上がるし無理に取る必要も無かった、と言うことね。


「そのまましばらく放浪した後、住み心地の良い……繁殖しやすいこの森にたどり着いたわけですね」

「メイドさん。わざわざ言い直さなくて良いわ」


 そうして娘ポトト、私たちのポトトが生まれてからしばらくして、事件が起きる。


「あれは、そう。ナールが一番丸くなる月の中頃。久しぶりに励んでいた際、突然降り出した冷たい雨。もとから風雨によって傷んでいた紐はついにちぎれ、箱が落ちてしまったのです……」


 メイドさん、ノリノリね。別に、良いけれど。むしろ意外な可愛らしい一面が見られて嬉しいわ。それはそうと、いくら私が入っているって知らなかったとはいえ、ポトト達は何かを背負いながら行為が出来たわね。結果、なんだか私が2人の愛を覗いていたみたいになってるじゃない。ポトトの両親に対して私はこれからどんな顔をして会えばいいの?


「けれども2人は愛し合った後の放心状態。加えて、娘が雨に濡れていないか心配……。急いでねぐらにしていた木のうろに戻ります。娘を温めながら迎えた翌朝、気付いた時にはもう背中に箱が無かったのです……」


 ポトトが散歩をしながら探していたのは、その時に落ちた箱だった、と言うわけね。


「最後の方がちょっと生々しかったですけど、つまりその時にひぃちゃんが落ちた、と?」


 サクラさんの問いに、しかし、メイドさんは首を振った。

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