○side:S・S

 わたしは千本木桜せんぼんぎさくら。日本の東京、世田谷で普通の女子高生をしていた、17歳。

 昼休み。幼馴染で大親友の雨色雫あましきしずくと昼食を済ませてお手洗いに行ったら、足元が光って――気付けば知らない森の中でした。


「……ぅえ?!」


 それはもう、驚いた。瞬き1つでよくわからない場所に放り出されていたんだもん。

 もう感情はごっちゃごちゃ。ここはどこ? ていうかトイレは? わたしは誰? っていう感じ。あ、最後の質問は答えられるね、わたしは千本木――。


「――って、そうじゃなくて!」


 1人であれこれ考えてみたものの、よくわからない。ひとまず現状確認だよね。そう思って周りを見渡してみる。と言っても、霧のせいで見えるのは足元のぬかるんだ地面。そして、細くて白っぽい、背の高い木があるくらい。修学旅行先の北海道で見た白樺しらかばに似てなくもないけど、こんなに背が高かったっけ? 植物に詳しいわけじゃないから、分からない。ていうか、女子高生に分かるはずもない……よね?


「あれ、わたしが無知なだけ?」


 ……でもでも、こうして息を吸って吐いてが出来ているから、酸素があることぐらいは分かる。それぐらいの常識は持っていて――。


 ヌチャ。


 1人で全く意味のないことを考えていた時。背後から湿った土を踏む音が聞こえてきた。もちろん、振り返る。怖いから振り返るって、今思うと変だな¬~、なんて考えていたら、そこには犬……と言うには獰猛そうな灰色の毛を持つ狼が居た。


『グルルルル……ッ』


 低くうなり声をあげながら、わたしを鋭い目つきで見上げてる。

 不思議なもので、自分を害そうとする動物を見たとき、こう、よくわからないぞわっとした感覚が襲ってくる。例えば、家で黒光りする昆虫を見たとき、とか。ともかく、こういう時、少なくともわたしの本能がとる選択肢は1つ。迎撃? ううん、違うよ。そう、逃走――。


『ガウッ!』

「わわわっ!」


 身のすくみそうな声で鳴いた狼たちが一斉に飛びかかってきた。すんでのところで転身し、駆け出したわたしのすぐ後ろで地面を踏みつけたような音がした。……こわっ!

 そこからはもう全力で逃げる。もし上履きじゃなくてローファーのままだったら、絶対にここまで走れなかったよね。

 狼たちはつかず離れずの距離を保ったまま、追いかけてくる。弓道部の練習のおかげで、体力測定で全国平均ちょっと上までは体力があるわたし。まさかこんなところで体力づくりが役に立つなんて……。


――部活しててよかった~。


 そんな安心も束の間。すぐに、限界がきた。徐々に足が動かなくなって、心拍数と一緒に息も上がる。そんなわたしを急かすように、試すように、狼たちがじりじりと距離を詰めてくる。……あれ、もしかしてわたし、狩られそうになってる?


「いや~~~! 来ないで~~~!」

『『ワォーーーン!』』


 それはもう、全力で叫んだ。それはそうだよ。いきなり見ず知らずの地でサバイバル。そんなのバラエティでしか見たことない。しかも、コンプライアンス的に、あれにも絶対、脚本があるはずだし――。


「って、うわぁっ!」


 1匹の狼が横から飛びかかって来たのを、必死で足を前に動かして避ける。でも、もう、限界……。一縷の望みをかけて、全力で声を張る。


「たっ……た~す~け~て~!」


 疲れも相まって、間抜けな声になっちゃった……。でも、その時。

 人の話し声みたいなのが聞こえた。……人が居る! なんだかそれだけで、もう少し頑張ろうってなるから不思議。最後の力を振り絞って、足を必死で動かす。走って、走って、後ろにいる狼をちらっと確認して前を向いたら、


『ク……、クルッ!』


 突然、見たことも無い大きさの、真っ白でモフモフな鳥が、私の正面に立ち塞がっていた。今の私は全力疾走。足元はぬかるんだ地面。もちろん急に止まれるはずも無くって、


「え、待って待って――うぶっ」


 フッカフカの羽毛に突っ込んだ。これで私の逃走劇は終了。同時に、人生も終了だ。人なんか簡単に食べられそうな大きいくちばしで食べられる。もしくはこの鳥ごと狼に持っていかれる。


――人生終わった。


 そう、思ってたんだけど……。


『クルッ?』


 鳥が器用に後ずさりをしてわたしから身を離した。何事かと周囲を見てみると、狼は居なくなっている。そして、目の前にいるでっかい鳥がつぶらな瞳でわたしを見ていた。


「え、もしかして助けてくれたの?」

『クルッ♪』


 黒い羽を広げて嬉しそうに鳴いたこの鳥のシルエット。どこかで見たような……。確か、しおりがインスタで……。


「そう! シマエナガ!」

『クル? クルルク クルルクク?』


 首をかしげて鳴いている鳥は、とっても可愛い。と、巨大シマエナガちゃんが歩き出した。どうしようもないから一応、ついて行ってみる。だけど、ちょっと歩いたところでシマエナガちゃんが立ち止まった。周囲を見渡している?


「どうかしたの?」

『クルールッル……?』


 私が聞いてみても上の空。と言うより、今思えば、言葉が通じるわけもないよね。動物に話しかけるなんて、わたしイタすぎ……。


『クックルーーー!!!』

「いきなりどうしたの、シマエナガちゃん?!」


 耳をつんざくような声で何度も鳴き始めたシマエナガちゃん。やめてやめて、他の動物たちが来ちゃう……ほら、何か走って来た。もう追いかけっこできるだけの体力は――。


「――女の子?」


 キューティクルが綺麗な真っ黒の髪の女の子が、霧の向こうから駆けてくる。あ、転ぶ、と思ったけど、どうにかこらえたみたい。そのまま、一直線にわたし……と言うよりはわたしの隣にいるシマエナガちゃんに向かって行って……。


「ポトトぉ!」


 涙声で言って、シマエナガちゃんに抱き着いた。そのまましばらく、肩を震わせて泣いていた女の子だったけどしばらくすると落ち着いたみたい。人並みには空気が読めるわたしはそのタイミングで、声をかけることにした。


「あ、あの~」

「……何かしら?」


 日本語? カラコンをしてるのかルビーみたいな赤い瞳をしてるけど、日本人っぽいし言葉は通じるみたい。良かった!


「そろそろ泣き止みまし――」

「泣いてない!」

「は、はいぃっ」


 この時のスカーレットちゃんの第一印象はとってもきれいなお人形。次に、ちょっと背伸びしたい年頃の女の子。それから超絶、服がダサい。最後に『怖い』だった。絶対年下なのに、敬語が出るくらいには。

 後に会ったメイドさんよりも、だよ。もっと深いところで、わたしはスカーレットちゃんを『怖い』と思ったんだ。こんなに可愛らしいのに、どうしてって思ったことを覚えている。まあその理由はすぐに分かっちゃったんだけどね。




名前:センボンギサクラ

種族:人間(チキュウ) lv.1  職業:―

体力:31/300(+10)  スキルポイント:67/120(+2)

筋力:50(+1)  敏捷:50(+1)  器用:50(+2)

知力:50(+3)  魔力:50(+2)  幸運:1(+1)

スキル:〈ステータス〉〈環境適応〉〈加護〉〈弓術〉〈空間把握〉

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